50 男たちの結末
ユニコーンの装甲も躯体も、すべてが断末魔の破壊音をあげる中、二人の男は最後まで操縦桿から手を離さなかった。
「勝てなかったな。最後まで……」
落下の衝撃で負傷した頭から流れる血も拭わず、バンカはぼんやりと呟いた。
自身が座るコクピットの右半分は、アンナロゥ大佐もろとも削り取られてこの世から消えていた。
「畜生」
抑揚のない声で、もう一言呟いてみる。
かすみつつある視線の先。
あまりにも見慣れてしまった黒鉄の巨体が、こちらを見下ろしていた。
「――トドメ、刺せよ」
巨人を見上げて呟く。
独り言のようでいて、それは確かに、たったいま命のやり取りをした勝者へ――戦友へ向けた言葉であった。
「刺さない」
巨人から、彼の声が返ってくる。
――ああ、そうか。相変わらず、バカみたいに耳が良い――
「俺がお前の立場なら、刺すぜ」
「僕はそうしない」
「なぁ、ひと思いにやってくれよ」
「嫌だね。勝ったのは僕だろ。負けた方の言うことなんて、聞かないよ」
冷静に言い放たれた“彼”の言葉に、バンカは力の入らない左手をどうにか頭に持ってきて、血まみれの金髪をくしゃりと掻いた。
「――ヘッ、そうだよな、お前は最初ッから、そういうヤツだったな」
「そうだよ。良く分かってるじゃないか。それじゃ、“今まで通り”。僕が今からやることを、そこで見ててくれよ」
踵を返したファーザーが、地中へと消える。
バンカは瞑目して、ヴォルテ=マイサンに思いを馳せる。
――最後の最後で、あいつは俺に手加減したのか?
すぐに、かぶりを振って自らの考えを否定する。
――あいつは、ヴォルテは、こういう時に手加減なんてしない男だ。
口もとが緩む。それをよく知っているのは、“自分”じゃないか。と。
きっと、あいつの黒い瞳は、いつもみたいにグルグルと渦を巻いていたに違いないのだ、と。
――つまり。結論は。
「初めて、俺はあいつと“引き分け”まで持ち込めたんだな」
いま、こうしているのは紛れもなく、自分自身が“手に入れた”結果だ、と。
バンカ=タエリは、満ち足りた気分のまま、意識を手放したのである。




