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第百十話 心強い客

すみません。体調が回復しないのでまだ二回更新は無理ですm(__)m


5月5日の24時更新はお休みですm(_ _)m



 



「まったく、無茶をする」

「申し訳ありません……」


 会議が終わり、部屋に戻ると俺はフィーネにそう告げた。

 フィーネのほうも申し訳なさそうにしている。

 できれば危険な目に遭わせたくはなかったんだがな。


「ま、立候補してしまった以上は仕方ない。宰相の言う通り、君が適任であることは事実だ。できるだけ安全を確保するとしよう」

「ご迷惑をおかけします……」

「いいさ。君の行動も理解できる」


 この状況で何かしたいと思うのは、とてもフィーネらしいといえた。

 そして今回はそのフィーネの気持ちと多くのメリットが合致しただけのこと。

 責めるようなことじゃない。


「アルノルト様」


 そう言って音もなくセバスが現れる。

 セバスには俺が帝都を離れている間に情報収集を頼んでおいたが、今回の登場は少し目的が違うようだ。


「どうした? セバス」

「良いタイミングで心強い方々がお越しです」


 そう言ってセバスが扉を開ける。

 するとそこには見覚えのある顔が二つあった。


「お久しぶりです。アルノルト殿下」

「ラインフェルト公爵! それに……」


 そこにいたのはユルゲンだった。

 いつも通り、人に心を許させる笑みを浮かべて部屋に入ってくる。

 その後ろから静かに入ってくるのは少年のような恰好をした茶色の髪の少女。


「リンフィア」

「リーゼロッテ様が妹たちのことを任せろと言ってくださったので。これよりは御恩に報いるために両殿下のために剣を振るう所存です」

「相変わらずだな。でも、戻ってきてくれてありがたい。ちょうど手練れが必要だったんだ」

「詳細はセバスさんから聞きました。フィーネ様も向かわれるとか」

「はい。私にもできることがあると思ったので」


 フィーネをジッと見つめたリンフィアはふっと柔らかく微笑む。

 そして力強く告げた。


「フィーネ様らしいと思います。ご安心を。微力ながら私も力をお貸しします」

「はい!」

「これで戦力はだいぶ整ったな」


 セバスとジークに加えてリンフィア。ラースを始めとするネルベ・リッターの精鋭たち。

 それをレオが率いる。無事に敵の懐に潜り込めればかなり成功する確率は上がった。


「しかし、使者を装ってというのはレオナルト殿下の発案ではありますまい。アルノルト殿下の案ですかな?」

「ええ、性格が悪いとエルナには言われました」

「はっはっは、騎士からはそう見えるでしょうね。しかし、レオナルト殿下のイメージダウンに繋がりかねませんが?」

「そこも考えてあります」


 使者としてフィーネが赴き、レオがその護衛団を率いる。

 南部はこの使者をほぼ間違いなく受け入れる。

 なにせ皇帝の勅使だからだ。拒絶すれば今後、一切の交渉がなくなる。それは南部の貴族たちからは受け入れられないだろう。

 南部が力を合わせたところで戦力比は圧倒的に帝国有利だ。譲歩を引き出すならば、今回は受け入れるほかない。


「南部連合に対して陛下は使者を出す。しかし、その内容はクリューガー公爵への最後通告です。膝を折らねば処断する。そういう内容をフィーネが伝える。これでご破算になって、向こうが攻撃を仕掛けてきたら非は向こうにあるという寸法です」

「しかし、行くまでに交渉内容の確認があると思いますが?」

「書状を二枚用意しておき、直前にすり替える。この書状を拒否するなら、懲罰の対象となる。使者を使ってのだまし討ちから、臣下への懲罰へと早変わりです。他国が批難するのは筋違いだし、帝国の信用もレオの信用も保たれるってわけです」


 そもそも皇帝と南部貴族との間柄は主君と臣下。対等な交渉ができる立場じゃない。あくまで一方的に命令される側だ。

 南部貴族は蜂起し、皇帝が同じテーブルについたと勘違いするだろうが、皇帝は譲歩などする気はなく、フィーネを送ったのもクリューガー公爵に最後通告をするため。

 こういうシナリオになる。対等な立場となる外国との交渉ではなく、どちらが上かはっきりしている今回だからこそ使える手ともいえる。

 まぁ諸外国の一部の勢力には多少の不信感は抱かれるかもしれないが、国家の総意として問題視する国はいないだろう。


「なるほど。アルノルト殿下らしい言い分ですね」

「できればもうちょっと正攻法でいきたかったんですが、これしか手がありませんでした」

「後手に回ればそうでしょう。しかし、今回のことで先手を取れた。主導権を奪い返したのです。それが最も大切なことです。ですが、その主導権は些細なことで誰かの手に渡ります。情報統制は問題ありませんか?」


 ユルゲンらしい質問だ。

 それに対して俺はしっかりと頷く。


「帝都守備隊が帝都の出入りを念入りにチェックしてます」

「それだけですか?」

「いいえ、南部へのルートの封鎖を勇爵家にお願いしました。勇爵家の騎士たちがあちこちにいる中じゃ、手練れの隠密でも突破は不可能です」


 南部との内乱に限っていえば、帝位争いの要素は薄い。

 すでに皇帝が俺たちの作戦を採用した以上、情報を南部に渡さないようにするのを勇爵家が手伝っても問題にはならない。

 情報が漏れる可能性はかなり低い。

 気がかりはあるが、それも対処は考える。


「準備はされておられるのですね。では僕からは何も言うことはありません。何かお力になれますか?」

「そうですね。しばらく帝都におられるつもりですか?」

「ええ、そのつもりです」

「では公爵の伝手を使って、商人を動かしていただけませんか?」

「それは構いませんが、どのように動かすのですか?」

「たとえ一時的でも南部は帝国に敵対しました。治安の悪化が懸念されますし、そうなれば食料の問題も出てくるでしょう。それに備えていただきたいんです」

「なるほど。それは僕好みの仕事ですね。承りました」


 そう言ってユルゲンは爽やかな笑みを浮かべる。

 ユルゲンと亜人商会が動けば、それなりの人手は確保できる。

 冒険者たちを雇い、護衛につかせれば多少なりとも金が回る。

 いざとなればシルバーとして稼いだ金を使うのもやぶさかじゃない。

 クリューガー公爵を倒せば終わりというほど簡単じゃない。むしろその後のほうが大変なんだ。


「そうだ、フィーネ様。これを」


 リンフィアは思いだしたかのように一本の笛をフィーネに手渡した。

 見ただけで分かる。かなり高ランクの魔道具だ。


「これは?」

「迷子になっていたドワーフのお爺さんから貰ったものです。笛を吹けば味方に届くそうです」

「それはとてもすごい物なのでは?」

「私よりはフィーネ様のほうが必要でしょう」


 そう言ってリンフィアはフィーネにその笛を持たせた。

 フィーネが困ったようにこちらを見てくるが、俺は静かに頷く。

 フィーネが吹く状況というのは確実に切羽詰まっている状況だ。その状況ならシルバーとして向かっても問題はないだろうし、たとえ問題があったとしても見過ごせない。

 俺はきっとすべてを投げ捨ててでも行くだろう。


「俺としてもフィーネが持っていたほうが安心できる」

「……わかりました。今回はお預かりしますね」


 そう言ってフィーネは丁寧にリンフィアから笛を受け取った。

 しかし、迷子のドワーフ。しかも老人か。

 一瞬、とある人物を思い浮かべたが、すぐに思い直す。

 帝国にいるなんて聞いてないし、いるわけがない。

 まぁ万が一にでもいたとしても、南部の貴族たちに協力するはずないし、今回は表には出てこないだろう。

 ただ少し頭に入れておくか。帝国にいるだけで大事件になる人物だからな。


「では、僕はさっそく動くとします」

「私もレオ様のところへ行きますね」


 ユルゲンはすぐに動き出し、フィーネはリンフィアと共にレオの下へ向かう。

 残ったのはセバスと俺だけだ。


「報告か?」

「はい。どうやらソニア殿は人質を取られているようです。あくまで話を盗み聞きしただけですが、養父が元は天才軍師と呼ばれた軍人だったそうです」

「そうか。それならあの動きは理解できるな」


 どう転んでも一定の成功を得る立ち回り。

 あれは頭のいい奴らしい動きだ。

 だが、それゆえにゴードンを読み違えたか。

 あれは普通の物差しじゃ測れない。おそらく今回も非常識な手段を使うはずだ。


「ソニアの件は一度置いておく。そこまでの余裕は俺たちにはない」

「承知いたしました。では、私はレオナルト様の傍につきます。アルノルト様は今後、どう動くおつもりですか?」

「情報はほぼ遮断した。しかし、情報を漏らしそうな奴が帝都の外に出ることになる」

「なるほど……ゴードン殿下ですか」

「ああ、俺はあいつを監視する。何をするかわからないからな。悪いが、レオのことは任せた。いざとなれば飛んでいくが、たぶんこっちはこっちでひと悶着起きるぞ」


 そんなことを思いながら俺はすでにゴードンがどういった動きに出るのか、そのことを考え始めていた。


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