村へ帰る準備をする③
「そうかい。アリアがそんな風になっちまうとはね」
「申し訳ございません」
私は辺境伯様の前で深々と頭を下げる。
アリアの現状を話すと、辺境伯様は苦虫を噛み潰したような顔をした。
辺境伯様は昨晩のうちにある程度の根回しは済ませたらしい。
今朝にはアリアを養女にする手続きが終わっていた。
「じゃあ、大会の続きに出ることもパーティに出ることも難しそうだね」
「今の状況のままでは難しいかと」
おそらく、辺境伯様はこのままアリアに大会で快進撃を進めて欲しかったのだろう。
せっかく王都に貴族が集まっているのだ。お披露目パーティーもするつもりだったのかもしれない。
だが、今のアリアの状況を見ると、どちらも難しいだろう。
執事の人が部屋に訪ねてきただけで立てなくなったのだ。
「……錬金術師から借りた武器があればいいところまでいけるかと思ったんだけど、無理なら仕方ないね」
「申し訳ありません」
私は頭を下げる。
「……気にすることないよ。出なくてよかったかもしれないしね」
「そう、かもしれませんね」
どこの国でも強さと言うのは貴族で一番重要視される要素だ。
武闘会で優勝した次男がパッとしない長男を押し除けて家督を継ぐって言う話はよく聞く話だ。
辺境伯様はアリアが魔術を使えないと思っているが、実際はこの国のだれも敵わないくらいに強くなっている。
それを知っていれば養女にするとは言わなかったかもしれない。
つまり、村のことを隠す重要性が増したと言うことだ。
「……とりあえず、大会の二回戦は私の名前で不参加の連絡をしておくよ。パーティーはまだ準備もしていないから、アリアには村に帰って静養するように伝えておいてくれるかい? フレミア家のこともあるし、今日には無理だろうから、明日には帰った方がいいだろう」
「承知しました」
アリアもあの状況なので、早く村に帰った方がいいだろう。
理由はそれだけではないが。
「……あの。辺境伯様。一つお願いがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「? 何だい?」
「今後も、私が外との窓口になりたいのですが、よろしいでしょうか?」
「あんたが?」
辺境伯様は私の頭の天辺からつま先までをじっと観察する。
「それはまたどうしてだい?」
「アリアは今あの状況です。今後もどの程度回復するかは未知数。であれば、代理人を立てて対応するのが良いかと」
「……」
辺境伯様が目を細める。
辺境伯様の眼光が私を貫いているような気分だ。
これが辺境伯としてずっとやってきた人。
今までがかなりこちらに気を使ってくれていたのだと今にして気づいた。
「……裏はないみたいだね」
「はい」
どうやら、辺境伯様に認めていただいたらしい。
私は背中に冷や汗が流れるのを感じる。
だが、まだ緊張を解くことはできない。
「まあ、いいだろう。あんたの要望を認めるよ。後で執事に必要な書類を持っていかせよう」
「ありがとうございます」
私は最後に深々と頭を下げて辺境伯様の執務室を後にした。
***
「じゃあ、もう帰っていいんだな?」
「はい。辺境伯様の許可はいただきました。ただ、準備などがいるので、出発は明日にしていただきたいです」
「わかったよ。アリアもそれでいいか?」
俺がアリアの方を見ると、アリアは俯いている。
「……ごめんなさい」
アリアは絞り出すようにそういう。
「こんなはずじゃなかったのに。うまくやれると思ってた。強くなったから。武闘会でもちゃんと活躍して。みんなの役に立てると」
ポタリポタリと涙が落ちる。
ミーリアはアリアをギュッと抱きしめる。
「アリアは役に立ってますよ」
「そんなことない。レインにもミーリアにも迷惑かけてばっかりで」
「今回だって、スイやリノのために武闘会に参加したんですよね?」
「違うの。違ったの」
アリアは駄々っ子のように首を振る。
「私もそのつもりだった。リノとスイのためって。口ではそう言ってた。でも、実際に王都に来て、戦ってみて、気づいたの。私は認めて欲しかっただけだった。父さまに。貴族に。私を見下してた人たちに」
「……アリア」
「だから、観客の反応でショックを受けたの。だから父さまが呼んでるって聞いて飛びついちゃったの。私、自分のことしか考えてなかった。それで、レインやミーリアに迷惑かけて、辺境伯さまにまで。私。私……。ごめんなさい!」
アリアは自分を責めるように嗚咽を漏らす。
俺はアリアの頭を優しく撫でる。
「みんなそんなものだよ。俺だってそうだ」
「……レインも?」
「あぁ。みんなに魔術を教えてるのだって、アリアにかっこいいって思ってもらいたい。スイに尊敬されたい。リノに慕われたい。そんな思いがいっぱいあるよ。男ってかっこつけなんだよ」
アリアは顔をあげて俺の方を見る。
その顔は驚きで見開かれていた。
まあ、こんな話をするのは初めてだしな。
「でもさ。みんなに安全に生きて欲しいっていうのも嘘じゃない。あんな場所でも危険を感じないくらい強くなってほしい。それだって嘘じゃない。アリアだってそうだろう?」
「……」
「確かに、自分のためっていう部分もあったのかもしれない。けど、村のみんなのためっていうのも嘘じゃない。そうだろ? それとも、俺や村のみんななんてどうでもいいと思ってるのか?」
「そんなこと! レインも村のみんなもほんとに大切よ!」
俺の問いにアリアは強い口調で答える。
俺はその様子が嬉しくって思わず頬が緩む。
アリアに大切と言われて嬉しかった。
結局、俺もアリアと同じように誰かに認められたかったのだろう。
「私はアリアが私たちのために頑張ってくれて嬉しかったです。アリアが貴族を見返したいって思いがあったとしてもそれは変わりません」
ミーリアはアリアを強く抱きしめる。
「ミーリア……」
「アリア。頑張ってくれてありがとう」
しばらくの間、アリアはミーリアの腕の中で泣き続けていた。
明日も一話投稿する予定です。
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