第二百十八話 絵を描いた者
大変長らくお待たせいたしました!
今日から第七部開始です!(`・ω・´)ゞ
そしてお知らせです!
出涸らし皇子の第二巻が1月1日の発売に決まりました!
さらに12月25日からヤングエースUP様で出涸らし皇子のコミカライズが連載開始です!!( *´艸`)
年末は忙しいぜ!!
レティシアが攫われ、レオが旅立った日の夜。
俺は一人で後宮を訪れていた。
「――というわけですので、有事の際にはクリスタたちと避難できるようにしておいてください」
「というわけでと言われてもねぇ」
俺とレオの母である第六妃ミツバにそう伝えると、微妙な返事が返ってきた。
「俺の話を信じてませんか?」
「信じているわよ。ゴードンが反乱を起こすというのはない話じゃないわ。狙うなら祭りの最終日、つまり明日でしょうね」
「ええ、明日は闘技場で武闘大会です。父上も含めて、多くの者が城を離れます。反乱ならそのときが狙い目でしょう。城を占拠できれば父上の選択肢を大きく制限できますからね」
帝剣城は帝都防衛の要だ。
まず一つに強固な城である。籠れば数か月は余裕で耐えられる城である帝剣城を奪えば、父上に長期戦という手段を取られずに済む。ゴードンがどこまで軍を掌握しているかだが、すべての軍を掌握しているわけではない。長引けば援軍が来てしまう。
そして二つ目に帝剣城は帝都を覆う巨大結界を発動させるカギでもある。
大結界・天球。
帝剣城を中心に巨大な球状結界で帝都全体を覆う魔法だ。
この魔法は分類としては古代魔法に近い。古代の書物にあった魔法を再現したものだからだ。といっても、本来は人が行使する魔法を巨大建造物と高純度の宝玉で代用しているわけだから劣化といえば劣化だ。
それでも発動すれば外からの侵入は決して許さない。まぁ全力発動の場合だが。
この結界を作る過程で大量の古代魔法に関する書物が帝国には集められた。爺さんや俺はその書物を使って古代魔法を会得したわけだ。中には爺さんが集めたものもあるが、大半は当時集められた物ばかりだ。
この天球を発動させられると俺でも外部との行き来ができない。その懸念があったため、帝都に残ったわけだ。
「そう上手くいくかしら?」
「現在の混乱状態なら可能性はあります」
「そうね。それは同意よ。私が問題にしているのはゴードンが成功させられるかしら? ってことよ」
「どういう意味ですか?」
「昔ならいざ知らず、今のあの子は他人の言うことに耳を貸さないわ。力押しを好み、綿密な計画とは無縁でしょう? あの子だけではいささか無理があるわ」
「……参謀がいると?」
「それは私にはわからないわ。けれどゴードンの単独犯ではほぼ成功しないと思うわ。そこまで緻密に動けるタイプではないもの。そうなると裏で絵を描いた者がいるわ」
散々な評価と言えなくもないが、すべて的を射ている。
この人もまた子供の頃からゴードンのことを知っているのだ。性格を読み間違えたりはしないだろう。
「今回の計画にはおそらく王国や連合王国が絡んでいます。ゴードンは連合王国の竜王子とも友人関係です。彼らが裏で動いたのでは? もしくは王国側の誰かでしょうか。どちらにせよ、今考えても仕方ありません」
「その可能性はたしかに高いけれど、私は帝国の人間が関わっていると思うわ」
「ゴードン以外の人間が? エリクとか言わないでくださいよ?」
「あの子は違うわ。自分の物を他人に与えるほどお人よしではないもの」
そうだろうな。エリクにとって帝国は自分の物だ。確実に手に入ると思っているし、自分が皇帝になったあとのことを今も考えているはずだ。
そんなエリクがわざわざ自分の帝国に他国を介入させるはずはない。
となると。
「まさかとは思いますが……あの二人だと?」
「なくはないと思わないかしら?」
母上の言葉に俺は顔をしかめる。
たしかに帝国にはこの手の面倒なことを好む奴らが二人ほどいる。
しかし、その二人は身動きが取れない状況だ。
「ズーザンとザンドラは父上によって部屋に閉じ込められています。面会もできない軟禁状態です。ゴードンの計画に噛めるとは思えません」
「たしかに他人と接触できない以上、普通は不可能でしょうね。けど、ズーザンのメイドが一人捕まっていないわ」
「……ズーザンのメイドがいなくなるなんて珍しいことではないから見逃された案件ですね」
ズーザンのメイドたちは全員捕らえられた。一名を除いて。
しかし大きな問題にはならなかった。
ズーザンやザンドラはメイドに辛く当たることが多々あった。メイドが消えるなんて後宮では珍しくない。
おそらく逃亡したか、ズーザンに殺されたか。どちらかだろうと判断されたのだ。
それは罪ではあるが、南部の反乱にどんな関わりを持っていたかを調べるほうが優先だったのだ。
「そのズーザンのメイドが裏で動いていると母上は思うのですか?」
「そう思っているわ」
「ちなみに根拠は?」
「女の勘と言いたいけれど、それじゃあ納得しないでしょう?」
「当たり前じゃないですか」
「そう。じゃあ明確な根拠をあげるわ。ゴードンは王国に攻め入った経歴があるわ。誰かが間に入らないとゴードンと王国が手を組むのは考えづらいわ。そしてズーザンは南部で反乱を起こしたクリューガー公爵の妹。南部で長らく雌伏の時を経ていたクリューガー公爵が援軍のアテもなく反乱はしないと思わない?」
「なるほど。元々はクリューガー公爵やズーザンと王国は繋がっていた。あの反乱が長引けば王国は動いたはずだった。しかし、そうはならなかった」
「そう。元々はクリューガー公爵と行うはずだった計画をゴードンと行っている。そう考えると自然だし、間にズーザンの側近が入っているなら不自然ではないわ」
逃げたメイドはズーザンの命令で動いている側近。
俺にとってのセバスに近い立場か。
そいつが王国とゴードンをつなげた。
利害関係が絡まる複数の国との連携は難しい。そういう調整能力はゴードンにはないし、ゴードンの陣営にも適任者はいないはずだ。
だが、裏で動くことに慣れたズーザンの側近なら可能だろう。
そうなると事態の厄介さはさらに跳ね上がる。
「ズーザン・ザンドラの親子とゴードンが手を組んでいるということになりますが?」
「性格的にはありえないわね。けど、ズーザンたちに選択肢はないわ。それをゴードンが理解していれば利用しあうことはありえると思うの。もちろんどちらもどこかで裏切る腹積もりでしょうけど」
「帝位候補者の二人が手を組んでいる……王国と連合王国、そしておそらく藩国。
これだけの他国が協力している理由にも説明はつきますね」
勝算があるから協力関係を作っている。
利があると他国が判断したというからには、ゴードンを高く買っているのかと思っていたが、そこに付加価値があったというなら納得できる。
「それで最初の話に戻るのだけど、ズーザンとザンドラが関わっているとなると後宮はほぼ最前線よ。そしてあの二人は私も狙ってくると思うわ。あなたとレオの母親だもの」
「それはその通りでしょうね……」
ズーザンとザンドラが失脚したのはレオと俺のせいといえなくもない。
あの二人は現在、後宮の奥に閉じ込められているが、ゴードンと協力関係にあるなら脱出してくるだろう。
後宮はその時点で危険地帯だ。
「クリスタはリーゼの妹。ズーザンなら真っ先に人質として扱おうとするわ。私と行動させるのは得策とは言えないわね」
「……では母上も避難を」
「許可なく後宮は出れないわ。明日の武闘大会には皇后様が出席して、ほかの妃は後宮待機ともう決まっているしね」
皇帝の横に座るのは皇后だけだ。他の妃が民の前に姿を現すと帝位争いで余計な噂が飛び交う。
その点、皇后にはその心配がない。皇太子は亡くなり、トラウ兄さんにその意思がないことは周知の事実だからだ。
不安定な時期に余計な噂を流されたくないというのはわかる。
だが、今はその決定を下した父上を恨みたい気分だ。その決定のせいで母上が危険な後宮に取り残される。
「では護衛を強化します」
「焼石に水よ。あなたはクリスタのことを考えなさい。私は私でどうにかするわ」
「ですが!」
「私は大丈夫よ。あなたとレオの母親なのだから。それに、助けが必要なのは私ではないわ」
そう言って母上は横の部屋につながる扉を見る。
「出ていらっしゃいな」
「……はい」
「あなたは……」
横の部屋から出てきたのは茶色の髪の女性だった。
その女性は第七妃にして、第十皇子の母親。
「ジアーナ様……」
「アルノルト殿下……どうか息子をお助けください……」
そう言って彼女は俺に頭を下げたのだった。




