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30 遁走

 トゥーマが巨大兵器らしからぬ軽快なステップを踏む。

 舞踏めいた重心移動により、そこから放つ攻撃の運動エネルギーを強化する機甲戦術動作モーションである。


「逃がすわけにはいかない、けど……どうやって“つかまえる”?」


 被弾を恐れず攻め続けるしかない。そう結論して踏み込もうとしたヴォルテの耳に、機体の集音機ごしの叫び声が聞こえてきた。


「ヴォルテ伍長ー! 足下です! とにかく敵の足下を狙って下さい!」


 孤児院のバルコニーに、体をよじり絞り出すようにして叫ぶアヤの姿が見える。

 ヴォルテは頷いて、自分の口中で了解、と呟き、フットペダルを踏み込んだ。


「ギュイイイイイイ」


 ドリルが回る。

 ドリルが回って巨体が走る。

 小刻みな跳躍を繰り返し、四肢を自在に操り牽制打を仕掛けてくる敵機トゥーマ・タイプに対し、あくまでもドリルを振るう。


 黒鉄の剛腕はいずれも宙を切り、その度に反撃の爆裂脚が装甲を削る。


 しかしファーザー依然猛然。

 装甲の奥、光る双眸見据えるのは、勝機。


「今だ、ファーザー!」


 ファーザーのインパクト・ドリルが上段から急角度で打ち下ろされた。

 敵は大きく後方跳躍でこれを回避。勢いのついたドリルはそのまま地表に突き立つ!


 ――決定的な『機』は、ここに生じた。


 回転と衝撃を同時にもたらすファーザーのドリルは、地面の状態を変化させる。

 すなわち、衝撃による液状化と、回転による攪拌!

 ファーザーを中心にして、周囲の地面が陥没し渦を巻く。

 その影響範囲は、跳躍していたトゥーマ・タイプの着地地点にも及んでいる!


「何ィィィー!?」

「ニイちゃん! ニイちゃんニイちゃんニイちゃんーッ!」


 足下をすくわれたダイオード兄弟が、コクピット内で揃って驚愕の声をあげた。

 正面モニターに映るのは巻き上げられた土砂の柱と――そこから飛び出してきた黒鉄の未確認兵器(バケモノ)だ!


「もらったァーッ!」


「なろー、俺だけ死んでたまるかよォ!」


 ファーザーの必殺ドリルが、トゥーマ・タイプのコクピットをめがけてくる。

 アノルドは咄嗟に弟から腕部コントロールを奪い、機体の両腕を十字にクロスさせた。


 ドリルが腕のバインダーに突き立てられる。まずは左腕が一秒ともたず削り切られた。

 そして、右腕の中程までドリルの尖端が達した所で、トゥーマの全身から黒色の煙幕が噴出。孤児院を背にしたファーザーに吹き掛けられる。


「催涙煙幕!? まずい、この風向きだと孤児院まで――!」


 煙幕の性質に気付いたヴォルテは敵への攻撃を中止し、コンソールを打鍵する。

 ファーザーの脚部に装備した空気噴射装置(エア・ブラスター)が起動し、煙幕を吹き飛ばした。エア・ブラスターは、随伴する味方歩兵を煙幕や粉塵から守るための装備である。


 煙幕が晴れると、ダイオード兄弟のアーマシングは既に遥か彼方へと跳び去っていた。


「チィッ、割りにあわねえ仕事だったぜ!」


 隙をついて遁走に成功したアノルドは、切断された機体の左腕と、装甲表面のステルス塗料が摩擦で焦がされた右腕を見て吐き捨てた。


 地中を掘り進むという、あの黒い機体は追ってこない。

 これ以上の追撃は、サウリア軍として益なしと判断されたのであろう――孤児院のバルコニーとファーザーの頭部で交互に明滅している光信号を見やり、傭兵アノルド=ダイオードは密かに胸を撫で下ろすのだった。

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