武闘会に出場③
「負けました!」
試合が始まった直後、私は大きな声で敗北を宣言する。
しかし、審判は動かない。
会場からも失笑する声が聞こえてくる。
やはり、簡単には逃げられないようだ。
「はっはっは! それがお前の作戦か? やはり貴族崩れはロクな作戦が立てられないらしいな」
(ダメでもやって見ないわけには行かないわ)
レインが言っていた。
諦めたらそこで終わりだって。
私は剣を抜いて構えをとる。
会場中からまたブーイングが響き、気が少し重くなる。
「全く、貴族崩れとは往生際が悪い。さっさと死んでおけばいいものを」
「……最後まで、諦めるつもりはありません」
「……ふん。まあいい、だが、そんなナマクラでは役に立たないぞ?」
デイルは右手を私のほうに向ける。
「私は魔術が得意だからな」
「!?」
そうだった。
この大会は魔術の使用が許可されている。
私は攻撃系の魔術をまだ習得できていない。
攻撃は剣でやるから勉強していなかったのだ。
「驚いているようだな。お前の使えなかった魔法でお前を葬ってやるよ。『火球』!」
(しまった。魔術を使う相手には狙いをつけられないように動き回って対処するようにレインからいわれていたのに!)
私はもう遅いかもしれないが『火球』を避けるように全力で走る。
「あれ?」
『火球』はまっすぐに飛んでいき、闘技場の壁に当たって消える。
「おーーっと! ここでデイル様の『火球』が放たれる! すごい! すでに攻撃魔術を習得してるとは! ドブネズミは逃げることしかできない!」
「「「「「ワーーーーーー!」」」」」
歓声が会場中から聞こえてくるが、私は別のことが気になっていた。
(あれ? どうしてあの『火球』、曲がらないの?)
スイと鍛錬していたときは避ける私を追いかけるように『水球』が飛んできていた。
スイが私の防具を狙ってくれたのでダメージはほとんど受けなかったがすごい衝撃を受けていた。
だが、デイルの魔術は真っ直ぐ飛んでいって壁に少し黒い焦げ跡を残しただけで消えた。
(もしかして)
前にレインから聞いたことがある。
魔術には色々な事を設定をする必要がある。
その設定が多いのが放出系の魔術なので、放出系の魔術は難易度が高い。
だけど、抜け道もある。
設定を何もしなくても魔術自体は発動するのだ。
その場合、魔術は右手から真っ直ぐに前に飛んでいく。
そして最初に何かに当たれば魔術式が解けて魔術が終了するのだそうだ。
その時、そんな魔術は使えないから使わないようにしろと言われた。
使っていれば癖がついちゃって咄嗟の時に使えもしない魔術を使うことになるからと。
(もしかして、これがそうなの?)
「クソ! ちょこまかと! 『火球』『火球』」
デイルは何発も『火球』を打つ。
だが、そのすべてがまっすぐにしか飛んでいない。
それに、あまり効かなさそうだ。
(これなら、何とかできるかも)
私は逃げるのをやめて立ち止まる。
「はぁ。はぁ。やっと観念したか」
「……」
まだ十発も打っていないのにデイルはふらふらだ。
おそらく魔力が少なくなっているのだろう。
スイなら数百発打ってもケロッとしているのに。
もしかしたらデイルはあまり強くないのかもしれない。
「消し炭にしてやるよ! 『火球』『火球』『火球』!」
デイルが三発の『火球』を放ってくる。
私はデイルに向かって駆けだす。
一発目は右によける。
一発目をよけると、驚愕した顔のデイルが視界の中に入ってくる。
二発目は左によける。
デイルの顔は引きつる。
「はぁ!」
すぐ目の前に迫った三発目の『火球』を剣で掬い上げるように切る。
案の定、剣が当たると『火球』はすぐに霧散する。
ものに当たったら消えてしまうレベルの魔術だったようだ。
「はぁぁぁぁぁ!」
デイルまであと五歩。
まだどんな隠し玉を持っているかわからない。
剣を振り上げたままデイルのほうに駆る。
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!」
私があと三歩まで迫ったとき、デイルは大きな声を上げで逃げだした。
そのままデイルは石舞台を降りて、入場口の奥へと消えていく。
「……」
私はデイルがいた位置で立ち止まる。
この後どうしたらいいんだろう?
そして、審判の方をちらりと見る。
「ひっ! しょ、勝者。アリア!」
「へ?」
今、勝者は私って言った?
「……勝った?」
口に出して初めて実感が出てくる。
「……やった。やった!」
勝った。
私は貴族に勝ったのだ。
「はぁ? なんで勝ってんだよ」
「え?」
実況の声に顔を上げる。
すると、観客席の全員が冷たい目で私を見下ろしている。
(どうしてみんなそんな目で見るの? 私、勝ったんだよ?)
戦闘の興奮で鋭敏になっている聴覚が観客の声を拾ってくる。
「つまんね。なんでお前が勝つんだよ」
「私の貯金返してよ!」
「貴族崩れはおとなしく貴族様に嬲られてればいいんだよ!」
誰一人として私の勝利を喜んでくれてはいない。
勝てば、結果を出せば、みんな認めてくれると思っていた。
だが、現実はそこまで甘くない。
私の味方はどこにもいない。
心が冷たく冷えるような感覚がする。
「ほんと。死ねばよかったのに」
誰かがそう呟く声が聞こえて、私は目の前が真っ暗になった。
***
「……ルコ」
俺はフラフラとした足取りで会場から出ていく異母妹を見ながら専属メイドのルコを呼ぶ。
「はい、リグル様」
俺が声をかけると控えていたルコがすぐ近くに寄ってくる。
ここは貴族専用の座席で小さくくぎられているが、大きな声で話す必要もないだろう。
「あの落ちこぼれが使っていた魔道具は我が家の魔道具か?」
「……魔術を斬る魔剣は我が家の魔道具リストにありませんでしたが、あんなものとはいえ、フレミア家の関係者。あの者の持ち物は全てフレミア家のものなのではないですか」
「そうだな」
お父様から、あの落ちこぼれの異母妹が愚かにも武闘会に出場すると聞いたときは耳を疑った。
お父様は他の貴族の目に触れさせずに処分したかったらしく、本来であれば明日の夕方にあるはずの試合を今日の初戦に移動させたらしい。
俺はあの女が死ぬ様を見たかったのでわざわざ出向いてきてみたが、どうやら、何かの魔道具を手に入れたので出場してきたらしい。
「落ちこぼれに魔道具など、過ぎた物だ。今日にでも返却させるべきだろう。回収に行ってこい」
「……抵抗されるかもしれませんが、いかがしますか?」
確かに抵抗されれば面倒だ。
「あいつは平民のような物だ。いつものように下水道の魔物に処理させればいいだろう」
あの魔物は魔道具や宝石など、貴重なものは溶かさない。
おそらく、古代魔術師文明時代に、そういったものを誤って落としてしまうものがいてその対策なのだろう。
死体も残らないし、あいつを処分するのにはちょうどいい。
「承知しました。準備いたします」
ルコはそう言い残して会場から出て行った。
今日も二話投稿します。
明日から一日一話投稿に戻る予定です。
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