閑話 戦争の始まり
お待たせしてしました。
新章です。
ミーリアの元友人視点です。
「ふう。今日も何事もなく終わりそうだな」
マーレンは今日の仕事を終えて大きく息を吐く。
この場所は国境付近の砦だ。
例年恒例の隣国との小競り合いはこの砦から少し離れた平原で行われている。
本来の砦将である兄が家の軍を率いて戦場に行っているので、マーレンはまだ学生ではあるが、いまはここで臨時の砦将として詰めていた。
学園の方は今は休みだ。
いつも戦争の時期になると学び舎が長期の休みになる。
多くの学生が戦争に将として参加するからだ。
若い貴族はこの戦争で初陣を迎えることが多い。
隣国との小競り合いとはいっても、大した被害も出ず、年によっては軍を布陣するだけで終わる。
だが、多くの兵が集められるため、兵の運用や陣地の組み方などを知るにはもってこいの戦場になっている。
まさに、若者の初陣にはもってこいの場所だ。
男性はともかく、マーレンのような女性が将として参加することは珍しい。
だが、マーレンの家は最近第二王子派から第三王子派に派閥を移ったため、忙しく、マーレンも戦場に来る羽目になっていた。
戦場とはいっても、この場所はまず戦闘に巻き込まれることはない後方だ。
今年は少し動きがありそうなので、ほかの学生も戦場には出ていないらしい。
だが、こんな後方に何かあることはないだろう。
「レオポルド第二王子が今回は動くみたいだからね」
マーレンは窓の外を見てそう独り言をいう。
マーレンは第二王子とは面識があった。
マーレンの友人であったミーリアの婚約者が第二王子だったのだ。
マーレンも少し前までは同じ学び舎で親しくしていた。
だが、最近その状況は大きく変わった。
「まったく。あんなのが王族だなんて」
第二王子は平民出身で回復魔術が使えるイオという女性を婚約者として迎えるために婚約破棄をしたのだ。
普通、回復魔術の使い手は教会に所属することになる。
教会の制約はいろいろと厳しく、回復魔術一回につきどれくらいの寄進を受け取り、どれくらいを教会に納めるかといったことがしっかり決められている。
そのため、簡単に動かすことはできない。
だが、王族であれば話は違う。
王家と教会は上下関係はないことになっている。
政治をつかさどる王家と宗教をつかさどる教会が争えば大変な事態になりかねないので、かなり昔からそういうことになっているらしい。
そのため、王家の人間だけは例外的に教会の制約から解き放たれるのだ。
よっぽどのことがない限り、王家所属の回復魔術師は自由に動くことができる。
第二王子は自分の自由にできる回復魔術の使い手が欲しかったのだろう。
第二王子はミーリアとの婚約を破棄してイオと婚約した。
第二王子が悪いといわれないようにミーリアにいろいろな冤罪を擦り付けて。
ミーリアの家はミーリアが回復魔法を覚えるために教会に多くの寄進をしたため、抵抗できず、ミーリアを追放した。
公爵家ではあるが、今はかつての権勢はない。
一時は王子の婚約者を出すほどの権勢を誇ったというのに。
おそらく、後二三代は完全には復活できないだろう。
「無茶苦茶をした第二王子もただでは済まなかったんだけどね」
当然、ミーリアの家は第二王子派から第三王子派に鞍替えをした。
マーレンの家もミーリアの家と懇意にしていた伯爵家だったため、付き従うように第三王子派になった。
それだけではなく、ミーリアの家の勢力以外からも第三王子派に移る家がいくつか出た。
少し調べればミーリアが貶められたことはわかる。
自分の婚約者を貶めるようなもののもとに人が集まるはずがない。
そのため、当時は第二王子が圧倒的に優勢だったのが拮抗するまでになっている。
それからは第二王子の勢力は活発に動いている。
第二王子は失った勢力を盛り返すためにも戦争がしたいのだろう。
新しい婚約者は回復魔法が使える。
回復魔法は戦争などが起きて傷を負うものが増えると有用性は上がる。
新しい婚約者がミーリアより役に立つと自慢したいのかもしれない。
「ミーリア、元気にしているかしら?」
マーレンはミーリアのことがずっと気になっていた。
ミーリアは今はどこにいるかはわからない。
家を追い出されて以降は誰も消息を追えていない。
いろいろな冤罪をかぶせられたため、家から追い出されはした。
だが、悪意から守るため、公爵家が消息を追えないようにしたのだ。
だから、今は生きているのかすらわからない。
マーレンは友人のことを思いながら沈みゆく夕日を眺める。
「マーレン様!」
「どうした!?」
血相を変えて一人の兵士が部屋に飛び込んでくる。
尋常な様子ではない。何か起きたのだろう。
「魔物が! 魔物が攻めてきました!」
「なに!」
一瞬焦ったが、焦るようなことでもない。
こんなところに魔物が出ることは珍しい。
だが、全くでないというわけではない。
もしかしたら、見たことのない魔物が出たのかもしれない。
だが、ここは砦。
小さな村とは違うのだ。
兵も詰めているし、魔物であっても倒すことができるだろう。
「どんな魔物だ?」
「グレイバイパーが十匹です」
「じゅ!」
一瞬、兵が何を言っているのかわからなかった。
魔物が複数同時に出るなんて聞いたことがない。
ここは魔の森のそばではないのだ。
だが、今はそんなことはどうでもいい。
十匹の魔物なんて対応できるはずがない。
だから、マーレンが今やるべきことは一つだ。
「撤退する!」
「しかし――」
「お父様には私から謝罪をする。早く準備をしろ!」
ここは最前線の重要な砦だ。
敵軍に取られるわけにはいかない。
そのため、敵の軍が来ても対抗できるように結構な戦力が備えている。
だが、魔物は一匹で一軍に匹敵する。
そんな魔物が十匹も攻めてきたのでは守り通せるわけがない。
勝てないのであれば、被害を少なくするためにも逃げるのが得策だろう。
「申し上げます! 魔物が正面門を突破しました!」
「く! 撤退を急げ! 私も出る!」
しかし、状況はどんどん悪い方向に進む。
別の兵がマーレンの部屋に転がり込んで来て、状況の悪化を伝える。
それを聞いて、マーレンは自分も前線に立つことを決めた。
魔物は魔術に弱い。
しっかりと魔術を学んだマーレンがいれば少しは変わってくるだろう。
この砦にはマーレン以外に魔術を使える存在は少ない。
そういう兵は兄が戦場に連れて行ってしまったのだ。
(まさか、私が砦に詰めているときに魔物が攻めてくるなんて)
マーレンは魔物が攻めてきたという門へと急いだ。
***
対応が早かったため、砦からの撤退には成功し、死者は出なかった。
重傷者は一名。
魔物から逃げるためにしんがりを務めたマーレンが魔物から攻撃を受けて重傷を負った。
お読みいただきありがとうございます。
ミーリアメインの話になります。
いろいろと考えていたら結構間が空いてしまいました。
今日からこの章の終わりまでは毎日投稿を目標で書いていきます。
感想をいただきありがとうございます。
すべて読ませていただいています。
すこし量が多く、質問系の感想が多いので活動報告などでまとめて返そうと思っています。
個別に返信できず申し訳ありません。
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