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31 41歳、妻子持ち

「少尉、申し訳ありませんでした。自分は――悔しいです」

「よくやってくれましたよ、ヴォルテ伍長は」

「し、しかし! 少尉らを危険に晒してしまいました。しかも、ヤツは立場を利用して、少尉の無防備な姿を……! 卑劣です!」


 心底から悔しそうに拳を震わせるヴォルテに、アヤはかける言葉を選び兼ねた。そこには、幾分かの戸惑いも手伝っている。

 どちらかと言えば気持ちの切り替えや割り切りが早い方だと思っていた彼が、ここまで激しく自身の失態を悔やむとは思ってもみなかったのだ。


 言葉を紡げないアヤに代わり、カナが柔和な表情でヴォルテに声をかけた。


「ヴォルテ、もしかして少尉さんの裸を見られたことに怒ってる?」


 カナが出した突拍子もない助け船に、アヤもヴォルテも一瞬、思考が停止。

 鳩が豆鉄砲を食らったような顔である。


「え、そ、そんなことは」

「……そうなんですか? ヴォルテ伍長」

「いや、あの、ええと。違う、とも言えないというか……ちょっと、母さん! なんてことを」

「あら。久し振りに母さんって呼んでくれた! 嬉しいわ。遠慮しなくていいんだからね」


 カナ相手に動揺するヴォルテの仕草は初々しく、はたから見ているアヤの胸中にもいたずら心が首をもたげた。


「ふふ、お心遣いありがとうございます、ヴォルテ伍長」

「う……も、もう、少尉まで!」

「うふふ。アヤさん。遠慮なく、この子をいじめてやってちょうだいね」


 カナはそう言ってアヤの肩に手を置き、耳元に顔を寄せ。


「――きっとあなたになら、まんざらでもないと思うから」


 不意打ちの耳打ちに、夜風に冷まされていたアヤの頬もまた、紅くなった。


 *


 アノルドとカソルド、傭兵ダイオード兄弟は、いずれも規格外とくちゅうの背広を着て、“上客”の執務室を訪れていた。


 アノルド=ダイオードは、身体の成長だけが子供のまま停まっている。

 際限なく身長が伸びてゆく弟ともども、彼らの身体的特徴は『奇病』と呼ばれる類のものであったが、彼はその姿を利用した暗殺や潜入工作を得意としていた。


「こいつが交戦時の映像記録(ビデオ)、で、こっちが損傷箇所と状態のリストっすわ」


 傭兵が差し出したディスクとレポートの紙束を、ナメラ=エラーフェ少佐は飄々とした声音でご苦労さん、と言いながら受け取る。


「詳細はソイツを見てもらえば良いとして――ありゃあマジで得体の知れねぇバケモンですぜ、旦那。まともにやり合っちゃ命がいくつあっても足りねえや」

「おやおや。金さえ貰えば何だってやる、命知らずの傭兵兄弟にしては随分弱腰だねぇ。まぁ、気持ちには共感できるけどさ。私だってアレと交戦しているからね」


 アノルドは背広のポケットからタバコを一本取り出し、口端に咥えながら肩をすくめた。


「弱腰、弱腰ね――そろそろカタギになりましょうかねえ? 俺ンとこにも、こないだガキが生まれたもので。ああいう孤児院(ところ)での仕事は、やりにくくって仕方がねぇや」


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