7話
《旭、とりあえず今陰陽寮に入寮するには問題がないことが分かった。
夜明け前に羅城門を発って、都の中を通って陰陽寮に向かう》
「そっかー。残念なような、あの平安京に足を踏み入れるのを喜ぶべきか・・・
陰陽師にならないで観光だけして鞍馬に戻るのも手じゃない?」
《それはダメだ。旭、お前には根性とかやる気というモノが欠けている。
陰陽師に何が何でもなれと言うつもりはない・・・あくまでもお前は鞍馬山の烏天狗の里の所属なのだからな。
だが、お前の生きた平成とは違い、この世は優しくはない。
陰陽寮で学ぶことは必ずお前の人生の糧になるだろう・・・身を学ぶ術も得ることが出来る》
夕霧の台詞に、やっぱり・・・と思いつつ返事をすれば此方を見ていた羅城門の鬼さんと山姥さんがぽかーーんとしていた。
口が開いておりますよ、お二人さん!
《ぷっ!!
あははははっ!!!!話には聞いていたけれど、本当にお嬢ちゃんの保護者やん!!》
《妖も変わるモンだねぇ・・・》
爆笑する羅城門の鬼さんと夕霧を烏帽子から下駄までまじまじと見つめる山姥さんに、そんなに違うモノなのかと私は目を丸くした。
だって、夕霧は最初から面倒見がいいオカアサンだったしねぇ。
《貴様・・・・!!》
《ひゃははは!!!げふっぶはっ!!》
青筋を立てる夕霧に更に笑った鬼さんは、時折噎せながらも笑い続けた。
シリアスな生い立ちなのに、超笑い上戸とか・・・鬼神になる陰陽師って癖のある人が多いんだなぁ、と暁さんを見上げれば、此方も肩を震わせている。
どうやら鬼さんの笑いが伝染したらしい。
・・・暫くの間、羅城門の2階では笑い声と怒った声が響き続けた。
《あーーー、笑った笑った。ほんま、おもろかったわぁ》
「滅茶苦茶笑ってたね。笑いすぎて噎せるとか・・・」
《いやー、夕霧も堪忍な》
アハハ、とまだ笑いながら謝る鬼さんに、夕霧の額には幾つもの青筋が浮かんでいる。懲りないと言うより、進んで怒らせているようだ。
・・・多分、夕霧の反応がイイからだよねぇ。
《なんやかんやで良い時間やね。お嬢ちゃん、旭やったか・・・困ったことがあったら、ココに来ぃや。
百年分笑わせてくれた礼に、情報提供は任しぃ》
にんまり笑う鬼さんに、有り難うございます、とぺこりと頭を下げる。
《あ、そや。いつまでも鬼さ言うんは余所余所しいなぁ。
ボクン事は、水瀬でええよ》
「水瀬さん・・・?旭です。宜しく御願いします」
もう一度ぺこりと頭を下げれば、なでなでと水瀬さんに頭を撫でられた。
「??」
《ええ事教えたる。
ココを出たら、陰陽寮に向かう前に市に行き。都が初めてなら、おもろいやろーし、何より、良い出会いが多分あるで?
せっかくの人生や。楽しんだもん勝ちや》
「・・・水瀬さんはオトウサンみたいね!!
有り難う!とにかく、いろんなもの、見てくる!!」
あはは、と笑えば、水瀬さんはオトウサン発言に驚いたのかピシィッと固まってしまった。
《オトウサン・・・ははっ!!ちょ!!聞いた?!夕霧!!
ボクと君夫婦やで!!》
《あーさーひーーーー!!!!!
何故俺が母で、コイツが父なのだ!!!!???》
《ぶはっ!!そこかいな!!!!》
再び爆笑した水瀬さんと怒り出した夕霧に、どうしたものかと段々空が明るくなっていくのを横目に見ていれば、山姥さんに風呂敷を差し出された。
「?」
《旭の嬢ちゃん、ヌシ様を楽しませてくれて有り難うねぇ。
コレはアタシからの餞別だよ。アタシにもヌシ様にも不要だが、嬢ちゃんには役に立つだろう》
「何?これ・・・?」
《着る物だよ。以前、手に入れたもんだが、アタシにはちょっと小さすぎるんでねぇ》
山姥さんの言葉に思わず風呂敷をといた。
何分にも、私の着ている服は烏天狗の姉様達のお下がりなのだ。ちょっとだけ大きいし、都では山伏の衣装はちょっと目立つ。
《水干だね。子供が着ていて全く可笑しくない衣装だ。良かったねぇ》
「おばあさん、コレ、着方教えて貰ってイイ?これを着ていきたいわ」
《おやすいご用だよ》
よし!!久々の衣装チェンジだ!!
騒いでいる夕霧達はとりあえず放置し、暁さんと山姥さんに教わりながら水干を着込んでいく。
《女の子に袴はなかったかねぇ》
「ううん!!袴の方が走りやすいモノ!!木登りも出来るし!!」
《ははは!!そりゃあ良かった!!》
《・・・旭、一応言っておくけれど、女の子は普通、走らないし木登りもしないんだよ?》
ちょっとだけ暁さんの言葉が胸に刺さった。
・・・だって山ッ子だもの~。
なんだかんだ数年で、野生児化している自覚は、ほんの少しだけ、あるよ。




