ジーゲさんと商談をしよう②
ミーリア視点です。
「では、そのようにお願いします。すべて買い取っていただいてありがとうございます」
「いえいえ。食料はいくらあっても足りませんからね」
ミーリアとジーゲさんはいつもの食堂で笑顔で商談をしていた。
食料は全部買い取ってくれることになった。
村で取れた食料はジーゲさんの予想以上に品質の良いものだったらしく、倉庫に置いてある食料を確認したら即決で購入を決めていた。
特に値切られることもなく、購入を決めていたので、本当に品質が良かったのだろう。
誇らしくもあるが、残念でもある。
あの様子であればもっと値段を引き上げられただろう。
つまり、商人としてのミーリアがジーゲさんの足元にも及んでいないということでもある。
ともあれ、いま、ラケルさんにも手伝ってもらって積み込み作業を行ってもらっている。
前回以上の数のポーション瓶を運ぶため、ジーゲさんはかなりの数の馬車を引き連れてきていた。
これで大雑把な商談は終わった。
ミーリアの商談はこれからだ。
これから、対痴漢用スタングレネードの交渉を始めないといけないのだから。
スタングレネードは付加価値のようなものなので、村に関わる商談が全部終わった後にしないといけない。
欲をかいたせいで村に不利益を与えるわけにはいけない。
それに、この商談は付加価値だから少々の不利益が出ても許容できる。
商談力を身につけるにはちょうど良い機会だろう。
(……それにしても、予想以上に早くポーション瓶が手に入ったようですね)
今までにポーション瓶を仕入れたことのあるレインも驚いていたから普通ではないのだろう。
状況が分かった方が商談はうまく進められるかもしれない。
今はジーゲさんも商談が完全に終わったと思って気を抜いている。
今なら答えてくれるかもしれない。
……聞いて不利益が生じることはなさそうだし、聞いてみようか。
「ポーション瓶はなかなか手に入らないものだったはずですが、今回は簡単に手に入ったんですね」
「ポーションは領主様に好評だったので、領主様が取り置きのポーション瓶を譲ってくださったんです。それですぐに来ることができました」
「領主様が?」
たしかに、力のある貴族はポーション瓶のようなものを貯蔵していることは少なくない。
ポーションは一種の軍事物資だし、疫病が流行ったときなど、治療薬を作るために急にポーション瓶が大量に必要になる場合があるからだ。
そんな理由もあり、取り置きのポーション瓶はなかなか外には出さない。
この量なら、取り置いていたポーション瓶の大半を放出したことになるんではないだろうか?
小競り合い程度の戦争。
それも、毎年恒例の戦争でそんなものを出すなんて、少しおかしいように思う。
「……これは内密な話にしていただきたいのですが。どうも戦況は相当悪いようなのです」
「……そうなのですか?」
ミーリアが不思議そうな顔をしていたせいかジーゲさんは声量を落として囁きかけるようにミーリアに告げる。
周りを気にしているということはあまり聞かれたくないことなのかもしれない。
いや、聞かれたくない対象はレインか。
レインのような手に職を持つものは結構簡単に国を捨てる。
特に、錬金術師はどこの国も引く手数多だ。
ミーリアはレインはそんな薄情じゃないと知っているがジーゲさんは知らない。
少しムッとしたが、仕方ないことかもしれない。
何より、それを隠しているのはミーリアなのだから。
「えぇ。どうやら、敵国が魔物をけしかけてきたようで、それで砦が一つ陥落しました」
「魔物を!?」
ジーゲさんのセリフに驚きの声を上げる。
魔物は人類共通の敵だ。
それを使うなんて敵国は何を考えているのか。
ミーリアもいまでこそ、魔物は簡単に倒すことができるようになった。
だが、魔物への恐れは消えていない。
……最近少し薄れていた気はするが。
さっきも最近手に入れた大量の魔石をジーゲさんに売りそうになった。
あんなものを売ってしまえばレインに対する警戒は相当上がってしまうだろう。
本当に危なかった。
魔石はポーションの材料にもなるので、村でできるだけつかってしまうのが良いだろう。
それはさておき、魔物への脅威が小さくなったミーリアでさえ、魔物を使おうなんて思わない。
どんなしっぺ返しがあるかわからないからだ。
「そんなこと、教会が認めているのですか?」
「認めるはずがありません。しかし、敵国は魔物を使ったことは認めていません。我が国が運悪く魔物に襲われ、その隙に敵国が運よく砦を奪ったと言い張っています」
魔物自身が怖いというだけでなく、魔物は教会の教義で悪しきものとして定められている。
一部では魔物から手に入る魔石を使うことも禁止するべきだという声すら上がっているそうだ。
教会は回復魔術を押さえているので絶対に敵に回してはいけない組織だ。
教会を敵に回してしまえば必要なときに回復魔術が受けられなくなってしまう。
だが、教会は大きな組織だ。
派閥もたくさんあり、一枚岩じゃない。
派閥同士の対立なんかもあり、国と表立って敵対することは少ない。
一つの派閥が国と敵対しても、別の派閥がその国と手を組んだなんて話も聞いたことがある。
そんなこともあり、ある程度であればごまかすこともできるだろう。
どこまでごまかせるのかはわからないが。
ミーリアは難しい顔でジーゲさんの話を聞いた。
「どうも、マルティン家のマーレン様が殿を務めてくれたおかげで被害は砦一つですみましたが、マーレン様は魔物に傷を負わされて重傷だそうです」
「え?」
いきなり親友の名前が出てきてミーリアの思考は完全に停止した。
次は明日更新する予定です。
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