開拓民、始めました③
私はすぐに黒髪の人の近くまでたどり着く。
身なりを見ても着の身着のままで来た感じがうかがいとれる。
小さな村から来た移住者である可能性がまた一つ上がった。
しかも、彼は若い男性だ。
今私たちの村が一番欲しい男手。
「ねぇ……」
私は声をかけようとして止めた。
(いけない)
そういえば、街からの紹介がない人ということはちゃんとした人かどうかもわからないのだ。
街の紹介を得た人でさえあの若者たちのように迷惑をかけたうえ窃盗まがいのことをして出て行った。
紹介がない人なんて信用できるかもわからない。
でも、男手は喉から手が出るほど欲しい。
ここで追い返してしまうことはできない。
彼を追い返せば町からの紹介にも影響を与えるかもしれないのだ。
理由もないのに移住者を追い返すような村には誰も来たがらないだろう。
(舐められないようにしないと……)
私は一度深呼吸をして黒髪の少年に声をかけた。
***
私は黒髪の少年を彼が耕す予定の場所において村の中央にある私たちの家へと戻ってきた。
彼は私の話を素直に聞いてくれた。
思っていたよりしっかりした人のようだ。
次からはもう少し柔らかく対応していいかもしれない。
そんなことを考えながら家につくと、家の前で小さな女の子が立っている。
両手を腰に当てて、怒っていますというのを全身でアピールしているが、私とほとんど年が変わらないにもかかわらずその小柄な体躯のせいでぜんぜん怖くない。
「もう! アリア! 帰ってきたらすぐに報告に来いよ!」
「ごめんなさい」
たしかに、先にリノたちに報告にをするべきだった。
黒髪の少年のことで頭がいっぱいですっかり抜け落ちてしまっていた。
「まあまあ、リノ。アリアも悪気があったわけじゃないんだからその辺にしときなさい」
「え~。でもさぁ、キーリねぇ」
リノの後ろから長髪の女性が出てきた。
彼女はキーリだ。
リノの姉だが、性格はあまり似ていない。
髪と瞳が二人とも綺麗な若葉色で見た目は結構似ているのだが。
「アリアお帰りなさい。少し話したいことがあるの。中に入ってくれない?」
「わかったわ」
キーリに促されて家の中に入るとスイとミーリアの二人も家の中にいた。
スイは無口だが、好奇心旺盛な子で、薄い青色の髪に青い瞳からは物静かな印象を受けるが、結構活発な子で興味の持ったものにはのめり込む。
そのせいでたまに失踪してしまい、夏頃には村人みんなで彼女を一日中探し回る羽目になった。(結局、畑の近くで植物の観察をしているところを見つけた)
ミーリアは金髪碧眼の女性だ。
金髪は貴族に多い特徴だ。
おっとりとした性格で多くは語らないが、昔色々あったらしい。
これで村の人間が全員この家に揃っていることになる。
最初は二十人もいたのに少なくなってしまったものだ。
……いや、今日新入りが一人増えたんだったか。
「みんな揃ってどうしたの? このくらいの時間ならいつもはみんな外で仕事してるのに」
「それがね……」
キーリの話を聞くと、昼過ぎごろに魔の森から爆音が聞こえてきたらしい。
そのため、全員でここに集まっていたそうだ。
「音がきこえてからもうだいぶ経っているからもう大丈夫だとは思うんだけど、みんな魔の森が怖いのよ」
そう言ってリノをギュッと抱き寄せたキーリの手はかすかに震えている。
当然だろう。
魔の森の魔物に村が襲われてからまだ1ヶ月半しか経っていないのだ。
私だって魔の森が怖い。
いつあの森から出てきた魔物が私たちの体を引き裂くかわからないのだ。
私は皆と同じように暗い顔で地面を見つめた。
「……さっき、一緒にいた人、新しい住民?」
スイが突然そんなことを言う。
このくらい空気を変えたかったのかもしれない。
「え、えぇ。そうよ」
「よかったわ。5人じゃ村を維持するのも難しいところだったものね。男性もいないし。移住者は男性?」
この国では土地を持てるのは貴族か男性だけだ。
国を守る兵士になれない女性には土地を持つ権利も家を継ぐ権利すらない。
「男性よ」
「へー。なんて名前の人?」
「……聞くの忘れてたわ。すぐ聞いてくる」
「私たちも一緒に行きましょうか?」
「……いいえ。彼をここに呼んでくるわ。みんなにもちゃんと紹介した方がいいでしょ」
キーリも彼に興味があるようだったので、私は彼を呼びに外へと向かった。
(暗い気持ちに飲まれちゃダメ。私はこの村の村長なんだから!)
この時の私は、彼が巻き起こす大きな変化を知る由もなかった。
次回はレイン視点に戻ります。




