表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/54

50 男たちの結末

 

 ユニコーンの装甲も躯体も、すべてが断末魔の破壊音をあげる中、二人の男は最後まで操縦桿から手を離さなかった。


「勝てなかったな。最後まで……」


 落下の衝撃で負傷した頭から流れる血も拭わず、バンカはぼんやりと呟いた。

 自身が座るコクピットの右半分は、アンナロゥ大佐もろとも削り取られてこの世から消えていた。


「畜生」


 抑揚のない声で、もう一言呟いてみる。


 かすみつつある視線の先。

 あまりにも見慣れてしまった黒鉄の巨体が、こちらを見下ろしていた。


「――トドメ、刺せよ」


 巨人を見上げて呟く。

 独り言のようでいて、それは確かに、たったいま命のやり取りをした勝者へ――戦友へ向けた言葉であった。


「刺さない」


 巨人から、彼の声が返ってくる。

 ――ああ、そうか。相変わらず、バカみたいに耳が良い――


「俺がお前の立場なら、刺すぜ」

「僕はそうしない」

「なぁ、ひと思いにやってくれよ」

「嫌だね。勝ったのは僕だろ。負けた方の言うことなんて、聞かないよ」


 冷静に言い放たれた“あいつ”の言葉に、バンカは力の入らない左手をどうにか頭に持ってきて、血まみれの金髪をくしゃりと掻いた。


「――ヘッ、そうだよな、お前は最初ッから、そういうヤツだったな」


「そうだよ。良く分かってるじゃないか。それじゃ、“今まで通り”。僕が今からやることを、そこで見ててくれよ」


 踵を返したファーザーが、地中へと消える。


 バンカは瞑目して、ヴォルテ=マイサンに思いを馳せる。


 ――最後の最後で、あいつは俺に手加減したのか?


 すぐに、かぶりを振って自らの考えを否定する。


 ――あいつは、ヴォルテは、こういう時に手加減なんてしない男だ。


 口もとが緩む。それをよく知っているのは、“自分おれ”じゃないか。と。

 きっと、あいつの黒い瞳は、いつもみたいにグルグルと渦を巻いていたに違いないのだ、と。


 ――つまり。結論は。


「初めて、俺はあいつと“引き分け”まで持ち込めたんだな」


 いま、こうしているのは紛れもなく、自分自身が“手に入れた”結果だ、と。

 バンカ=タエリは、満ち足りた気分のまま、意識を手放したのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ