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66.F級の僕は、アク・イールの最後の言葉に想いを馳せる


5月20日 水曜日2



アリアの背中を撫ぜながら、僕は、ポップアップ越しに、アク・イールの方に視線を向けた。

アク・イールは、物言わぬ(むくろ)と化して、仰向けに横たわっていた。

僕の攻撃で受けた【毒】の影響によるものだろうか?

顔は紫に変色し、口の端からは、わずかに血が流れ出ていた。


モンスターと違って、光の粒子となって消えたりはしないんだな……


僕は、なぜか場違いな感想を抱いていた。

この手で、アク・イールの命を奪ったにも関わらず、僕の心は、不思議な程落ち着いていた。


と、ドルムさんが、近付いて来た。

そして、アク・イールの傍で身を(かが)めた。


「この男は……?」

「ドルムさん、御存知なんですか?」

「いえ、しかし……凄腕の獣人の殺し屋がいる、と耳にしたことがあります。もしかしたら、この男がそうなのかもしれませんね」


話しながら、ドルムさんは、アク・イールの装備と所持品を調べ始めた。

僕は、アリアからそっと離れて、ゆっくりと立ち上がった。

そして、再び、目の前に浮かぶポップアップに視線を移した。



アク・イールを倒しました。

スキルを奪いますか?

▷YES

 NO



僕は、試しに▷YESを選択してみた。

ポップアップの内容が切り替わった。



奪いたいスキルを選択して下さい。

▷【急所突き】

 【暗殺術】

 【隠密】



どうやら、この中から、一つだけ選択できるようだ。

それぞれのスキルの説明を表示させるために指を伸ばそうとしたところで、ノエミちゃんが近付いて来た。


「タカシ様、お怪我はございませんか?」

「うん、なんとかね。ノエミちゃんは大丈夫だった?」


どうやら、ノエミちゃんですら、僕の目の前に浮かぶポップアップには、気付いていない様子であった。

ノエミちゃんは、にっこり微笑んだ。


「はい、タカシ様に守って貰えましたので」


僕は、ポップアップ越しに見えるノエミちゃんに、気になる事を小声で聞いてみた。


「ノエミちゃん、エレンは?」

「多分、もういずこかへと去ったかと」

「ノエミちゃんを守ってって頼んでたのにな……」

「その事なのですが、あの者は、(がら)にもなく、私を守る等と言い張っておりましたので、説得して帰って貰いました」

「そうなの?」

「私としましても、得体の知れない闇を統べる者と一緒にいるより、こうしてタカシ様のお傍にいた方が……」


ノエミちゃんが、そっと身を寄せて来た。

彼女の髪の良い匂いが、鼻腔をくすぐり、僕は少しドキドキした。


そんな僕等に、ドルムさんが、声を掛けてきた。


「この者の所持品と遺体は、アールヴに運び、衛兵に引き渡したいと思うのですが」

「そうですね……」


話しながら、ふと、アク・イールの最後の言葉を思い出した。

確か、ネックレスについたロケットペンダントの話をしていなかったか?


「ドルムさん、この男の所持品に、ネックレスって無かったですか?」

「ネックレス……ですか?」


ドルムさんが、不思議そうに首を捻った。

僕は、改めて、アク・イールの遺体に目をやった。

アク・イールは、身ぐるみはがされた感じになっており、身に付けているのは、下着だけ。

所持品その他は、傍に綺麗に仕分けされて並べられていた。

ぱっと見た感じ、遺体にも、脇に置かれたアク・イールの所持品の中にも、ネックレスのような装飾品は、見当たらなかった。


ネックレスどうこうって言うのは、僕の聞き間違いだったのだろうか?


「ネックレスについては、よく分りませんが、とりあえず、この男は、昨晩の襲撃、そして今夜の火事への関与が濃厚です。これらの所持品含めまして、アールヴまで運び、しかるべき部署で調べて頂きましょう」


ドルムさんの言葉に、僕を含めて皆が頷いた。


宿屋の火事は、結局、カイスの仲間の女冒険者が使用する水属性魔法や、村人達の消火活動により、数分後には、鎮火した。

しかし、当然燃え落ちた宿で夜を明かす事は不可能であり、僕等は、馬車の中で朝まで仮眠を取る事になった。


僕は、アリアやノエミちゃんと同じ馬車の中で横になりながら、一人、アク・イールとの戦いを思い返していた。

そして、周囲の皆が、寝息を立て始めるのを待って、改めてポップアップを確認した。



奪いたいスキルを選択して下さい。

▷【急所突き】

 【暗殺術】

 【隠密】



僕は、それぞれのスキルに指を触れてみた。



【急所突き】:耐性を持たない相手を攻撃時に、低確率だが、一撃で倒す事が出来るようになる。

成功確率は、自分と相手とのレベルとステータスの差に依存する。



【暗殺術】:所持していると、暗殺系のスキルの成功確率が上昇し、逆に自分に対する相手の暗殺系スキルの成功確率を低下させる事が出来る。



【隠密】:発動中は、スキルや魔法で破られるまで、一切、姿を認識されずに行動する事が可能になる。

このスキルを使用中は、1秒ごとにMPを1消費する。



どれにしよう?

どれも役に立ちそうだけど……


【急所突き】は、不確定要素が多い。

【暗殺術】って、僕は別に暗殺系のスキルを伸ばしたいわけじゃ無い。

【隠密】……姿隠せるのは、色々応用利きそうだ。


という事で、僕は、【隠密】を選択した。

そして、改めて、ステータスウインドウを呼び出してみた。



―――ピロン♪



Lv.60

名前 中村(なかむら)(たかし)

性別 男性

年齢 20歳

筋力 1 (+59)

知恵 1 (+59)

耐久 1 (+59)

魔防 0 (+59)

会心 0 (+59)

回避 0 (+59)

HP 10 (+590)

MP 0 (+59)

使用可能な魔法 無し

スキル 【異世界転移】【言語変換】【改竄】【剣術】【格闘術】【威圧】【看破】【影分身】【隠密】

装備 ヴェノムの小剣 (攻撃+170)

   エレンの衣 (防御+500)

効果 物理ダメージ50%軽減 (エレンの衣)

   魔法ダメージ50%軽減 (エレンの衣)



ステータス的には、僕等の世界でいうC級を超えて、B級に足を踏み入れつつある。

自然に顔が(ほころ)んだ。


ステータスウインドウを閉じた僕は、目を(つぶ)り、眠ろうとして……

やはり、アク・イールの最後の言葉が気になった。


ネックレス……ロケットペンダント……王宮の地下牢……


あれって、やっぱり聞き間違いじゃないよな。

でも、アク・イールの所持品をチェックして、仕分けしたドルムさんは、ネックレスについては、心当たり無さそうだった……


僕は、ゆっくりと身を起こした。

周囲の気配を伺ってみたが、皆眠っているようであった。

僕は、密かに心の中でスキルを念じた。


「【隠密】……」


途端に、自身の存在が、周囲から知覚されなくなったのを感じ取れた。

そのままそっと馬車を抜け出した僕は、アク・イールの遺体と所持品とが収められているはずの、別の馬車へ忍び寄った。

荷台の中を覗き込んでみたが、誰の姿も見当たらない。

僕は、荷台の中に入って、【隠密】のスキルを停止した。

まずは、アク・イールの遺体が収められている(ひつぎ)を開けてみた。

アク・イールが身に付けているのは、下着だけ。

背中の方も探ってみたが、ネックレスらしきものは見当たらなかった。

遺体を収めた棺を元に戻した僕は、隣に置かれた、アク・イールの所持品が収められている箱の中身も確認してみた。

やはり、こちらにもネックレスらしき物は収められていなかった。


ネックレスどうこうの話は、死を前にしたアク・イールが、混乱して発しただけ……?


アク・イールが、最初に僕等を襲い、ノエミちゃんの拉致を図ったのは、黒の森中央の野営地だった。

次に、確証は無いが、状況から(かんが)みて、ウストの村の宿屋に火を放ったのも、アク・イールだろう。

恐らく、火事の混乱に乗じて、ノエミちゃんを(さら)うため……


ふいに、猛烈な違和感に襲われた。


アク・イールは、接近戦だけなら、レベル60の僕とほぼ同程度の実力を持っていたように感じられた。

しかし、不思議な事に、二日に渡る襲撃で、アク・イールに殺された者は皆無だ。

ノエミちゃんを攫うのが目的なら、初日の野営地での襲撃の時に、【隠密】、【急所突き】、【暗殺術】等使用して、僕等を皆殺しにすれば簡単だったはず。

今夜の火事の際も……


もしかして、わざと誰も殺さなかった?

或いは、『殺したくなかった』?


ドルムさんは、アク・イールの事を、『凄腕の獣人の殺し屋』だろう、と話していた。

ドルムさんは、アク・イールの所持品をチェックして仕分けした。


僕は、インベントリから月の雫を5本取り出し、腰のベルトに差し込んだ。

そして、ステータスを呼び出し、残りのMPを確認してみた。


MP残り21……


ステータスを開いたまま、僕は、そっと荷台から外を伺った。

月明かりに照らし出される周囲に、人の気配は感じられなかった。

再び【隠密】を発動して、荷台から外に出た。

そのまま、ドルムさんがいるはずの馬車に近付いた。

幌の隙間から中を伺うと、ドルムさんとその従者3人が、床に横たわり、眠っているのが確認できた。

僕は、月の雫を飲み干してMPを満タンにした後、そっとその馬車に乗り込んだ。



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