母と転生者③
「まさか、勝てちまう、、とはね」
「しゃべらないで。傷がちゃんとふさがらない!」
首を落とされ、躯となった竜の横、龍脈の上で俺は必死に母さんに回復魔法をかけていた。
母さんは竜の攻撃を受けて腹に大きな穴が開き、内臓もいくつか無くなっている。
「ごめん。俺が手を出したせいで」
「何言ってんだい。あんたが、加勢してくれなけりゃ、勝てなかった。どっちみち、私は、竜にやられて、死んでたさ。私は、死ぬ、運命だったんだよ」
空を飛び、ブレスなどの遠距離攻撃で母さんを圧倒していた竜を見て、俺は母さんとの約束を守れずに攻撃を加えてしまった。
俺の攻撃は運よく竜の翼を奪い、飛べなくすることに成功した。
翼は竜の弱点の一つだったんだろう。
そこからは俺は全力で逃げ回りながら目や耳など、竜のもろそうな部分に向かってひたすら攻撃を続けた。
ウロチョロとうっとうしい俺と、攻撃でダメージを与えられる母さんの連携で竜は次第に傷を増やしていき、母さんの攻撃が竜の首を切り落とすことに成功した。
だが、ここで俺は気を抜いてしまった。
勝ったと思って立ち止まった俺めがけて竜の爪が飛んできたのだ。
俺の能力ではこれをよけることができない。
受けてしまえば間違いなく一瞬であの世行きだろう。
しかし、俺はこの攻撃を受けなかった。
母さんが俺を突き飛ばしてくれたからだ。
母さんは竜の攻撃を受け、半死半生になりながらも竜の胸をその大剣で突き刺した。
今度こそ本当に竜は動きを止めた。
「しかし、竜は、首を落としても、動くんだね。知らなかった、よ」
「その話はあとで聞くから、血が止まらないんだ」
まさか首を落としても動けるとは思っていなかった。
恐竜は脳が二つあったという話を聞いたことがある。
もしかしたら、この世界の竜も脳を頭と体に二つ持っていたのかもしれない。
「どうせ、最後なんだから、しゃべらせてくれよ。レインの、魔術だって、褒めたいんだからさ。すごかったぞ。あんなに、うまくなってたんだな」
「……」
こんな状況でも、褒められてうれしい感情が込み上げてくる。
あの竜は魔術にそれほどの耐性はなかったんだろう。
特に風魔術の効きが良かったから、風属性が弱点だったのかもしれない。
「そう、だ。レインに、聞いてみたい、ことが、あったん、だった」
「……なに?」
俺も母さんが助からないことはわかっていた。
それどころか、今は龍脈の上で母さんの生命力が上がってるから生きてるけど、ここから出ればすぐに死んでしまうだろう。
俺の魔術ではまだ内臓とかを修復することはできない。
こんなことになるんだったら、農業とかせずに魔術の練習をしておくべきだった。
「あんた。一体何者だい?」
「っ!」
俺は思わず息をのむ。
母さんが俺の腕をがっしりとつかんでくる。
「言葉を話し出すのは驚くほど速い。子供のくせにやけに大人びてる。それに、あんたは私が本を買い与える前から私の知らないようなことも知ってたね」
「それは……」
「悪魔付きか、妖精のいたずらか。もう私は死んじまうんだ。教えてくれてもいいだろ?」
そして何とかごまかそうと目を泳がせていると、母さんと目が合った。
その瞳は強い光を宿している。
息子を害するものであれば何としても殺す。
そういわれている気がした。
この瞳の前では、嘘は通じない。
そんな風に思った。
「……俺は、生まれた時から前世の記憶があるんです」
「は?」
俺は顔を伏せてぽつりぽつりと話し出す。
「転生、っていう言葉はあるんですかね。死んだ人が生まれなおして新しい人生をやり直すっていうの。俺はそれで、前に死ぬまでのことを覚えたまま生まれてきたんです」
「……」
母さんは何も言ってこない。
強く握られた手もそのままだ。
「確かに、前世の記憶はあるけど、俺は母さんの息子だと思ってます。この十年はほんとに楽しかったです。二人で修業して、料理して、一緒に寝て……。だから、母さんの息子でいて、いいですか?」
「……」
俺の腕をつかんでいた手が肩に上がってきて首にかかる。
そして、頭の上にポンと置かれた。
「レインの言ってることはあんまりわかんなかったけど、前に何だったとしても、今、レインは私の息子だよ」
「母さん……」
母さんが俺の頭を優しくなでる。
俺は涙が流れるのを止められなかった。
「私の息子になる前はどこで何をしてたんだい?」
「え?」
「もう、遅いかもしれないけど、息子のことだ。もっとよく知りたいじゃないか。教えてくれないかい?」
「……うん」
俺は前世のことをいろいろと母さんに話した。
学校のこと、友達のこと、趣味のこと、思いつく限り。
母さんは時々うなずきながら俺の話を聞いてくれた。
気が付けば朝が来ていて、竜の躯は魔石だけを残して消えていた。
俺は母さんの墓を龍脈の真上に作った。
母さんが最後に目指したこの場所が母さんが眠る場所としてふさわしいと思ったからだ。
先祖の墓も、どこにあるかわからなかった。
だが、おそらくここでみんなあの竜に倒されたのだろうから、ここが先祖伝来の墓ということでいいだろう。
「じゃあね。母さん。母さんは墓参りとか嫌いだったから、できるだけ来ないようにするよ」
母さんは昔、「生きている人間が死んだ人間に迷惑かけるんじゃないよ」といっていた。
おそらく母さんなりの「生きる」ことへのこだわりがあったのだろう。
「「「「「GAAAA」」」」」
帰ろうと思って振り返ると、十匹前後の白い狼型の魔物に囲まれていた。
かなり神々しい気配を放っているから、かなり強い魔物だろう。
ここの近くのエリアの魔物かな?
おそらく、あの竜がいなくなったのでこの場所を取りにやってきたのだろう。
「『風刃』」
俺はそいつらを『風刃』の魔術一発で倒す。
どうやら、龍脈の上で一晩過ごしたせいで俺の魔力量はかなり上がったらしい。
次あの竜と出くわしても負ける気がしない。
龍脈の上にいてももう上がらなくなっているのだから相当なものだろう。
あとで測ってみないとな。
「あれ?」
全部一撃で倒したつもりだったが一匹だけ残っていたようだ。
魔石が転がる中で伏せている白い狼が一匹いた。
「まあいっか」
俺が魔術を外さないようにその魔物に近づいていくと、その魔物はあおむけになり、腹を見せてくる。
どうやらこいつは雌みたいだ。じゃない。
「おまえ、俺に服従するのか?」
「ウォン!」
白い狼は仰向けのまま元気に一度吠える。
マジか。
魔物が人間に服従するとか初めて知った。
もしかして、テイマー魔術みたいなものもあるんだろうか?
「……まあいいや、じゃあ、お前はここを守っておいてくれるか?」
「ウォン!」
俺の声に肯定するように狼がなく。
まあ、どっちにしろこのあたりをどっかの魔物が支配するんだから、こいつに任せればいいだろ。
反抗してきてもあの竜と同じ強さくらいなら楽に倒せると思うし。
「じゃあ、頼むな。……お前じゃ呼びにくいな。なんか白くてデカい狼でフェンリルっぽいからフェンって名前でどうだ?」
「ウォン!」
フェンは起き上がって俺に甘えるように顔を擦り付けてくる。
どうやら気に入ったらしい。
ていうかかなりモフモフだ。飼いたい。
……名前を付けた瞬間何かがつながったような気がするが、まあ、気のせいだろう。
「また会いに来るよ。お前に会いに来るなら、ここにきても母さんも怒らないだろうし」
「ウォン!」
俺は思う存分フェンの毛並みを堪能した後、魔の森を後にした。
戦闘シーンはいい感じのが書けなかったんで飛ばしてしまいました。
申し訳ありません。
今日も二話投稿します。
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