ジーゲさんがやってきた①
「あれ?」
「どうかした?」
「あれラケルさんじゃないかな?」
「どれ?」
俺は村のすぐ近くまで戻ってきた時、村のそばに人影があることに気がついた。
よくみてみると、前回、商人であるジーゲさんの護衛をしていた冒険者のラケルさんのようだ。
「あの人が来たってことはジーゲさんも来たってことかしら?」
「そんな気がするな」
まあ、冒険者がわざわざくるような魅力があるところでもないし、あの人が来ているということは当然護衛対象のジーゲさんも来たということだろう。
「おーい!」
俺たちがそんな話をしていると、ラケルさんも俺たちに気づいたらしく、両手を振りながらこちらに近づいてくる。
両手を振っているのは、おそらく、敵意がないことを示しているんだろう。
俺たちも両手を振る。
「ラケルさん。お久しぶりです」
「久しぶりです。ジーゲさんが注文の品を運んできました。中に入れていただいてもいいですか?」
「どうしたんですか? いきなり敬語になって。前回みたいにタメ口で話してくださいよ」
「お? そうか? そう言ってくれると助かる。いやー。冬に色々あってな」
ラケルさんは頭をかきながらそんなことを言う。
「色々ですか?」
「その辺はジーゲさんから直接聞いてくれ。あまり接触しないように言われてるんだ」
ラケルさんが苦笑いを見せる。
どうやら、色々と大変なことがあるらしい。
守秘義務的なあれこれがあるようだし、聞かない方がいいだろう。
「……そうですか。じゃあ、正門の方を開けるので、商人さんにそう伝えてください。……俺たちと一緒に裏門から入って村を突っ切ったほうが早いですかね?」
「ありがとう。でも、そこまで大回りでもないし、外を回っていくよ。じゃあな」
ラケルさんはそう言い残して走り去っていく。
「じゃあ、俺たちは工房で作業してるから、ミーリアは商人さんの対応は頼むな」
「わかりました」
全部話してしまうアリアに見かねたミーリアが次回から交渉は自分がすると言ったのだ。
アリアも自分は交渉は向いていないと思っていたのか、すぐにミーリアにお願いした。
今日はミーリアの初仕事になるわけだな。
いつもより気合の入っているミーリアを先頭に俺たちは村に戻った。
***
「はぁ」
「なにため息なんて吐いてるんですか? ジーゲさん」
私が大きなため息を吐くと、隣を歩いていた護衛のラケルさんが声をかけてくる。
私たちは今、開拓村に向かっている。
開拓村は去年の春できたばかりの村で、それほどの旨味はないはずの場所だった。
状況は一変したのは去年の冬。
どうやら、流れの錬金術師が住み着いたらしい。
その錬金術師が小さな瓶で百万ガネーは下らない、純度の高い『土液』を作れる。
そんな情報が知り合いの錬金術師の先生から入ってきた。
これは一枚噛むべきだと思って早速その村に行ってみたのだが、自分の店に帰ってみると辺境伯様の私兵に取り囲まれ、連行されることになったのだ。
どうやらあの開拓村は辺境伯様の肝煎だったらしい。
軍事物資にもなる『土液』をあれだけ大量に扱っているのだ。
そうなっていると気づくべきだった。
「……ラケルさん。そうですね。巻き込んでしまって申し訳ありません」
「まだそんなこと言ってるんですか? もういいですよ。給料は保証されているわけだし、出世と言えば出世ですしね」
ラケルさんたちは前回、私の護衛としてついてきてくれていたので、一緒に辺境伯様に捕まる羽目になった。
幸い、誠実な商売をしていたので、お咎めのようなものはなかった。
それに、次の注文なども受けていたことから、そのままあの開拓村との直接取引の役目を仰せつかったのだ。
ラケルさんも私の護衛という形で辺境伯様に雇われることになった。
監視も兼ねているのだろう。
「しかし、誠実な商売をしながらも外部の情報は可能な限り渡すなとは、辺境伯様もなかなか難しい注文を付けてきますよね」
「まあ、仕方ないでしょう。あれだけの『土液』が第二王子派の手に渡れば間違いなく戦争がはじまります」
「私もそれはわかっているんですけどね」
『土液』を使って辺境伯の兵士の装備はかなり増強されたらしい。
今まで壊れていて使えなかった魔道具や装備があの村の『土液』を使うことで大半は直せたそうだ。
私に開拓村のことを教えてくれた錬金術師の先生はその作業で寝る暇もないのだとか。
今まで頑なに弟子を取らなかった先生が中堅の錬金術師を弟子にしたと言うのだから忙しさは相当なのだろう。
あの土液が定期的に手に入るのであれば今後も装備や武器の修繕に困ることはなくなる。
そんなことになれば好戦的だと噂の第二王子のことだ、すぐに戦争を始めるに違いない。
第二王子の支持層の南部貴族も隣国と接している好戦的な貴族が多いという話だし。
もし、そんな状況にあると開拓村の錬金術師が知れば、重宝されるであろう第二王子派に鞍替えしてしまうかもしれない。
煩わしく思ってこの国を去ってしまうというのも考えられる。
そうなれば、辺境伯様としては大損だ。
だから、できるだけ村の外の情報は渡さないようにといわれている。
「お? 村が見えてきましたね」
「……今度はおかしなところはありませんね」
ラケルさんと会話をしていると開拓村が見えてきた。
前回来たときとの差はあまりないように見える。
「今回は間違いなく一泊することになりますが、大丈夫ですかね?」
「辺境伯様からの手紙もありますから、大丈夫でしょう」
荷物が多かったこともあり、前回よりかなり遅い時間についてしまった。
この時間についた以上、村の近くで一泊する必要があるだろう。
だが、今回は辺境伯様からの紹介状もあることだし、おそらく、中にとめてもらえるだろう。
私は今回の商談に期待と不安を抱きながら開拓村へと向かった。
今日も二話投稿します。
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