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その20

「ありがとう、今日は癒されたどころか、何だか寝不足だったはずの体まで元気になってきた」


「まあ、エフラム様ったら。ふふ、でもご無理はなさらないで下さいね」



エフラムへと、オリヴィアが袋に詰めてからリボンなどで可愛らしくラッピングを施した、日持ちするクッキーを手渡せば大喜びで受け取った。

そして、オリヴィアや護衛騎士、使用人達が見守る中で大切な手作りクッキーを抱き抱えて馬車へ乗り込み、王宮へと帰って行った。




夜、ローズはオリヴィアのプラチナブロンドの髪を、櫛で丁寧に梳きながら語りかけた。


「…オリヴィアお嬢様、もしですが、背中の羽がどうにかなったら、エフラム殿下が言っていた夜会の件は如何いたしますか?」


「羽がどうにかったとしても、それでも私は夜会に出るつもりはないわよ?」



静かに告げるオリヴィアの言葉に、ローズの手はピタリと止まる。


「何故…?」


「私、昔から王太子になるのはエフラム様だとずっと思っていたし、王太子になってゆくゆくは国王になられるエフラム様には、もっと相応しい方が現れる事を祈ってるの」


「相応しい方とは……?」


「王太子妃、王妃に相応しい方よ。聖女が王妃になった事例は沢山あるけど、私は両方をこなせる器では無いもの。中途半端な者が王の配偶者になって困るのは国民よ。国民に迷惑を掛ける訳にはいかないもの」



古来より聖女とは神とこの国との橋渡しのような存在であり、王族と聖女が婚姻を結べば神からの加護がより絶大な物になると記録されている。


だからといって、必ずしも聖女が王族と婚姻を結ばなくてはいけないという訳ではない。



「では、エフラム殿下のお気持ちは?」


「きっとエフラム様にとっても、この国にとっても素晴らしい方が導かれるはずよ。ヨシュア様だって、最愛の方を見つけられたのだから」



婚約者である第一王子との婚約が破棄されたから、今度は第二王子でと言い出した王家にローズは最初確かに憤った。


しかしローズが見た限りでは、エフラムは昔から本当にオリヴィアの事が好きなんだということが良く分かった。

国王陛下はそんなエフラムの気持ちを知ってか知らずか、オリヴィアに提案したようだが。真意は分からない。



そもそも今回の件は、いくら兄弟のしでかした事でも、離れた宮で暮らすエフラムからしたら、単なるとばっちりもいいところである。兄弟なんて同じ両親から同じように育てられたとしても、性格や考え方なんて千差万別。教育係がどんなに同じ教育を施しても、馬鹿は馬鹿に育つ運命だったのかもしれない。




それどころエフラムの場合はこの屋敷に移って始めて訪れた時から、かなり不敬な言動を取ってしまっているローズに対しても『オリヴィアに相応しくありたいから』と快く許してくれた。


そんなエフラムとオリヴィアを見て、実際二人は相性は悪くないように思える。少なくとも第一王子よりかは。



いままで夜会中ずっと妹をエスコートしながら、兄にエスコートされるオリヴィアを黙って見ているしかなかったエフラム。

恋心を胸に秘めたまま、叶わぬ想いを兄の婚約者に募らせていた事を思うと同情心が芽生えてきた。




「そうですか……で、でもプレゼントはちゃんと貰っておきましょうね!ね!貰えるものは貰っておかないと!国からの慰謝料と考えたら安すぎますよ!!」



贈り物すら受け取って貰えないのは、流石にエフラムが可哀想だと思った。

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