魔道具を作ろう!③
ちょっと長めです。
「なあ、アリア。ちょっといいか?」
「何?」
キーリが『水石』を完成させたその日、俺はスイとリノの後を追って鍛錬に行こうとするアリアを呼び止めた。
村の現状を質問するためだ。
「スイの錬成鍋とかほかにもいろいろ買うものが出てくるかもしれないから、お金の話をしておきたいんだけど、この村って今どれくらいたくわえがあるんだ?」
「それは……」
アリアは言いにくそうに言葉を濁す。
近くで話を聞いていたキーリとミーリアも暗い顔をする。
「……アリア。どうせすぐにわかることです。この機会に話しておいてはどうですか?」
「そうね……」
三人はいつも食事をしているテーブルに座る。
俺も座ったほうがいいのかと思い、同じテーブルに座った。
「実はね。今現金はこの前辺境伯様が魔石とかを買い取ってくれた分しかないの」
「は?」
ふつうは現金とかもちゃんと残しておく。
まさか、冬越えの食料にすべて使ってしまったとかか?
お金がない割に食事の量は多いしな……。
「若い村人が村から逃げたと教えたことがあったわよね」
「え? あぁ。聞いたな」
前にこの村に住んでいた若者が村を捨てて逃げ出したという話は聞いたことがある。
村を捨てて逃げるということは戸籍とかも失うことになるからそんなことをする奴はほとんどいないのだが、命の危険がある開拓村ではまれにあることだ。
「そいつらが村のお金を全部盗んでいったのよ。ご丁寧にお金になりそうな農具とかも一緒にね」
「な!」
「だから今、村にはお金がないの。農具なんかを買うか借りるかしないといけないからむしろマイナスかもしれないわ」
開拓村は魔の森に近いため農業に向いた土地だ。
麦は種をまくだけでほとんど世話をせずに収穫できる状態に育つ。
それも、春、夏、秋と年三回は収穫できるらしい。
だが、全く何もせずに収穫できるようになるわけではない。
土地を耕さないと種をまいても芽を出さないし、鎌で刈り取らないと収穫することはできない。
特に耕すという行動は重要だ。
耕し、その場所を所有することでその土地の魔力が所有者の作りたい作物である麦に栄養を与えて一気に成長させてくれる。
逆に言うと、耕さなければその土地は人間の所有物にならず好き勝手に雑草がはびこる場所になってしまう。
耕すという行為は儀式の一種なのだ。
魔力の薄い部分ではそこまで気にすることではないんだが、この村のように魔力の濃い場所だと無茶苦茶重要になる。
冬は放置することになるからすべての土地は自然に帰っている。
春に農具がなければ一番重要な農業を始められないのだ。
ちゃんとした農具がなくても耕すこと自体はできるかもしれないが、十分な面積を耕す事はできないんじゃないだろうか?
ただでさえこの村には男手が少ないのだ。
そうなればあの辺境伯様は俺たちからこの村を取り上げるだろう。
「あいつら本当にふざけたことしてくれたわ」
「どうするんだ? っていうか農具を手に入れるめどは立ってるのか?」
「……お金さえ何とかなれば辺境伯様にお願いすれば何とかなるとは思うけど」
農具なんてのは必要な分しか作らない。
今日買いに行って明日手に入るものではないのだ。
「……ねぇ、レイン。魔術で畑を耕すことはできない?」
「うーん。それは結構難しいんだよなー」
土地を耕す魔術はあるが、魔力の効率がとても悪い。
耕すという行為には土地を所有すると言う魔法の儀式的な効果も付随する。
こういった儀式的な意味を持つ行動にはその分多くの魔力を消費する。
なんでも神とかが関わってるからだそうだ。
魔術で無理やり土地を耕していたが、俺が魔術で3時間くらいかけて耕した土地をなんの訓練も積んでない農夫が鍬を振り下ろすだけで耕してしまったのをみて、農業に魔術は向いていないと悟った。
農具を揮って耕す方がずっと広い面積を耕せる。
「あ! 魔術で農具を作るのは?」
「うーん。それが1番マシかなー」
魔術で農具を作るのも実は効率が悪い。
原因は定かではないが、地面を耕していると魔術の構成がどんどん甘くなっていく。
魔力を固めて作った物体であれば、魔力に戻り、魔術を使って加工した物品であれば元の形に戻ってしまうらしい。
それでも、直接魔術で耕すよりはかなり効率は上がる。
「……魔術で作るより、キーリに錬成鍋で作ってもらったほうがいいかもしれないな」
「え? 私?」
「当然だろう? 農具の作成は錬成の一種なんだから」
急に話を振られたキーリは驚いているようだが、当然のことだ。
まぁ、今のキーリでも木のクワくらいなら作れるだろ。
俺には無理だけどな。
「錬成鍋を使って作ることになるんだから村で唯一錬成鍋を持ってるキーリの仕事だよ」
「私の錬成鍋でレインが作るのはどう?」
「錬成鍋を渡した時に話しただろ? 錬成鍋は所有者の魔力にだんだん最適化されていくから、自分のものは他人に使わせるべきじゃない、それに、俺が練成苦手なのはキーリが一番知ってるだろ?」
「……そうでした」
錬成鍋は魔力を消費するが、鍋にだんだん魔力が馴染んでいって使いやすくなっていく。
しかし、他の人に使わせると、その人の魔力に引っ張られて使いづらくなる。
だから自分の錬成鍋は他の人には可能な限り使わせない。
「まあ、この村の周りを耕そうと思えば木のクワが100本くらいあればなんとかなるはずだから、そこまで難しくないよ」
「ひゃっ!!」
100本と聞いてキーリの顔が固まる。
「ま、魔術で直しながら使えないの?」
「だめなんだ。農具とかはどうも『正しい形』自体が書き換えられるらしくて修復系の魔術が効かないんだよ」
農具をはじめ、魔法の儀式に使うものは壊れても魔術で直すことができない。
そのものの『正しい形』を魔法が捻じ曲げるからだといわれていて、儀式で消耗した部分はどうやっても魔術で戻すことはできないのだ。
たとえ戻したとしても、魔術で作った道具同様にすぐに壊れた状態に戻ってしまう。
硬直したキーリの肩をアリアが優しく叩く。
「キーリ」
「……アリア〜」
「ごめんなさい。できるだけ早く手に入れるから頑張って」
「……」
味方はいないと知ってキーリはガックリとうなだれた。
***
「はぁ。また面倒なことになった」
私は錬金術師に呼び出され、彼の工房へと向かっていた。
私はジーゲ商会を立てて辺境伯様のいるこの町に店を構えてはいるが、これはほとんど税金対策のためのものだ。
普段は国内で行商をしていた。
年に数日しか店を開けないのにもかかわらず、その数日のうちの一日に錬金術師の先生が来店してしまったのだ。
こういう時は大体無茶振りだと決まっている。
あの先生は金遣いが荒く、色々なものを商人に売りつけるので有名なのだ。
だが、腕はいいらしく、辺境伯様の覚えもいいため、むげにも出来ない。
全く面倒な客なのだ。
そして、頭が悪いわけではないので、こちらの損はほとんどさせないというのがまた、たちが悪い。
まあ損がないのと利益になるのは別で、彼に売りつけられたガラクタがうちの倉庫に大量にあるのだが。
まあ、コネづくりのための出費だと思って諦めている。
他の商人も同じらしい。
全員で押し付けられたガラクタの情報を共有して、もの好きな貴族のところに行く時は融通しあったりしている。
しかし、最近大型の魔物の討伐などを行ったといった話は聞いたことがないのだが、彼はいったいなにを買ったのだろう。
いや、そんなことはどうでもいいか。
今回はいったいどういったガラクタが押し付けられるのか。
私は重い足取りで錬金術師の先生の家に向かった。
***
「おぉ! よくきてくれたな」
「ご無沙汰しております。先生」
私が錬金術師の先生の家に着くと、先生は両手を広げて私のことを歓迎してくれた。
これはまた面倒なものを押し付けられそうだ。
「今日、君に買ってもらいたいのはこれだ!」
「これは、錬成鍋ですか」
「そうだ。壊れてはいるがね。もの好きな貴族には結構な値段で売れるはずだ」
「は、はあ。そうですね」
先生は奥から錬成鍋を持ってきて私の前におく。
今日売りつけられるのは壊れた錬成鍋らしい。
たしかに、物好きな貴族が買っていくことはあるらしいが、そんなの何十年に一度だ。
正直、保管料も考えると、あまり持っていたい商品ではない。
うちはアンティークショップではないのだ。
「いくらで買ってくれる?」
「そうですね。価値のないものではないですが……」
できるだけ値切りたい。
だが、あまり値切り過ぎると、別のものを売りつけられるだろう。
倉庫がこれ以上圧迫されるのは嫌だ。
あまり商人として褒められたことではないが、この人相手であれば直接いくら必要か聞いてしまったほうがいいかもしれない。
「……先生は今いくら必要なんでしょうか。お恥ずかしい話ですが、今日行商から帰ってきたところであまり情報を集められていません。たしか、大物の魔物の討伐などはなかったと思うのですが……。先生にはいつもお世話になっているので、先生が必要な金額を聞いて、それも加味して値段を決めたいと思います」
「おぉ! そうか? いやー、メーリア商会から上質な土液が売りに出されたのでついつい買ってしまってな。5000万ガネー。いや、他の素材も買わないといけないから5100万ガネー必要なんだ」
「うーん。壊れた錬成鍋一つでそれだけは流石に出せませんね」
「なら、二つならどうだ? 壊れた錬成鍋はもう一つあるんだ」
「……なんでそんなものとっておいたんですか?」
「何とかして直せないかと思って色々してみたんだがダメだった」
そう言いながら先生は再び奥に消え、もう一つ錬成鍋を持ってきた。
直そうとしたという割に、いじった痕跡は見られない。
「綺麗ですね」
「分解しようとしたのだが、なにをしても傷ひとつつかなかった。古代魔術師文明時代の産物は手も足もでんな」
そう言って先生はカラカラと笑う。
かなりすごい先生だったはずだが、この先生でもお手上げとは、本当にすごい。
「しかし、高品質の土液とは、新しい遺跡が見つかったという話は聞いたことがありませんが……」
「なんでも辺境伯様が何処かから持って帰ってきたらしいぞ? なんでも凄腕の錬金術師が流れ着いたとか……。おっとこれは秘密なんだった。誰にも言わないでくれよ?」
「……誰にも言いませんよ」
「そうか? 頼むぞ?」
「はい」
こんな美味しい情報、他に流すはずがない。
「二つで6000万ガネーでいかがですか?」
「おぉ! そんな値段で買い取ってくれるのか? ありがたい」
「えぇ。先生にはいつもお世話になっていますから」
私と先生は悪い笑顔で笑い合った。
まずは辺境伯様が最近どこに行ったかから調べないといけないな。
今日も二話投稿します。
夜は「愚王たちのその後」を投稿予定です。
初レビュー頂きました!
本当にありがとうございます!
そして、明日投稿分がまだ完成していないという。
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