第百六十六話 露払い
活動報告でセバスとレオのキャラデザインを公開しました。
明日も18時からキャラデザインの公開ですm(__)m
レオたちは一度も止まることなく、街から少し離れた村へ向かっていた。
霊亀がいつ動くかわからない以上、一刻の猶予もなかったからだ。
しかし。
「くっ! 遅かったか!」
レオの視界に飛び込んできたのは慌てふためいて森から逃げてくる村人たちだった。
彼らは狼型のモンスターに追われていた。
必死に逃げる村人たちの手には荷物すらない。霊亀の動きに触発されて活発になったモンスターが急に襲い掛かってきたのだろう。
レオの視線の先で、母親に手を引かれていた小さな女の子が映った。
必死に走る少女だが、母親についていけず足をもつれさせて転んでしまった。
「!? ま、ママーーー!!」
「早く立って!!」
母親が急いで戻り、女の子を立たせようとするがその間に狼型のモンスターたちが追い付いてくる。
母親は女の子だけはと強く抱きしめ、狼型のモンスターから守ろうとする。
だが、狼型のモンスターは関係ないとばかりに二人に襲いかかる。
しかし。
「やらせるかっ!!」
遠く飛んできたレオの剣が二人と狼型のモンスターたちの間に突き刺さる。
そのままレオは加速し、スピードを緩めずに突進していく。
狼型のモンスターは武器を持たないレオに狙いを切り替える。だが、レオの目を見てモンスターたちは怯み、硬直してしまう。
その瞬間を見逃さず、レオは地面に突き刺さった剣を引き抜いて、周りを囲んでいた狼型のモンスターたちを切り伏せる。
しかし、一人突出した形のレオの前には大量のモンスターがいた。
だが、レオは怯むこともせずに剣を構えて号令をかけた。
「――殲滅しろ!」
戦場全体に通る声の後、その号令に応えるように騎士たちの突撃が始まった。
近衛騎士を中心に精鋭揃いのため、民の周りにいるモンスターは瞬く間に駆逐されていく。
先頭で剣をふるっていたレオが最後の一体を切り伏せると、周囲からモンスターの姿は消えていた。
「か、感謝します! 騎士様!」
さきほどの母親が娘を連れてレオに頭を下げる。
そんな親子にレオは柔らかな笑みを浮かべて応じる。
「いえ、お怪我はありませんか?」
「は、はい! 大丈夫です!」
「そうですか。あなた方で最後ですか? ほかの村人は?」
「私たちの村の人間はこの一団だけです。ただ、東に進めばまだいくつかの村があります。そこがどうなったかは……」
「なるほど……全員準備を」
そうレオが命令を発するが、ロストックの騎士たちが反対の声をあげる。
「森の中に入るのは危険ではありませんか?」
「危険は承知だ。しかし、そこに民がいるなら見捨てない」
「ですが……殿下の身に万が一があれば」
「で、殿下!?」
騎士の言葉を聞き、母親はようやく自分が話していた相手が騎士ではなく、皇族であることに気づく。
無礼を謝罪する母親に対して、女の子は無邪気に問いかけた。
「お兄ちゃん、偉い人なの?」
「こ、こらっ! なんてことを!? も、申し訳ありません!」
「いいんです。僕は偉くないよ。たまたま僕の父上が偉いだけさ。僕が偉いかどうか……これからの振る舞いで決まる」
そう言ってレオはゆっくりと馬を翻し、鞘に収めていた剣を抜き放つ。
森の中からは血の匂いにつられて多くのモンスターが現れていた。
「まずはこの場のモンスターを片付ける。ロストックの騎士たちはこの場の民の護衛につくんだ」
「殿下が殿をなさるおつもりですか!?」
「殿じゃない。先鋒さ。僕らはシルバーたちが安心して戦うための露払いだ。彼らは民が傍にいては戦えない。彼らに全力を出せる環境を整えるためにも……民がいるならば僕らは行かなくちゃいけない」
そういうとレオはゆっくりと馬を進ませ始める。
ロストックの騎士たち以外はレオに続いてゆっくりとモンスターの大群に向かう。
そして。
「――民を守る! 続け!!」
レオは先陣を切ってモンスターたちに突撃し、そのあとに騎士たちも続いたのだった。
■■■
モンスターの大群に対して突撃したレオたちは、逃げる村人たちを追わせないように横に広がって戦っていた。
集団で戦ってはモンスターが抜けてしまうかもしれないからだ。しかし、その戦いは個人の能力に依存したものだった。
だがレオは特別指示を出すことはしなかった。
個人能力に依存して戦っても問題ない精鋭を連れてきた自負があった。
「まったく! 人使いが荒い皇子様だぜ!」
「無駄口をたたく暇があったら槍を動かしてください」
「真面目だねぇ」
そんな会話をしながらジークとリンフィアは近衛騎士たちに負けない勢いでモンスターを狩っていた。
元々は冒険者である二人にとって、人間と戦うよりはこちらのほうが楽なのだ。
特にジークは弱体化しているとはいえ、S級冒険者。雑魚がいくら集まろうと敵ではなかった。
「ほら! 近づくと命がないぜ?」
そう言ってジークは愛らしい見た目に反して、獰猛な笑みを浮かべて近づくモンスターたちを突き殺していく。
一方、リンフィアは魔剣を槍に変化させ、モンスターたちを弱体化させながら効率よく狩っていく。
そんな風にモンスターたちを押し込んでいた二人は空から異音を聞いて、同時に空を見た。
「ちっ! 鳥型か!」
「レッドレイヴンですね。Aランクのモンスターです」
「それが三体か」
空から巨大な烏が迫ってきていた。
二人が聞いたのはそのモンスターたちの羽音だった。
冒険者である二人は突然現れた鳥型モンスターの厄介さを熟知していた。
通常であれば弓や魔法といった遠距離系の仲間の援護が必要な相手だ。
近衛騎士の中には魔法が使える者もいるだろうが、今から連携を組むのは無理がある。
「近づいてきたところを狩るしかありませんね」
「いや、そんな余裕はねぇ」
「ではどうするつもりですか?」
リンフィアの問いかけにジークは不敵な笑みを浮かべ、助走用の距離をとる。
そして、いきなりリンフィアに向かって走り始めた。
「俺が飛ぶ! 土台になってくれ!」
「嫌です」
「そんなっ!?」
拒否しつつ、リンフィアは槍の端を持ち、ジークの土台にするための準備を整える。
一瞬、このままリンフィアに抱きつくのもありかなと考えていたジークは、リンフィアの冷たい目を見て大人しく槍を土台にすることを選択する。
「私の槍を土台にするんです。失敗したら鍋で煮ますからね」
「俺に厳しいね!? でもそういう冷たいのもちょっといいかなって最近思えてきたよ!」
「さっさと行きなさい」
リンフィアはジークを乗せたまま思いっきり槍を振りぬく。
そのまま弾丸のようにジークは空へと舞い上がる。
そして。
「悪いな。俺は空も飛べる熊なんだ」
目標としていた一番前にいたレッドレイヴンの首を切り落とし、その胴体にジークは着地する。
そしてそこから今度は跳躍し、横にいたもう一羽に飛び移る。
レッドレイヴンはよけようとするが、ジークはさせまいと羽を一瞬で切り落とす。
「おらっ! 最後だ!!」
そう言ってジークは最後の一羽に狙いを定め、そちらに向かって走っていき、高く跳躍する。
レッドレイヴンの上を取ったジークは降下する勢いをそのままに槍を突き出す。
「てりゃぁぁぁぁぁ!!!!」
ジークの槍が深くレッドレイヴンの体を貫く。
レッドレイヴンは悲鳴をあげて、空中で回転するがジークは振り落とされまいとこらえ、引き抜いた槍で首を切り落としてレッドレイヴンの命を取る。
「ふー、これでリンフィアちゃんも文句は言わないだろ」
汗を拭きつつ、ジークは落ちていくレッドレイヴンの体の上で満足そうな笑みを浮かべる。
だが降下していくレッドレイヴンの体の上で重大なことに気づいてしまった。
「あれ? 着地ってどうやるんだ?」
そのすぐあと、ジークの悲鳴とともにレッドレイヴンの体は墜落したのだった。
その様子を見ていたリンフィアは近くにいた騎士に声をかける。
「この場は私がやるので、生きてるかどうか確認してきてください。生きてたら回収してもらえると助かります。死んでたら放置で構いません。人類的には損失ではないので」
ずいぶんな言い方をするリンフィアに騎士は苦笑しつつ、馬を走らせて墜落した場所まで向かう。
そして墜落の恐怖のせいで半泣き状態のジークを見つけ、あきれた様子で回収したのだった。




