閑話 愚王たちのその後⑥
「チョケリィサス=ディズロールグランドハイトを連れてまいりました」
「通せ」
ディズロールグランドハイト家嫡男、チョケリィサス=ディズロールグランドハイトが裁きの間と呼ばれる貴族の裁判をするための部屋に入ってくる。
両脇には近衛騎士が二名立ち、いつでも取り押さえられる状況だ。
私は彼の様子を見て目を見開いた。
婚約披露パーティの時にあった男とは別人のようだ。
目は落ちくぼみ、頬はこけている。
あれからそれほど経っていないはずだがとても老け込んで見える。
いや、それは私も同じか。
「ここに呼ばれた理由はわかっているな」
「……私は間違ったことをしていません」
この場所は貴族を裁くための場所だ。
貴族を裁けるのは国王だけ。
ここに呼ばれた時点で貴族として厳しい沙汰が下されることはわかりきっている。
だが、彼はギラついた瞳で私のほうをまっすぐ見てくる。
本当に自分は悪いことをしていないと思っているようだ。
「貴族を殺しておいて、タダで済むわけがあるまい」
「アーミリシアを呼んでください。彼女ならきっとわかってくれる」
この男がアーミリシアを呼び捨てにしたことを少し不快に思う。
だが、今そんなことを言ってもこの男は聞く耳を持たないだろう。
私はこの男に現実を教えるために、脇に置いてあった一枚の書状を見せる。
「……アーミリシアからはすでに書状を受け取っている」
「!! それなら!!」
「『チョケリィサス=ディズロールグランドハイトは夫であるルナンフォルシード公爵当主を殺害しました。厳正なる裁きをお願いします』だそうだ」
チョケリィサスは一瞬呆けたような間抜けな顔をする。
「嘘だ!」
直後、顔を真っ赤にして前に出ようとした。
すかさず騎士がチョケリィサスを地面に組み伏す。
「嘘ではない」
「そんなの! 何かの間違いだ。アーミリシアを。アーミリシアをここに呼んでくれ」
「アーミリシアはいま当主を失ったルナンフォルシード公爵家の立て直しのために忙しい。呼ぶことはできない」
アーミリシアは当主との間で信頼関係を築き始めていた。
それをこいつがめちゃくちゃにしたのだ。
こいつの擁護などするはずがない。
そして、脇の机にあったもう一枚の書状をチョケリィサスに見せる。
「それとこちらはディズロールグランドハイト公爵からだ。『チョケリィサス=ディズロールグランドハイトの行動はディズロールグランドハイト公爵家とは何の関係もありません。チョケリィサス=ディズロールグランドハイトにどのような沙汰が下ろうと我が家は干渉いたしません。』だそうだ」
「なぁ!?」
チョケリィサスの顔から血の気が引いていく。
家からの擁護すら受けられないとなると、平民と同様の沙汰が下されても何の抵抗もできない。
こいつを今日ここに呼んだのは裁きを下すためではなく、貴族籍から除くためだった。
こういうこともこの場所で行う決まりになっているのだ。
本当にめんどくさい。
貴族ですら貴族家当主を殺せば斬首になることがあるのだ。
平民ならどうなるのか……。
それにこいつはこんなことをして家が守ってくれると本気で考えていたんだろうか。
ディズロールグランドハイト公爵家はルナンフォルシード公爵家と隣接している。
それも、ディズロールグランドハイト公爵家と王都との間にルナンフォルシード公爵家があるので、王都に来るためにどうしても通らなければいけない位置になる。
どうしても避けて通ろうと思うと、他国を経由することになるが、公爵家が勝手に他国に出られるはずがない。
そんな家とバカな跡取りとを天秤にかけるなど、貴族としてまずありえない。
「貴様はもはや貴族ではない。よって、私が直接裁く価値もない。裁きは追って通達する。牢屋へ連れていけ」
「……」
チョケリィサスは騎士たちに引きずられるようにして部屋から出て行った。
今回の件も受けて貴族内部の大粛清を行うことになった。
今までであれば貴族は権力を盾にあらがうのだが、今回は少し話が違った。
貴族の権利を主張する貴族派閥の筆頭だったディズロールグランドハイト公爵家が今回の件で中立派に鞍替えしたのだ。
最初は今回の件で土地を取り上げて伯爵あたりまで落とすつもりだったのだ。
だが、現当主は話を聞くや、即行で王都に来たのだ。
貴族派閥の中心人物の不正の証拠を持って。
チョケリィサスの絶縁状は告発状と一緒に渡されたので、どちらかだけを受け取ると言うわけにはいかなかった。
貴族派閥の邪魔な貴族の粛清もあったので、チョケリィサスの罪を公爵に押し付けるように工作する暇もなかった。
おそらく、現当主はそこまで計算に入れての告発だったのだろう。
現当主はチョケリィサスと違いきれ者のようだ。
だが、裏切り者の家をどこの派閥も取り込みたくはない。
ディスロールグランドハイド公爵家も力を削がれたのだし、これでよしとしておくべきだろう。
「これで、この国が少しでもまともになればよいが」
これ以上有能なものを減らさないために不正は正さねばならない。
しかし、無能だと思ったら有能だったということが起きないように慎重にする必要がある。
私の夜も眠れない生活はまだまだ続きそうだ。
公爵嫡男は公爵嫡男じゃなくなるので名前を急遽決めました。
二度と出てくる予定はありません。
明日から第二部を投稿予定です。
第二部でも「愚王たちのその後」の続きは書くことにしています。
ざまぁっていうより、ドタバタが続く感じになると思いますが、それでもよろしければお楽しみください。
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