探索再開しよう④
「ブラックウルフ。早く出ないかな〜」
俺は誰にともなくそう呟く。
無意識のうちに声が出ていた。
気を抜いちゃダメだ。
ブラックウルフは一人では倒せない。
不意打ちをされたら命にだって関わる。
レイン兄ちゃんが見守っているくれてる様な感じがするので、大丈夫だとは思うが、気を抜いていたら後で怒られちゃう。
俺はレイン兄ちゃんに言われて、いつものように索敵をしていた。
ブラックウルフが出てくるエリアになっても俺のやることは変わらない。
ブラックウルフを探して、見つけたらみんなのところに戻る。
ブラックウルフって言っても、色が黒いだけでグレイウルフと大して変わらない。
らしい!
レイン兄ちゃんはそう言っていた。
グレイウルフはもうそれほど怖くない。
ちゃっちゃとブラックウルフも倒せる様になって、遺跡を探索できる様になりたい。
遺跡に行けばレイン兄ちゃんの呪いを解けるかもしれないのだ。
そうすればレイン兄ちゃんが死ぬこともない。
もう兄ちゃんを失うのは嫌だ。
「ん?」
その時、俺はなんとなく嫌な感じを覚えた。
この感覚には覚えがある。
「なんかいる気がする……」
肌がざわざわする感覚。
これはグレイウルフがいた時にも感じたものだ。
まだ索敵魔術には引っかかっていない。
だが、前にこの感じがあったときも索敵魔術には引っかかっていないのに近くにグレイウルフがいた。
俺は移動速度を落として辺りに目を凝らす。
「居た!」
木々の間から黒い毛並みの生き物が見える。
索敵魔術の範囲より少しだけ外だ。
確証はないけど、おそらくブラックウルフだろう。
もし違っても、レイン兄ちゃんに知らせたほうがいいと思う。
どうやら、まだ向こうはこちらに気づいていないらしい。
この距離なら向こうもこちらに気づかない様だ。
これはちょっとした収穫だ。
向こうに気付かれずにこちらが向こうを見つけられるのであれば危険はグッと下がる。
後でレイン兄ちゃんにも伝えておこう。
(こうしちゃいられない。早くレイン兄ちゃんたちのところに戻ろう)
まだ向こうが気付いていないとはいえ、いつ気付かれるかはわからない。
できるだけ早くレイン兄ちゃんのところに戻った方がいいだろう。
それに、今戻ればアリアたちがブラックウルフに出会うことはない。
アリアたちはまだブラックウルフが怖いみたいだった。
遭わないにこしたことはないだろう。
(ただ色が黒いだけのグレイウルフなのにな)
俺はブラックウルフから目をそらさず、ゆっくりとレイン兄ちゃんたちのいる方へと移動を始める。
――パキ
俺は少しだけ油断していた。
今までやってきたことが、前に俺を殺そうとした相手にも通用して、高揚していたというのもあるかもしれない。
だから、少しだけミスをしてしまった。
不注意でその辺に落ちていた枝を踏んでしまう。
その音を聞いたのか、ブラックウルフが俺のほうを向く。
(やばい。気づかれた)
気づかれてしまっては仕方ない。
全力でレイン兄ちゃんたちのところに戻らないといけない。
気づかれてなければ移動するだけで良かったかもしれないが、気付かれたのならみんなで逃げるしかない。
「あれ?」
一瞬、ブラックウルフの真っ赤な瞳が光った様な気がした。
すると、逃げようとするのに、俺の体が動かない。
ブラックウルフは俺をみてニヤリと笑った気がした。
おそらくこのブラックウルフが何かをしたのだ。
俺はその時、やっと俺の犯した失敗の大きさに気がついた。
ブラックウルフはただ黒いだけのグレイウルフではなかった。
炎の魔法を使う相手だとはわかっていたのに油断してしまった。
気付いたときにはもう遅い。
ブラックウルフは俺が逃げないことがわかっているのか、ゆっくりと俺に近づいてくる。
「に、逃げないと!」
口に出して見るが、状況は変わらない。
頭では逃げないといけないとわかっているのに体が動いてくれない。
ブラックウルフはその真っ赤な瞳で俺のことをにらみ続けている。
俺はなんとかその真っ赤な瞳から逃れようとするが、どうしても目を離すことができない。
とうとう、ブラックウルフは俺の目の前まで来てしまった。
この距離ではもう逃げることは叶わない。
それどころか、いつ飛びかかられるかわからない。
(ここで、死ぬの?)
体は動かないのに、心臓はバクバク煩い。
はぁはぁと何度も息をしているのに、息苦しさがなくならない。
こんな終わりかたあんまりだ!
「!」
その直後、ブラックウルフが何かに気づいたように首を上げる。
俺の後ろに視線を向けている様だ。
一瞬何が起こったのかわからなかったが、答えはすぐに分かった。
「『風刃』」
背後からレイン兄ちゃんの声が聞こえる。
その直後、風の刃がブラックウルフを引き裂いた。
ブラックウルフは魔石を残して消える。
そして、俺は温かい腕に抱きしめられる。
「リノ。大丈夫か?」
「……レイン兄ちゃん」
俺はレイン兄ちゃんの顔を見て膝の力が抜ける。
その場に崩れ落ちた俺をレイン兄ちゃんは優しく受け止めてくれた。
明日も夜に一話投稿する予定です。
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