カフェラテ 2
「自分の子を教師にって……」
レントの言葉にクレストは頷く。
「教師になって分かったことですが、世襲制が多いんです。……実力が伴っていない子息が教師になっていいることもよくあります」
「そんなことが許されるんですか?」
「許されているから起こっているんですよ」
「だとしても、なぜ女性が教師になれないのですか?」
カズヤの言葉を聞いてクレストは目を伏せる。
「憶測ですが、女性は家庭に入るもの、また女性が勉強しても無意味という考えが強い人が多いのが原因かもしれません」
「……まぁ、だろうな」
「昔は騎士や調理人も女性が就ける職業ではありませんでした。しかし女性ならではの視点や行動が評価され、現在は就けるようになった……という経緯があります。もちろん、今に至るまでかなりの時間がかかりましたが……」
「だったら、教師だって」
「と、思うでしょう? 今話した理由は表向きの答えで実際は別のところにあります」
クレストは三人を顔を見る。納得がいかないもの、理解できないもの、思うところがあるもの……三人は複雑な表情をしていた。クレストは小さく息を吐き、話を続ける。
「この国で教師に就いているものはかなり少なく、人手が足りません」
「? それなら人手を増やせばいいだけじゃないか?」
「普通の人はそう思いますよね。しかし彼らはそれをわざとしないんです」
「しない?」
「ええ。先ほど言った通り、教師になっているものは少ないです。ですが」
クレストはそう言うと人差し指を点に向かって伸ばす。
「その分給金も多く手に入ります。なんせ教師を五年以上続ければ、一生遊んで暮らせるくらいの給金が入ると言います」
「えっ、そんなに給金高いんですか?」
「えっ、イリーナちゃん知らなかったの?」
「あんまりお金に興味なくて……」
「……イリーナちゃんみたいな人がいたら変わってたんでしょうね」
寂しそうに話すクレストをカズヤは黙って見つめている。カズヤの視線に気づいたのか、彼は大きく咳ばらいをしその場をごまかす。カズヤは話を促すように、質問を投げた。
「まさかとは思うが、お金のためにわざとそうしていると?」
「質問で返すようで恐縮ですが、そうだと言ったら皆さんはどう思いますか?」
クレストからの質問に三人は眉をしかめた。彼の話していることが事実なら、富を独占したいがための行動に見える。そんなことがまかり通っていいのか、イリーナはふつふつと怒りがこみ上げる。あの日、自分が受けた苦しみはなんだったのか。彼らの欲のためだけに自身は不快な思いをしたのか。
怒りに震えるイリーナを気にしつつカズヤたちは話す。
「話を聞くと、怠慢にしか聞こえないな」
「仰る通りです。このままではよくない。そのため、私をはじめ何人かの教師が彼らに直談判をしましたが、聞いてはもらえず……」
「でもさ、それとイリーナにしたことは関係なくないか?」
「確かに。独占したいなら、極論だが全員落とせばよくないか?」
「……それは」
イリーナに視線が向かったのを二人は目にする。彼女がいると言いづらいことなのだろう。どうしようか悩んでいると、イリーナがこちらを見つめて言った。
「話していただいて構いません」
「……いいのか? 内容によってはさらに傷つくことになるぞ」
「そんなのいまさらよ。ここまで聞いて仲間外れはいや」
そう話すイリーナの瞳は怒りに満ちていた。クレストは彼女を見つめ、本当にいいのかと尋ねる。イリーナは笑いなが彼の問いに答えた。
「大丈夫です、決めました。私、絶対に教師になってそいつらを見返してやります」
こんな理由でなるのは不純だけど、少し申し訳なさそうに言うイリーナをカズヤたちは顔を見合わせて笑う。人間少しくらい欲に塗れているのがちょうどいい。それにイリーナの動機は教師たちに比べればかわいらしいものだ。
「いいんじゃないか? それくらいなら」
「むしろイリーナの方がかわいく見えるわ」
「確かに、それくらいの気持ちで挑んだ方がいいのかもしれませんね。……それで話を戻しますが」
クレストの言葉に三人は真剣な顔をする、彼はそんな身構えることではありませんよと苦笑しつつ、言った。
「実は……面接官の一人が昔同じ身分の令嬢に婚約破棄されたのがだいぶ堪えたらしく、生意気な女を見ると腹が立つそうで……」
話していくうちに三人の空気が重くなったことに気が付いたのか、クレストは視線を逸らした。イリーナの顔は憤怒に満ちており、レントは震えながらカズヤの背中に隠れる。何あれ怖い。今まで見てきた中で一番怖い。
「えーっと……」
困った顔をしながらクレストを見つめる。彼も苦笑しながら頷いた。
「それで不合格にしていると?」
「……はい」
「なっっにそれ!」
ダンとテーブルを叩きイリーナは声を荒げる。思わず三人の肩が跳ねた。
「そんなの完全に私情じゃない! え、私あんなのに負けたの……? すごい腹立つんだけど!」
荒れるイリーナを三人は黙って見つめている。どうしたものかな、カズヤが考えていると肩を叩かれる。振り返ればレントが怯えた目をしてイリーナを指さし、言った。
「あれ、どうにかできない?」
「……なんとかするよ」
カズヤはカウンターに向かい、コーヒー豆を取り出した。
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