第107話:話
乗客はなおも、死者の蘇生について熱く話す。
彼らの目は据わり、非常に強い熱量の高さが嘘などではないと示した。
「ア、アスカ、ちょっと様子が変だよ……」
「目が据わっていて怖いです……。死者蘇生なんて夢物語ですよ……」
俺の後ろに隠れたナディアとティルーが怯えた小声で話す。
たしかに、俺も死者を蘇生できる魔法や技術など聞いたことはない。
そんなものはこの世に存在しないはずなのだ。
一方で、四日後は"イベント"の日時と重なる。
マリオネット王女が関係しているかは現時点では不明だが、まずは話を合わせて情報を得ようと決めた。
「実は、俺は四聖の視察として訪れたんだ。"死者蘇生の儀"について、グランド辺境伯にもっと詳しく教えてもらおうと思ってな。ただ、エリュシオン島は王都から離れているから情報が薄い。だから、知っていることがあったら教えてほしい」
「ええ、もちろんですとも! こんな夢のような素晴らしい技術、国中に共有すべきですから!」
乗客たちは納得すると、勢い込んで事情を話してくれた。
「グランド辺境伯閣下はずっと死者蘇生の研究をしていたそうで、最近ようやく成果が出たという話です。なんでも、腕の良い女性の魔法使いが島を訪れたとか」
「彼女とともに研究を進めたところ、死者蘇生の理論が成立。四日後、閣下が蘇生を実際に行う予定で、記念に多数の客を呼びました。私たちのような死者を蘇らせたい人間をね」
「閣下は研究の成果を独り占めせず、同じ境遇にある人間にも使ってくださる。恩恵を望む者全てに授けてくださるのですから、本当に立派な方です」
死者蘇生の研究……か。
グランド辺境伯は誰を蘇生させるつもりなんだ。
気になった俺は蘇生対象者や女の魔法使いについても聞くが、詳細は知らないということだった。
一旦そこで話は切り、乗客に礼を述べる。
「ありがとう、大変参考になったよ。おかげで、"死者蘇生の儀"に関する理解が深まった」
「いえいえ、お役に立てて何よりです。早く死を克服する時代が来るといいですね」
そう言って乗客はそれぞれの荷――棺桶に戻り、また掃除や一方的な会話を始める。
四人で人が少ない場所に移動すると、ナディアとティルーがどっとため息を吐いた。
「……はぁ~、怖かった~。なんかすごく疲れたよ」
「みなさん、目が血走っていて迫力がありました。死者蘇生なんて驚きました。否定したらすごく怒られそうでしたね……」
二人が話すように、乗客は鬼気迫る様だった。
死んだはずの人間が生き返ると聞いたら、誰しも我先にと押しかけるだろう。
「グランド辺境伯の研究について、ノエルは知っていたか?」
俺が尋ねると、ノエルは首を横に振った。
「いや、初めて知った。死者蘇生の研究を行っているなんて、修道会も知らないはずだ。イセレも何も言っていなかったし、四聖の面々も知らないのだろう。別に貴族がどんな研究をしようと勝手だが、何でも許可されるわけではない。ましてや、死者蘇生なんて命の尊厳に関わる領域だ。修道会に知られたら中止を宣告されるに決まっている」
「やはり、そうか。死者蘇生の研究については、資料の閲覧も禁じられているはずだ。辺境伯なら知っているはずだろうに……。彼はどうやって研究を進めたのだろうか」
死者蘇生ともなれば、アプローチの方法は限られているはず。
俺の頭には最悪の可能性が思い浮かぶ。
「もし、辺境伯が禁術に手を出していたとしたら……」
「良い結果をもたらすとは考えにくいな」
ノエルは硬い声音で返し、ナディアとティルーもまた厳しい表情となる。
――禁術。
使ってはならない魔法。
あまりの危険性に、この世にはそのような魔法がいくつかあるのだ。
魔法に魂を喰われてしまったり、正気を失ってしまったり……記録にある使用者の末路はどれも悲惨なものばかりだ。
「島に着いたら、俺たちで詳しく調べよう。グランド辺境伯にも直接話を聞きたい」
呟くように言うと、ナディアたち三人は静かに頷いた。
船は順調に進み、穏やかな港に入る。
いよいよ、"死者蘇生"の儀が行われるというエリュシオン島に着いたのだ。




