閑話 愚王たちのその後パートⅡ③
「なんとか間に合った様だな」
「その様ですね。軍務大臣閣下」
軍務大臣は最前線近くの天幕の中で副官と戦況の確認をしていた。
隣国が攻めてきたと聞いたときは焦ったが、どうやら、まだ国内にまでは攻め入られていないらしい。
国境に布陣して数週間経つが、まだ小競り合い程度しか起こっていない。
その小競り合いもこちらの勝利で終わっている。
「どうやら、隣国の軍の本隊がまだきていなかったらしいな」
隣国の兵はそこまでの強兵ではなかった。
何より、前回の戦争の際に我が軍を苦しめた赤や青の鎧を着た隊がいなかった。
あの部隊は全ての隊員が魔道具を持ち、かなりの練度だったため、かなり手こずることになった。
前回の戦争では相手が、人員の多い我が軍を攻めあぐねていたところで隣国で飢饉が発生した。
それで我が軍の勝ちとなった。
もし、そうでなければ我が軍にももっと被害が出ていたかもしれない。
我が軍の勝ちは揺るがなかっただろうがな。
「……今回の戦争は絶対に勝たないといけませんね」
「どんな戦争だろうと勝つ!」
「そ、そうですね」
だが、副官の言いたいこともよくわかる。
今回の戦争は我々軍派閥にとってどうしても勝ちたい戦争だ。
隣国と接している領地を保有する貴族は軍派閥が多い。
軍が前回の戦争で勝ち取ったものなのだから、当然ではある。
もし、隣国に土地を奪われれば軍派閥が弱体化することになる。
それだけではない。
ここで隣国に土地を奪われるようなことになれば、せっかく軍派閥が勢いに乗っている今、冷や水をかけられることになる。
第一派閥になったのだ。
我々がこの国をもっといい方向に導く必要がある。
こんなところでつまずいている場合ではないのだ。
「今、国王陛下が辺境に向かわせていた中央軍の大半をこちらに向かわせてくれたという情報が入ってきました」
「……あの愚王もたまにはいいことをするではないか」
「閣下。口が過ぎますよ」
「そうだな。どこに耳があるかわからん。貴族派閥のようになってはたまったものではない」
あの愚王は娘可愛さに国をめちゃくちゃにした。
どうやら、貴族派閥のディなんとか公爵が派閥拡大のために王女との結婚を画策したらしい。
王族は特殊な事例でもない限り、派閥のバランスを考えて婚姻を結んでいる。
だが、対魔貴族との婚約が決まっており、他の婚約者がいなかった第三王女と婚約することで一歩リードしようとしたらしい。
第三王女は他の王族とも仲が良かったので成功すれば効果はあったかもしれない。
結果は大失敗。
それだけで済めば良かったのだが、余波で我が国は国力を一気に落とすことになった。
関わったものは多かれ少なかれ処罰を受けた。
処罰は広範囲に及び、軍部内でも被害を受けたものはいる。
軍の保養所なども使えなくなったものもあるしな。
だが、ことの発端の貴族派閥ほどではない。
貴族派閥は今ほとんど形骸化している。
おかげで軍派閥が第一派閥になることができたが、受けた被害を差し引くとトントンというところだろう。
本当にいらないことをしてくれた。
「しかし、中央軍が合流すれば一気に押し返せそうですね」
その時、伝令の兵が駆け込んできた。
「報告します。敵軍、本隊到着した様です――」
「やっと来たか」
そろそろ到着する頃だと思っていた。
軍務大臣が立ち上がり、出陣の準備を始める。
しかし、伝令の兵はまだ出ていかない。
それどころか、何かを言いたそうにしている。
どうやら、伝令の途中で軍務大臣が出撃準備を始めてしまったので、最後まで伝令を伝えられなかったようだ。
そういう時は大きい声で伝令を続けるものだ。
そんなこともわからないとは。
もう少し新兵教育に力を入れる必要があるかもしれないな。
騎士団の新人も入ってくることだしな。
「敵部隊。魔術師部隊が中心とのことです!」
「なんだと!?」
軍務大臣が動きを止めて話を聞く体勢を作ると、伝令の兵は続きを話す。
軍務大臣はその伝令を聞いて思わず声を荒げる。
魔術師部隊は文字通り、魔術師を中心とする部隊だ。
この部隊は敵にするととても厄介なのだ。
何が厄介かというと、奴らは強い魔術で遠距離攻撃をしてくる。
その攻撃は弓矢などよりよほど強い。
「クソ! こんな時に騎士団がいれば! 本当に役に立たない!」
普通魔術師部隊は前線には出てこない。
補充が難しいから危険な場所には送らないのだ。
前線で敵の魔術師部隊と削りあいにでもなれば大損だ。
魔術師は一人育てるだけでも10年単位に時間がかかる。
一定以上の技量の魔術師を部隊単位で揃えようと思うと相当な予算と時間が必要になる。
おそらく、我が国の魔術師部隊がいないことを見てとって送ってきたのだろう。
我が国にも魔術師部隊は存在する。
我が国の魔術師部隊は騎士団だった。
だが、今はその騎士団は壊滅状態だ。
旧騎士団は使い物になる人間がほとんどおらず、新兵は訓練すらまともにできていない。
近衞騎士も魔術を使うことはできるが、一騎当千の近衞騎士は王族の守りに必要不可欠だ。
そんなものを戦場に引っ張り出すわけにはいかない。
「く。もうすぐ辺境を守らせていた中央軍が合流する。それまでなんとか持ち堪えて合流すれば一気に叩き返すぞ!」
「承知しました」
遠距離攻撃手段がないいま、近づいて叩くしかない。
魔術も無尽蔵に打てるわけではないので、大量の兵を持って敵の魔術師部隊を討ち取るしか方法はない。
兵の損耗は大きいかもしれないが、この際仕方ない。
一番の問題は軍が合流するまで持ちこたえることだ。
一方的に攻撃されることになるだろうから、どうやって士気を維持するか……。
(早く来てくれ。我が軍よ)
私は軍がいるであろう南の方を向かって祈りを捧げた。
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