開拓民、始めました①
「いや、ほんとひどい目にあった」
俺はとぼとぼと獣道を歩いている。
結局あのあと飛行魔術は失敗し、どこかの森の中に墜落したのだ。
失敗した原因はわかっている。
まず一つ目が俺の魔術の練度の問題だ。
最初は試しにと思って真上に発動しようとした。
だが、実際は斜め上向きになったのだ。
真上に打ち上げられたのであれば、そのまま落下すれば同じ場所に戻れたはずだが、角度がついてしまったので彼方へと飛ばされてしまう結果になった。
それに、真下からであれば風を受ける面積は少なくて済み、そこまで吹き飛ばされなかったはずだ。
実際は背中側から風圧を受けることになり吹き飛ばされる距離が延びた。
そして、二つ目が『風除け』だ。
読んで字のごとく、風をよけさせる魔術なのだが、どうやら空気抵抗も『風除け』によって取り除かれたらしい。
空中で空気抵抗すらないということは減速する要因がないことになる。
結果的に「空気抵抗のない世界で球を投げる」というのを体験した。
それはそれはきれいな放物線を描いて飛んだことだろう。
そして、三つ目の失敗が【風大槌もどき】だ。
これが最後にして最大の原因だ。
俺は十秒間【風大槌もどき】を斜め上方向に発動した。
だが、『風除け』があるからと思って少し強めにかけたのだが、それが良くなかった。
どうやら、自分のかける魔術は『風除け』の対象外になるらしく、減衰していない『風大槌もどき』の風圧が体にかかった。
よく考えると当然ではある。
何でもかんでもはじいてしまうようでは防御系の魔術として失格だ。
そんなことがあれば防御魔術がかかっているから回復魔術がかけられませんなんて笑い話みたいなことが起こってしまう。
まあ、その対象外に自分の魔術が全部入ってしまっているのは予想外だ。
自分に向けて自分を害するような魔術をかける奴はほとんどいないが、自分向けにかける魔術なんていろいろと応用して変な使い方をする人もいるだろうに。
俺もその一人だし。
ついでに言うと、十秒間という長さもよくなかった。
ふつうに動くときは推進力を得るタイミングっていうのはそこまで長くない。
走っている状況を考えると地面をける一瞬だけ推進力を得て、他はその勢いのまま走り抜けることになる。
ずっと加速し続けるっていうのは落下しているのと同じだ。
十秒間も落ち続ければそれは相当なスピードになってしまうのは誰でもわかることだろう。
まあ、そんな感じで俺の初のフライトは大失敗に終わってしまったということだ。
「まあ、過ぎたことは仕方ない。結果的に遠くの国に来るという目的は達成で来たんだから良しとしよう。同じことは二度とやらないけど」
墜落したときの衝撃はかなりやばかった。
『頑強』の魔術をかけているうえ、いつも使っている防御力高めの防具にちゃんと着替えておいたからよかったものの、何もなしだったらプチってなってたところだ。
「それはそれとして、……ここはいったいどこだ?」
落ちたのは森の中で、ぶっちゃけ飛んでる途中はあたりを確認する余裕なんて全然なかった。
つまり、この森がどれだけ深い森なのかもわからない。
これだけ歩いても魔物に出会わなかったので魔の森ではないと思う。
あいつら人がいる方向に向かってまっしぐらにやってくるからな。
だからといってここが安全というわけではないだろう。
ふつうの森にも一般人ではかなわないような動物は存在するのだ。
実際今俺が歩いている獣道もかなり太い。
この規模の獣道があるということは熊くらいのサイズの動物が生息している証拠だろう。
おまけに実はまっすぐ歩いているのかどうかも定かではない。
「夕方まで歩いて何にも見つからなかったら木の上に登って野宿かなー?」
だが、おれの予想ははずれ、そこからしばらく歩くと森が切れた。
そして、目の前には粗末な民家が数軒建っていた。
どうやら、無事人里に出られたようだ。
「しかし、どうしたものかな」
俺はたどり着いた村をぐるっと一周してみた。
その村は全部で十軒に満たない家が立ち並んだだけの村と言っていいものか微妙なレベルの物だった。
家も粗末なもので今にも崩れそうだし、こう言った村になら必ずある塀すらない。
一周するのに普通に歩いて一時間もかからないくらいなのだからその規模が小さいことがよくわかるだろう。
そして、貧乏な村ってことは大した情報も手に入らない気がするのだ。
この村をスルーして別の村に向かった方がいいかもしれない。
幸い、村につながる道があったので、この道を村と反対方向に向かっていけばどっかしらの村に着くだろう。
「あなたが新しい開拓民?」
「え?」
俺が腕を組んで考えていると、後ろから女性の声が聞こえた。
振り返ると、燃えるような赤い髪と真っ赤な瞳に強い意思をともした同い年ぐらいの女の子が立っている。
「あなた一人? まあいいわ。やることはいっぱいあるんだから早く村に入って!」
「え? いや、俺は――」
「何よ! まさか疲れてるから今日は働けないとかいうつもり?」
「いや、ちが――」
「じゃあ、早く村に入って準備して!」
「……わかったよ」
どうやら、彼女は俺を新しい開拓民と勘違いしているらしい。
何度も訂正しようとしたが、こっちの話を聞いてくれない。
まあ、落ち着くまで手伝ってから話をすればいいか。
幸か不幸か、今はやることもない。
ある程度手伝いをすれば軒先くらいは貸してくれるかもしれないしな。
俺はそんな打算を持ちながらも少女の後をついていく。
***
黙ってついて行くと、少女に案内された先は広い空き地だった。
雑草が生えていて、手入れされた様子もない。
「ここがあなたの土地よ。自由に使っていいから納税はちゃんとしてよね」
「は?」
ここがって、ここはタダの空き地だろ?
空き地っていうか村の外っていうか。
家どころか小屋すら建っていない。
ここで何をすればいいんだ?
「え~っと、俺はここで――」
「アリアー! ちょっと来てー!!」
俺がここまで案内してくれた赤毛の少女に質問しようとすると、村のほうから大きな声が聞こえてくる。
声の高さから女の子だろう。
「今行く~! あなた! 戻ってくるまでちゃんと作業をしておいてよ」
「おい!」
俺の制止も聞かず、赤毛の少女は村のほうへと走って行ってしまった。
「……いや、何をやればいいんだよ」
俺は途方に暮れながら俺の土地といわれた空き地を見る。
「いっそ、今のうちに逃げちゃうか?」
あの子なんかめんどくさそうだった。
でも、ここがどこなのかくらいの情報はほしいところだ。
帰ってから聞こうにも、彼女、なんか俺にこの村にいてほしそうだったし、ここで待ってたらめんどくさいことになりそうなんだよな。
「……まあいっか。この程度の村からならいつでも逃げられるだろうし。めんどくさくなったら脱走しよう」
写真とかを撮られたわけでもない。
いつでも逃げられるだろ。
最悪、指名手配みたいなことをされても、国を一つ二つまたげば追ってくることもないだろ。
辺境の村にもほかの国で指名手配されてるやつ結構いたし、今も既に国から逃げているようなもんだしな。
あの伯爵、俺のこと見つけたら絶対嫌がらせしてくるだろ。
結構遠くに来てると思うからここなら大丈夫だと思うけど。
「……とりあえず、空き地で野宿するのもいやだし、小屋でも建てるか」
俺は『収納』から斧を取り出し、家の材料を手に入れるため、近くにある森へと向かった。
前半の空想ウンチク(魔術の絡んだ事象を科学っぽく書くこと)は需要はあるのだろうか?
個人的には他の人のそんなのを読むのは好きなんだが。
次回はアリア視点。




