閑話 愚かな異母兄のその後
「リグル様。お目覚めください」
「ん?」
俺は低い男の声を聴いて目を覚ます。
目を開けると、我が家の執事長の顔が目の前にあった。
いつも通り厳しい顔だ。
こいつはいつも俺に厳しく当たるのだ。
俺が当主になったら絶対に首にしてやる。
「こんな時間になんだ?」
今は何時だろうか。
あの異母妹を処分した後、家に帰った。
その後、ルコを抱いてから湯あみをして眠りについた。
それからしばらく経っているはずだから今は深夜くらいだろうか?
明日は俺が武闘会に出場するというのに、なんのようだ?
「御当主様がお呼びです。すぐに準備をしてください」
「お父様が?」
俺は首を捻る。
お父様に呼ばれるようなことは何もしていない。
まさか、明日の武闘会の激励をしてくれるわけではあるまい。
「わかった。着替えをするからルコを呼んでくれ」
「……彼女はおりません。別のメイドを連れてきておりますので、そのものにお手伝いをさせます」
「? そうか。わかった」
……ルコが……いない?
少し気になるが、今はお父様に呼ばれているところだ。
そんなことに気を取られている場合ではないだろう。
俺はメイドに手伝われて着替えを行った。
***
「お父様、リグルがまいりました」
「……入れ」
執事長に案内されて俺はお父様の執務室の前まで来た。
俺が声をかけると、お父様の言葉が返ってくる。
「失礼します」
俺は執事長が開けた扉をとおる。
執務机にはいつものように難しい顔をしたお父様が座っていた。
お父様は何かの宝石のようなものを手で弄んでいる。
いつきてもこの場所は緊張する。
「……お前はなぜ呼ばれたかわかるか?」
「いえ」
「そうか」
お父様は俺を睨みつけてくる。
「お前は、今日、アリアに会ったらしいな」
「あぁ。あの出来損ないでしたら、ちゃんと処分しておきました」
ダン!
お父様が机を叩く。
「お前はなんてばかなことをしたんだ!」
「ひぃ!」
俺は思わず一歩後ずさる。
「お前のせいで私は恥をかいたのだぞ!」
「ど、どういうことでしょう?」
「……これをみろ」
お父様はそう言って手元にあった魔道具を起動する。
魔道具は武闘会の情景を映し出す。
「こ、これは」
「これにはアリアの見た情景が保存されているそうだ。当然お前の愚行もな」
「なぁ!?」
そんな魔道具をあんな出来損ないが持っていたのか?
「で、出鱈目です。そんな魔道具あるわけない。そ、そうだ。ルコが、ルコが俺の身の潔白を証明してくれます!」
俺がそういうと、お父様の目が細められる。
「あの売女なら先ほど処分した」
「な!?」
「当然であろう? メイド風情が私の娘の名を騙ったのだ」
俺の膝が笑い出す。
まさかそんなことになるなんて。
だ、だが、俺は大きな失態を犯したわけではない。
「で、でも、貴族崩れをいたぶった程度、なんの問題があるのですか? 貴族崩れの言葉など誰も信じませんよ」
お父様は首を左右に振る。
まるで、物分かりの悪い使用人に呆れているように。
「これを持ち込んできたのはフローリア辺境伯様だ」
「辺……境伯」
「そうだ。あいつは放逐された後、妻の実家であるフローリア家が引き取った。我が家とつながりを作る足がかりにでも考えていたんだろう。申し出を断るのも角が立つので、平民として扱うことを条件に引き渡した」
お父様が苦虫を噛み潰したような顔になる。
「今考えると失敗だった。ウチとしてはただの厄介払いのつもりだった。だが、今回勝手に武闘会に出場したことを謝りにきたのだ」
あいつが今どこで何をしているかなど知らなかった。
まさか辺境伯なんて後ろ盾があったとは。
「監督不行届のお詫びにフローリア家で養女として引き取ると提案された。断るつもりだったが、こんなものを見せられれば受けるしかあるまい。平民として育てる約束は口約束で、向こうはちゃんとした証拠を持ってきたのだからな。全くしてやられたよ」
お父様は苦々しい顔で魔道具をコツンと小突く。
宝玉はちょうど俺がアリアを見下ろしている情景を映していた。
丁寧にあの時のセリフまで宝玉の中から聞こえてくる。
「べ、別に貴族崩れを襲ったくらいでーー」
「相手が誰だったかなど関係ない。我が家のものが、規則を破り、同じ出場者を陥れた。貴族にとってはそれだけで大きな失態だ」
「そんな……」
俺はガックリと膝をつく。
「お前には失望した。地下の牢屋で一生を過ごせ」
「な!」
「外には出さん。アリアのように面倒ごとを持ってこられては困るからな。連れて行け」
「お待ちください。お父様! お父様ーー!」
俺は部屋に入ってきた騎士に引きずられ、屋敷の地下にある牢屋に入れられた。
***
「さて、どうしたものか」
私は執務室の椅子に深く腰掛ける。
そして、魔道具を見つめる。
アリアの試合を今日の一番最初に持ってこさせたのは私だ。
時間が経つに連れて社交界のために王都にくる貴族が増えていく。
わが家の恥部は他の貴族の目のつかないうちに処分したかった。
だから、アリアがデイル=ロールに勝利したと聞いたときは耳を疑った。
そして、試合内容を聞いてさらに驚くことになる。
デイル=ロールの魔術をアリアが切ったというではないか。
アリアは魔術が使えなかったはずだ。
相当高位の魔道具を使ったに違いない。
そこで思い出したのがアリアが赴任したという開拓村だ。
辺境伯が魔の森の近くに新しく作ったという話を最近耳にした。
最近は戦争で男手がとられていたので、新しく開拓村が作られたのは久しぶりだったので覚えている。
そうなれば、答えは簡単だ。
おそらく、アリアは新しい遺跡を見つけたのだろう。
今回使った魔道具もそこで手に入れたものに違いない。
「おそらくこの魔道具も遺跡で出たものだろうな」
私は辺境伯に渡された情景を記録する魔道具を見る。
このような魔道具があるとは聞いたことがない。
であれば、有用な魔道具がまだ眠っているかもしれない。
となると、辺境伯が彼女を養子にしたいと言ったのもその関係か。
アリアが遺跡の場所を辺境伯に知らせていないのか。
入り方に秘密があるのか。
初めに入ったものしか入れない遺跡もかつてはあったと聞く。
「なんにしろ、少し動く必要があるな」
フレミア家は魔術を得意とする武門の家だ。
戦争はあった方がいい。
そう思って第二王子派に近づいていたが、今回アリアを第三王子派の筆頭であるフローリア辺境伯に養子に出したことで今まで通りにはいかなくなった。
第二王子派には距離を置かれるはずだ。
スパイの疑いをもたれることだって考えられる。
「何か手土産が必要かもしれないな」
新しい遺跡は手土産として有効だろう。
アリアとは今回の件で関わりにくくなった。
だが、フレミア家が関わった件は全てリグルが動いたものだと思っているだろう。
私がやったことはあちらにはまだ伝わってないはず。
まだやりようはあるはずだ。
私は今日手に入れた魔道具を手で転がしながら今後のことに考えを巡らせた。
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明日も一話投稿する予定です。
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