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第18話 潜入


 商談が上手くいったのだろう。大河と室月が工場内を和かに歩き、笑い声が時折響く。従業員はそれを冷ややかに眺めた。


 彼らは自分たちが務めるこの職場の行く末に不安を抱く。成長産業に就職しなかったのが運の尽き。だからと言って次は何の仕事をするかなど今は考える気にもなれない。


 「アレが次のボスか…大丈夫か…」そんな声が小さく溢れる。聞かれても構うものかと、ベテラン従業員の1人が大河を睨みつけた。それに気付いた室月が密かに驚きを見せる。


 しかし自らの身でその視線を遮った。背中に突き刺さる「逃げるのか?」と言う不満がヒシヒシと伝わるが。その通りであるからして、言い訳のしようもなく、知らぬふりが精一杯だ。


 会社が傾いていると言う事実は隠しようがない。室月社長はそれでも従業員の給料だけは何とか払い続けてきた。それがギリギリのところで工場の稼働と労働力を支えている。しかし運転資金が底を付いた今、残された手段は事業売却と経営の権利を新たなるオーナーに渡すだけだ。けれどこんな倒産寸前の会社を買おうなどと誰が考えるか…。そんな風に悩んでいた時、この男が現れた。


 「どうなさいました室月社長?」


 「いやいや、何でもありませんよ…」


 冷や汗が頬を伝う。正式な契約が済むまで機嫌を損ねてはいけないような。そんな危機感が無条件で体を反応させた。けれど大河の反応は…。


 「…社長。お気遣いはいりません。私は本気です。この会社の全てを見せてください。全部ひっくるめて変えて見せましょう」


 「おぉ…はい。わかりました」


 なんという男だろうか。本当に信じても良いのだろうか。悩んでいる暇はない。裏をとっても申し分ない人物だ。室月の目にも本気の炎が灯った瞬間だった。


一方その頃。


 「二キロは…。ホンマにここから行くん?」


 「ほんまのホンマや!はよ行くで!」


 彼らの目に映るのはフェンスの解れ。何者かによってこじあけられた跡。けれど大の大人が潜るには些か狭いものがある。それでも細身のキロなら十分に通れる広さだった。

 

 周りをキョロキョロと確認する。誰も見ていない。監視カメラも丁度、死角になっている。お膳立てかよ過ぎた。キロは腹を括ってしゃがみ込むにであった。

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