26.F級の僕は、関谷さんと電話で話す
おはようございます。
今日も雨ですね。
5月14日 木曜日2
四方木さんとの電話を切った僕は、改めて大学の食堂へと向かった。
大学生協の食堂、通称学食は、僕を始めとする、大勢の貧乏学生の食を支えてくれる大切な存在だ。
お昼時という事もあいまって、学食は、大勢の学生達で賑わっていた。
学食のシステムは、単純だ。
客は、あらかじめ並べられているお惣菜を自分でピックアップするか、食べたい料理を直接注文する。
それらをトレーの上に並べて、レジで会計を済ませ、空いている席で食事をする。
食事後は、トレーと食器を返却口に持っていく。
大多数の学生は、仲の良い友達と食事を楽しんでいたが、僕は、いつもの通り一人だった。
別段、元々一人が好き、と言う訳では無い。
人々がステータスによって選別されたあの日を境に、親しかった友達は、一人去り、また一人去って行ってしまったのだ。
最初の頃は、不貞腐れたり、去って行った人々を恨んだりもした。
しかし、人間、慣れとは恐ろしいもので、今では、一人でこうして行動するのが、全く苦にならなくなってしまった。
一人、黙々と食事をしながら、スマホで面白そうなサイトの記事に目を通していると、スマホの画面にメッセージが表示された。
『新着メッセージが届きました』
僕がいつも使用しているチャットアプリに、誰かがメッセージを送って来たらしい。
誰だろう?
今の僕に、好意的なメッセージを送ってくる人物は皆無だ。
送られてくるメッセージの99%は、某所のダンジョンに潜るから、早く来い! といった居丈高な文面で、僕を荷物持ちとして呼び出すためのものだ。
ちなみに、残りの1%は、所謂迷惑メッセージ。
僕は、特に何の感慨も無く、その『新着メッセージが届きました』に指を触れてみた。
『こんにちは、関谷です。この前は、ありがとうございました』
「えっ?」
関谷さん?
慌てて、僕は、返信のメッセージを送った。
―――『どうも、中村です。あれから元気になられたんですね』
しばらくすると、僕のメッセージが既読になった。
『ありがとうございます。おかげさまで、すっかり元気になりました。それと、突然メッセージ送ってごめんなさい。中村さんの番号、均衡調整課の四方木さんにお聞きしました』
―――『大丈夫ですよ。今、学食でお昼食べてます』
『ごめんなさい。お食事の邪魔しちゃいましたね。あとで電話しても良いですか?』
電話?
関谷さんが、僕に?
なんだろう?
心当たりと言えば、やはり、笹山第五のあの縦穴での出来事。
もしかして、僕が“転移”していた事、ノエミちゃんの時同様、関谷さんにも、気付かれちゃったとか?
少し、憂鬱になったが、特に断る理由も見つからなかった僕は、諦めて返信した。
―――『今日の夕方4時頃なら、空いてると思います』
『わかりました。それではまたあとで』
可愛い絵文字と共に送られてきたそのメッセージを読んだ後、僕は、チャットアプリの画面を閉じた。
午後4時過ぎ、講義が終わり、帰る準備をしていると、僕のスマホが鳴った。
関谷さんだ……
少し、気が重かったが、電話に出た。
「どうも、中村です」
『あ、中村さんですか? 関谷です。もう大学の授業、終わりました?』
「はい。関谷さんは?」
『私の方は、午後は講義なかったんですよ。だから、今は家でのんびりしてる所です』
「そうなんですね」
『中村さん、今日、今から時間ありますか?』
僕の心臓の鼓動が、一瞬、跳ね上がった。
来た!
きっと、あの日、縦穴で何があったのか、聞かれるんだ!
そう思った僕は、適当な理屈をつけて、断る事にした。
「すみません、今から、ちょっとまた、荷物持ちの予定が入ってまして……」
『そうなんですか……』
電話の向こうから、関谷さんの落胆したような声が聞こえてきた。
「すみません」
『こちらこそ、我儘言ってごめんなさい。じゃあ、明日はどうですか?』
「明日も、ちょっと一日予定が詰まってまして……」
『お忙しいんですね』
「F級なもので、毎日ダンジョン潜らないと、ノルマこなせないというか……」
これは、半分本当で、半分ウソだ。
モンスターを自力で倒せないF級が、“真っ当な方法”でノルマの魔石集めを達成する方法は、ただ一つ。
ステータス強者達の荷物持ちとしてダンジョンに潜り、報酬として、1個か2個の魔石のおこぼれを恵んでもらう他に無い。
ノルマの魔石の数は、1週間に7個。
つまり、運が悪ければ、毎日ダンジョンに潜らないと達成できない計算だ。
しかし、僕は、異世界イスディフイでスライムを倒し、Fランクの魔石を11個入手していた。
魔石は、地球産、イスディフイ産問わず、受け取ってもらえるのは、確認済み。
だから、僕は、今週、わざわざダンジョンに潜らなくても、ノルマを達成できる計算になる。
僕の事情を知る由も無い関谷さんの声が、気の毒そうなものになった。
『そうでしたね。あの、良かったら、魔石、いくつか差し上げましょうか?』
「へっ?」
僕は、一瞬、戸惑った。
魔石の売買は、基本、均衡調整課でのみ行われる事になっている。
だが、低ランクの魔石だと、均衡調整課に持ち込んでも、数百円にしかならない。
なので、ステータスが高く、魔石を大量にゲット出来る者の中には、低ランクの魔石を1個数千円で、こっそり転売する者もいた。
どういう者が買うかというと、ステータスが低く、自力でモンスターを倒して魔石を入手できない、或いは、ダンジョンに潜りたくないけれど、お金は持っているという人々。
一応、魔石の転売は、法律で規制されている事になってはいる。
しかし、ノルマで持ち込んだ魔石の出所は、滅多な事では調べたりされない。
そのため、魔石の転売行為は、結構、頻繁に行われていた。
もしかすると、関谷さんも、僕に魔石を買ってもらいたいのだろうか?
しかし、残念な事に、貧乏学生の僕にとって、Fランクの魔石1個に数千円も支払うのは、出来ない相談であった。
一応、僕は、聞いてみた。
「えっと……それは1個幾ら位ですか?」
『えっ? あ、そういう話じゃないです。私、魔石をいざという時の為に、少しストックしてるんです。ですから、数個程度ですが、この前のお礼代わりに差し上げようかと』
お礼?
これは、僕を呼び出す口実では無かろうか?
それに、タダより怖いモノは無い。
ここは、穏便に断るべきだろう。
「すみません、お気持ちだけ頂いておきます。あの……そろそろ集合時間なんで……」
とにかく、この電話を早目に切り上げたかった僕は、出来るだけ申し訳無さそうな声でそう言ってみた。
『分かりました。また、連絡しますね』
「はい。では……」
ふぅ……
何とか乗り切った。
そう言えば、今週は、まだ3個しかノルマの魔石提出していない。
今日も、2個持って行っとこうか。
僕は、気持ちを切り替えると、駐輪場に向かった。
天気は、予報通り雨になっていた。
僕は、カッパを着てスクーターに跨ると、一旦、アパートに戻った。
そして、魔石を2個カバンに入れた後、そのまま均衡調整課に向かった。
均衡調整課でいつも通り、整理番号を手に自分の順番を待ちながら、僕は再びスマホを取り出した。
そして、N市均衡調整課のHPにアクセスした。
HPには、N市とその周辺のダンジョンに関する様々な最新情報が掲載されている。
ダンジョンの等級、出現モンスター、現在、そのダンジョンにリアルタイムで潜っている人の等級や人数等々……
リストを眺めて行くと、あるダンジョンの情報の所で、僕の目が留まった。
■ N市笹山第十三ダンジョン
等級;E
大きさ;小
出現モンスター;ヘルハウンド E級、キラーバット E級
入場者;無し
入場予定者;無し
更新時間;16:50
E級のモンスターが出現するダンジョン。
小さなダンジョンであり、実入りも少ない。
そのため、人気の無いダンジョン。
僕も二三度、荷物持ちとした潜った事がある。
手掘りの洞窟のようなダンジョンで、モンスターの数も多く無かった。
見るとは無しに見ている内に、僕の中に、ある考えが浮かび上がってきた。
ここって、今の僕なら、一人で潜っても、モンスターを倒せるんじゃないだろうか?
以前、潜った時は、モンスターは、散発的に、単体でのみ出現していた。
試しに、ちょっとだけ見に行ってみようかな?
「25番の番号札をお持ちの方、3番窓口へどうぞ」
僕の思考を中断するかのようなアナウンスに呼ばれ、僕は魔石を片手に3番窓口に向かった。
いつもお読み頂きまして、ありがとうございます。




