第百八十三話 戦力過多
発売記念の短編、セバスの過去話を投稿してあります!
本編とは別の短編なのでまだ見てない人は見てみてください!
あと特設サイトでCMがアップされました! それも確認してみてください(`・ω・´)ゞ
それとラノベニュースオンラインさんというところでインタビューを受けました! 僕のツイッターから見れると思うのでそちらもよければ見てみてくださいm(__)m
「近衛騎士団第三騎士隊。アルノルト殿下とオリヒメ猊下の護衛に入ります」
「うむ、ご苦労!」
要人警護のために近衛騎士団の部隊がそれぞれ護衛につくことになった。
まぁそれはいいんだが。
「ここだけ戦力過多じゃないか?」
「大陸最強の矛と盾ですからな。アルノルト様が貧弱であることを差し引いてもやりすぎですな」
「貧弱っていうな。父上の指示か?」
「ええ。久しぶりの任務は顔見知りのほうがやりやすいだろうって」
「俺がやりにくいんだが」
「それは知らないわよ」
冷たくあしらわれた俺は深くため息を吐く。
顔見知りなら別にレオでも……駄目か。それはそれで四宝聖具の使い手が二人になる。
結局似たようなものなら俺に押し付けておけという精神を感じるのは気のせいじゃないだろう。
まったく、困った父上だ。
「エルナ隊長。そなたは今、妾の護衛だな?」
「殿下と猊下の護衛です」
「つまり妾の護衛だな!」
「……そうですね」
オリヒメがソファーに座った状態でドヤ顔を浮かべる。
それを見てエルナが嫌そうな顔を浮かべた。
なんか嫌な予感がして俺は横にいるオリヒメから距離をとる。
「ではエルナ隊長! 肩が凝った!」
「そうですか」
「そうですか、ではない! 今は妾の護衛なのだ! 肩を揉んでもらおうか!」
ふふん! とオリヒメが勝ち誇り、エルナが青筋を立てて頬を引きつらせる。
ここでエルナが肩もみは職務外なのでとか上手く返せればいいんだろうが、そういう風な言い方はエルナはしない。できないではなく、しないのだ。
なんとなく負けた気がするというよくわからん感覚を持っているからだ。
おかげで事態がややこしい方向にいってしまう。
「わかりました。では肩を揉ませていただきます」
殺意すら感じられる笑顔を浮かべながらエルナがゆっくりとオリヒメの後ろに回る。
一方、オリヒメはエルナに言うことを聞かせられることにご満悦のようだ。
だから後ろでエルナの笑みが深まったことに気づかなかった。
「力加減はこのくらいでよ・ろ・し・いですか?」
「うわぁぁぁ!!?? 肩が潰れる!!??」
砕けろとばかりにエルナはオリヒメの肩を掴む。
もはや揉むという行為ではない。
それに対してオリヒメは暴れるが、エルナはさらに力を込めた。
「痛い! 痛い! 痛いと言っておるだろうがー!!??」
「痛いくらいがちょうどいいんですよ? 知りませんか?」
「肩がなくなるわ! さては妾の胸に嫉妬か!? そなたの胸では肩など凝るわけ、わぁぁぁぁぁ!!??」
「ずいぶんと凝ってらっしゃるようで! もっと力を入れたほうがよいみたいですね!!」
オリヒメの不用意な言葉がエルナの神経を逆なでして、エルナは鬼のような形相でオリヒメの両肩をつぶそうとする。
さすがにこれ以上は危険のため、俺はエルナを制止する。
「エルナ」
「ふん!」
俺の声を聞き、エルナはオリヒメの肩を放したあと、鼻を鳴らしてそっぽを向く。
ようやくエルナの万力から解放されたオリヒメは半泣きで俺の腰に縋り付いてきた。
「うーー……痛いぃ……痛いぞぉ……アルノルトぉ……」
「はいはい。エルナに悪ふざけを仕掛けるからだぞ」
呆れつつ、俺はオリヒメの頭を撫でてあやす。
しばらく痛い痛いと呟いていたオリヒメだが、痛みが引いたのか半泣きでエルナを指さして叫ぶ。
「護衛対象を傷つけるとは何事だ!」
「肩を揉んだだけですが?」
「潰そうとしたではないか!」
「ではやり直しましょうか?」
「ひぃぃぃ!!」
エルナが見せつけるように右手で潰す動作をすると、オリヒメは痛みを思い出したのか悲鳴を上げて俺の後ろに隠れた。
「アルノルト! エルナがいじめるぞ!」
「はぁ……やりすぎだ。エルナ」
「なによ!? そっちの味方する気!?」
「ふふん! アルノルトはいつでも妾の味方だぞ! なにせ接待役だからな!」
「関係ないわよ! アル! そこの狐を甘やかすのをやめなさい! ろくなことにならないわよ!」
「すでにろくなことになってないけどな」
言ってる傍からオリヒメが舌を出してエルナを挑発する。
その安い挑発に乗って、エルナがオリヒメを捕まえようとするが、オリヒメは器用に俺を盾にして逃げる。
「待ちなさい!」
「待たぬ!」
「このっ!」
「おわっ!? アルノルト! この女、今殴ろうとしてきたぞ!?」
「頭を撫でようとしただけよ!」
「嘘をつくでない!? 握り拳だったぞ!?」
俺を中心にして鬼ごっこが始まる。
オリヒメを捕まえようとするエルナと、俺を盾にしてエルナから逃げるオリヒメ。
ぐるぐると周りながら二人は追いかけっこをするわけだが、かたや勇者でかたや仙姫だ。
逃げるオリヒメは結界を張り、エルナが瞬時にそれを破壊する。
地味に高度な攻防を繰り広げ、俺の周りではガラスを割ったような音が響き続けている。
「主人を置いて逃げるとか執事としてどうなんだ?」
「女性の争いには首を突っ込まない主義でして」
「初耳だな」
「初めて言いましたので」
ちゃっかり距離を取って避難しているセバスに小言を言ってみたが、上手く返されてしまう。
そのままセバスは持っていた紅茶を素知らぬ顔で飲む。
この執事め。本気で首を突っ込む気がないみたいだな。
外からの援護は期待できないし、やめろといってもどうせどっちの味方をするのかっていう新たな争いに巻き込まれるだけだ。
ならば大人しくこの無駄に高度な鬼ごっこが終わるのを待つか。
なんて諦めていると部屋にフィーネが入ってきた。
「失礼します。アル様」
「ようこそ、騒がしい部屋へ」
「ふふ、賑やかですね」
にこやかに笑うとフィーネは慣れた様子で紅茶を淹れ始める。
フィーネにかかればこの状況も賑やからしい。
「オリヒメ様。紅茶を飲まれますか?」
「うむ! いただくぞ! フィーネの紅茶は美味しいからな!」
「では座って待っていてくださいね。エルナ様もどうです?」
「私は……」
追いかけていたオリヒメがフィーネに言われて行儀よくソファーに座ったのを見て、エルナは伸ばした手をどうしていいかわからずに彷徨わせる。
そんなエルナに向かってフィーネは笑いかけた。
「お菓子も用意してますし、みんなで食べませんか?」
「……わかったわ。いただくわ」
「はい。では座っていてください」
そう言ってフィーネは大陸最強の矛と盾を大人しくさせてしまった。
なんて手際だ。猛獣みたいな二人を大人しくさせるなんて。
さすがフィーネというべきか。
「どうぞ、アル様」
「ありがとう。助かった、本当に」
「いえ、お話もありましたから。まだエルフの里から要人の方は到着しないようです」
すでに皇国と藩国。そして南部の二つの公国からは要人が到着している。
皇国は皇子が来て、藩国は藩主自らが来た。到着したときはピリついたがトラウ兄さんが友好的に接したため、そういう空気感は深刻にならずに済んだ。
二つの公国からは公王の子供たちがやってきた。アルバトロ公国から来たのは双子の姉弟、エヴァとジュリオだ。ロンディネ公国は公子がやってきた。
残る主要な要人はエルフの里の要人だが、いかんせんエルフは秘密主義のため、里を出たということしかこちらには伝わっていない。
四方に人を遣わして情報収集をしているが、今どこにいるのかわからないというのが現状だ。
「そうか。まぁ気長に待つしかないだろうな。エルフは人間よりもはるかに長生きのせいか、急ぐってことをあまりしない」
「はい。待つのは構わないのですが、無事にたどり着けるかどうかが心配で……」
「平気だろ。エルフの精鋭が護衛につくはずだ。どこぞの誰かさんのように付き人を放置してくるような奴じゃない限り平気だ」
そう言って俺はオリヒメを見つめる。
しかしオリヒメは聞こえないといったような様子で、フィーネのお菓子を嬉しそうに食べている。
「付き人を置いてきたの?」
「ギルド本部に置いてきたんだとさ。そこから帝国までの護衛は第二騎士隊が担っていたから平気といえば平気だろうけど……普通ではないわな」
「常識ないわね」
「うるさいぞ、二人とも。お菓子が不味くなるではないか。まぁ不味くなっても美味しいのだが。だいたい、妾は置いてきたのではない。待機を命じたのだ」
「それを置いてきたというんだ」
「帝国に気を遣ったのだ。ついてきたのは小うるさい老人ばかり。あれらを連れてきていたら、あれは駄目、これは駄目というに決まっている。帝都につくのが何日も遅れていたはずだ」
今は自由に過ごしているオリヒメだが、仙国では象徴的な立場。巫女みたいなもんだ。
厄介なしきたりがいくつもある。
それを煩わしいと感じただろうな。
「そもそもお目付け役がいては遊べんではないか」
「それが本音か」
「うむ!」
そう言ってオリヒメはどんどんお菓子を食べていく。
一人で食べる気かっていう勢いだ。
そんな風にオリヒメがガツガツとお菓子を食べていると、また客が来た。
「アル兄! ジーク、つれてきたよー!」
「チュピー!」
「おお! エンタ! 遊んでもらえたか?」
「チュピー!」
部屋に来たのはクリスタとリタだった。
クリスタはぐったりとしているジークを抱えており、リタはエンタを抱えている。
どうやらいつの間にかエンタもクリスタたちの仲間に加わったらしい。
まぁそれはいいんだが。
「どうしてジークは焦げてるんだ?」
「ジーク、聖女様の部屋に近づいて迎撃結界に引っかかったって……リンフィアが言ってた」
「捨ててきていいぞ」
「ち、ちくしょう……結界なんて卑怯だぞ……」
ぐったりとした様子でジークがつぶやく。
そんなジークを見てフィーネが困ったように頬に手を当てた。
「どうしましょう。本当にお外に行ってもらったほうがいいでしょうか?」
「外は外で迷惑だから投獄しておいたほうがいいわよ」
「俺の扱いひどすぎないか!?」
ジークの悲痛な叫びが木霊するが、誰も同情しない。
当たり前だ。全部自業自得だしな。
そんな風に過ごしながら俺たちは式典の日を待つのだった。




