魔物を倒そう④
「本当にここで戦うの?」
「そうだぞ」
俺は今日は違うことをするといってみんなを魔の森の中に連れてきた。
そして、俺がみんなを連れてきたのはグレイウルフが複数体で出てくるところだった。
ここに来るのは初めてじゃない。
むしろ、ブラックウルフの出るところに行く途中でも通るし、
今日戦闘する予定のグレイウルフ複数体というのも今までも何度もこなしてきている。
「でも、この場所は見通しが悪いわよ?」
「そういう練習だよ」
だが、今日は少しだけ場所が違う。
その部分が『違うこと』だ。
いつもはある程度ひらけた場所を見つけて、そこに魔物をリノに誘い込んでもらっている。
戦いやすい場所で戦闘するようにしているのだ。
リノが誘い込んでくるまでの間にみんなで態勢を整えるので、常に戦闘は万全の状態で行えていると思う。
だが、今日戦うところは木々がまばらに生えている。
見通しはかなり悪い。
今四人はいつもより俺の近くにいるが、木々が邪魔して四人を同時に視界にとらえるのは難しい。
みんなも同じだろう。
いつもと違うからか、四人とも少し不安そうにしている。
今までは連携がとりやすいように全員が見えやすい状況で戦っていたからな。
「逃げながらの戦闘となるとこういうところでの戦闘も必要になってくる。それに、遺跡の中はこんな感じになるだろうしな」
「なるほど」
万全でない状況での戦闘というのはよく起こる。
例えば、逃げている途中で戦闘になれば必ずこちらが有利な状況で戦えるとは限らない。
ばらばらになってしまう場合もあるし、前衛と後衛の立ち位置が反対になってしまう場合もある。
そういうことになりそうなら俺がフォローに入るようにしていた。
だから、今まではそんなことはなかった。
だが、これから先ずっと有利な状況で戦闘できるとは限らない。
俺のいないときに戦闘になることもあるかもしれないしな。
そういうときのために、こういう状況で戦闘させておくのもいいだろう。
アリアたちはずっと余裕の戦闘をしてきているので、気が抜けているみたいだったし、その辺を考え直してもらうきっかけにもなるんじゃないかと思っている。
魔物は本当に怖いものなのだ。
そういうのは口で言っても伝わらないから体験してもらうのが一番いいだろう。
すこし怪我くらいはするかもしれないが、怪我くらいであれば後で治せばいい。
「連れてきたぞー!」
「わかったわ!」
そのうちにリノがグレイウルフを引き付けてきた。
二体のグレイウルフがやってくる。
二体というのは珍しい。
この辺なら三体の群れが一番多いはずなのに。
まあいいか。
いつも通りにやれば、アリアたちは二体でも手こずるだろう。
アリアたちはリノの姿が見えてからいつもと同じように全員が戦闘態勢に入る。
「よろしく――うわ!」
「きゃ!」
いつも通りアリアの隣をすり抜けたリノがスイにぶつかる。
実はそうなるんじゃないかと思っていた。
アドバイスしようか迷ったが、少しくらい失敗した方がいいかもと思って黙っていた。
この程度のミスであれば全然問題にならないだろうしな。
スイの魔術の発動が少し遅れるので戦闘が少しだけ長引く程度だ。
木が邪魔でアリアの隣をすり抜けるためにリノが取れるコースは限られる。
それにリノが通りやすいコースっていうのはスイが射線を取りやすいコースとほぼ一致する。
それで二人ともアリアを自分とグレイウルフの間に入れるように位置取りをしようとすると必然的にぶつかることになる。
走っている途中はスイがアリアの影に隠れていたせいでリノからは見えなかったんだろう。
「スイ!? リノ!?」
「アリア! 前!」
「きゃ!」
アリアがスイたちに気を取られているうちにグレイウルフが到着した。
一匹目のグレイウルフはアリアの剣を持つ手に噛みつく。
アリアはなんとかグレイウルフを防具のある部分で受け止めたようだが、完全に体勢が崩れている。
それではもう一匹を止める余裕はない。
案の定、もう一匹のグレイウルフはアリアの脇を抜ける。
そのグレイウルフはキーリの方へ向かっていく。
たぶん、声を出したから注意をひいてしまったのだろう。
キーリはアリアと違って軽装だ。
格下のグレイウルフと言えど、怪我くらいはするかもしれない。
(そろそろ潮時か)
俺は助けに入ろうと魔術の起動準備をする。
「みんな耳を塞いでください!」
俺がフォローに入ろうかとしていると、ミーリアが大きな声で叫ぶ。
俺がミーリアの方を見ると、ミーリアが白い小瓶を大きく振りかぶっていた。
俺はミーリアのやりたいことがだいたいわかった。
前世でもドラマとかでああいうシーンは何度か見たことあるからな。
――カッ!!
次の瞬間、あたりに強い光と大きな音が聞こえてくる。
俺は油断してその光を直視してしまった。
「「キャンキャン!」」
びっくりしたグレイウルフは一目散に逃げ出す。
それはそうだろう。
俺の目もちかちかしている。
「目が。目が~」とかいうことはないが、直視したのは失敗だった。
避けられたと思うから避けるべきだった。
「『風刃』」
逃げ出したグレイウルフは俺が片付けておいた。
手負いの魔物は倒しておくに限る。
ここで見逃して強くなって帰ってくるとか勘弁してほしいからな。
グレイウルフ程度であればいくら強くなっても大丈夫だとは思うが、見逃す理由もない。
「みなさん。大丈夫ですか?」
どうやら、ミーリアが例の悪漢撃退用の魔道具を使ったらしい。
ミーリアは戦闘手段とかがないから、咄嗟の判断だったんだろう。
「一旦帰るか」
「そうですね」
四人ともさっきの戦闘で放心状態だ。
いや、俺と一緒でミーリアのスタングレネードのダメージを受けたのか。
戦闘中にいきなり「耳をふさげ」とか言われても対応できないよな。
何にせよ、今日の探索はこれまでにした方がいいだろう。
俺はミーリアと一緒に全員を連れて村へと戻った。
次は明日更新する予定です。
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