開拓民、始めました⑤
「すっげー!!」
大きな声に驚いて声のほうを振り向くとリノと呼ばれていた少女がきらきらした瞳で俺のほうを見ている。
「兄ちゃん、魔術師だったのか!!」
「え? まあ、魔術師といえばそうかな?」
さっきまでは敵意丸出しだったのに、現金なものだ。
まあ、褒められただけでいい気になっている俺も人のことは言えないかもしれないが。
「兄ちゃんがいれば百人力だな!」
「……百人分くらいは働けるように頑張るよ」
なんとなく、この子の期待に応えるためにも防衛以外にもいろいろやってもいいかなと思ってしまっている。
今までは機械的なやり取りばっかりだったからな。
とりあえず、数か月はここにいることになりそうだし、いろいろとやってみてもいいかもしれないな。
***
「兄ちゃん。まずは俺たちの家に案内するぜ! こっちこっち!!」
「わかったよ、引っ張らなくてもちゃんとついていくから」
リノに魔術師の男の子が引っ張られていくのを見送りながらも、私は放心状態から脱出できずにいた。
彼はグレイウルフをたった一撃の魔術で葬り去ってしまったのだ。
グレイウルフは一か月半前にもこの村を攻めてきた魔物だ。
その時は十人の男手で何とか撃退し、うち五人が亡くなるという大損害を受けた。
しかも、今回森から出てきたグレイウルフはあの時の倍以上の数がいた。
最初、森からグレイウルフが出てくるのを見た時は死を覚悟したほどだ。
立ち尽くした状態でリノたちの背中を見つめていると、服が引っ張られるような感覚を感じる。
そちらのほうを見ると、スイが私の服を引っ張っている。
彼女はあまり口数が多くないので、用事があるときは大体私の服を引っ張るのだ。
「どうしたの? スイ」
「……あれ」
スイが指さす方向を見ると、さっき魔術師の少年が立っていたところのすこし向こうにくぼみのようなものが見て取れる。
近づいてみてみると、深さが私の身長くらいある堀が掘られている。
堀は弧を描くように続いていて、ここから全体は確認できないが、村を囲むように作られているんだと思う。
「まさか、これもあいつが魔術で?」
「……たぶん、そう。さっきまでこんなのなかった」
私の横でスイも堀を見つめている。
「信じられない。こんなのどれくらいの魔術の技量があれば……」
私も、自分で使うことこそできなかったが、魔術に関する勉強はしたことがある。
だから、穴を掘る魔術があることは知っていた。
だが、かなりの魔力を使ってやっと小さい穴が掘れる程度のものだったはずだ。
それを使ってこんな堀を掘るなんて想像もしたことがない。
私たちはとんでもない人間を味方にしたのかもしれない。
***
「ここが俺たちの家だ!」
「へー」
リノに連れられて案内されたのはこの村で一番大きな家だった。
この家だけ作りが異様に頑丈だったように見えたが、どうやら、ここでみんなで共同生活を送っていたらしい。
中には結構生活感がある。
俺が家の中を見ていると、奥から一人の女性が出てきた。
「リノちゃん。おかえりなさい。外は大丈夫だったの?」
「あ! ミーリアねぇちゃん! うん! 兄ちゃんがばばって倒してくれたんだ」
「兄ちゃん?」
女性はそこでやっと俺に気づいたようで、俺に向かって頭を下げる。
「初めまして。わたくし、ミーリアと申します」
「あ。どうも初めまして、ミーリアさん。レインと申します」
「ミーリアさんなんて。私はただの開拓民ですよ。ミーリア、と呼び捨てにしてください。レインさん」
「わかったよ。ミーリア。俺もレインと呼び捨てにしてくれ」
「はい。レイン」
ミーリアさんはきれいな所作で頭を下げて自己紹介をしてくれた。
俺はそれにこたえるように頭を下げて自己紹介をする。
「レインっていうのか。自己紹介してなかったな! 俺はリノだ。よろしくな。レイン兄ちゃん!」
「あぁ。よろしくな。リノ」
俺がミーリアさんにした自己紹介を聞いてリノも自己紹介をしてくる。
そういえば、この村に来て初めて自己紹介をしたような気がする。
「レインさん。この度は助けていただき、本当にありがとうございます」
「いえ。原因は私ですから。当然のことをしただけです」
俺がそういうと、リノとミーリアさんの表情が曇る。
「? どうかしましたか?」
「いえ。こちらの話ですので、お気になさらず」
空気が重い。
何かあったようだが、それを聞くことすら断られてしまった。
「……そんなことより、アリアたちが迷惑をかけませんでしたか?」
「あ~」
そういえば、かなり高圧的だったなと俺は思い出した。
俺の様子に、ミーリアも状況を理解したらしく、苦笑いを深くする。
「申し訳ありません」
「謝られるほどのことじゃないよ」
今までが家畜とか猟犬とかの扱いだったから、人間的に対応してくれる分彼女のほうがずっとましだ。
「この村にいるものはみんないろいろあって行き場のないものばかりなんです。アリアは私たちを守るためにいろいろ頑張りすぎてしまうところがあって」
「なるほどね」
「だから、できれば大目に見ていただけると助かります。本人はみんなのお母さんのつもりみたいです」
「なんか、みんなを守るってお母さんというよりお父さんって感じですよね」
「ふふ。そうですね。でも、本人には言わないでくださいね。絶対に怒りますから」
ミーリアはそういってくすくすと笑う。
俺もつられるようにして笑った。
「ねぇ。あなた」
そんな時、噂のアリアに声をかけられる。
一瞬ビクッとしたが、どうやら今の会話は聞かれていなかったらしい。
アリアに怒っている様子は見られない。
「魔石は拾いに行かなくていいの? あんなところに放置しておいたら魔物に持っていかれるわよ」
「あ。忘れてたよ」
さっき倒した魔物の魔石を回収に行かないと。
魔石は魔物の餌にもなるらしく、放っておくと魔物がかたづけてくれるんだが、せっかく売れるものなんだし、魔道具に使ったりといろいろ使い道もあるのだ。
回収しない手はない。
「なんだよ。アリアが拾ってきてくれたらよかったのに」
「そうしようかと思ったんだけど、この村の周りをぐるっと堀が掘られていて村から出られなかったのよ」
「あ」
そっちも忘れていた。
防衛力を高めておけと言われたから簡単な堀を作ったんだった。
出てきた魔物も大したことなかったし、埋めてしまってもいいだろう。
いや、せっかく代表者が目の前にいるんだし、聞いてから行動するべきか。
「あの堀、埋めたほうがいいか? それとも残しておいて橋をかけるほうがいいか?」
「え? あれ埋められるの?」
「それくらいは簡単だぞ?」
自分で掘ったんだから自分で埋めるくらいはできるだろ。
そこまで深い堀でもないし。
「……せっかくだし、残しておいてほしいわ」
「わかった。じゃあ、後ではね橋でも作っておくか」
俺はアリアにそう告げて外へと向かった。
今日も二話投稿予定です。
次話は夜に投稿します。




