5話
いよいよ出発。勿論、時刻は夜中だ。
夕霧達は、朝でも昼でも活動するが、都の上を飛ぶらしく、目立ちにくい夜中を出立の時間に決めたらしい
「あー、嫌だなあ」
大きな溜め息を吐いた私に、烏天狗の姐さん達は笑う。
《まーだ、嫌がっているの?旭。
しっかりおしよ、陰陽師になるんだろう?》
「いや、ぶっちゃけならなくても良いよ。だって私、妖の知り合いはいても人間の知り合いいないし。
陰陽師になって、妖を倒せ!って言われても困るもん」
頬をぷくりと膨らませて、姐さん達に抱きつく。
《あらあら、大変ね。
夕霧、貴方どうするの?》
《ハァ・・・旭。まだグズグズ言っているのか?出発直前に駄々を捏ねるな。
僧正坊様、では、そろそろ行ってきます》
《う、うむ・・・名残惜しいのぅ》
《今生の別れでもありますまい・・・此処が、旭の戻る場所に違いないのだから》
がしりと襟首を掴まれたかと思ったら、姐さん達から引き離され、夕霧に小脇に抱えられた・・・。
「夕霧ー!私荷物じゃないよ!!」
《はいはい。では、度々連れて帰って来ますので》
私を片腕に座らせるように抱き直した夕霧は、そう言ってペコリと頭を下げると、バサリと大きな翼をはためかせ、地面を蹴った・・・と思ったら、一気に鞍馬山の上空に出た。
「はやっ!高いー!」
《都の近くまで、飛ばす。
・・・落ちるなよ?》
ニヤリと笑う、夕霧のその横顔に頬がひくりとひきつったのを自覚した。
「うぅ・・・ぐすっ・・・グズッ」
《夕霧、君ねー。
妖の本気は、生身の子供には恐怖以外の何者でもないよ》
《わ、悪かった》
怖かった。ジェットコースターなんか目じゃないくらい速いし、Gがめっちゃ掛かってた・・・!
内臓がぐわって!ぐわってなった!
《よしよし、怖かったね旭。
夕霧もかなり反省しているから、許してあげておくれ》
《すまなかった・・・・》
「ん、許してあげる」
暁さんが、優しい手つきで涙を拭ってくれたので、内心母が二人!!ってなったのは内緒。
《なんやかんやあったけど、ここが羅城門だ》
「おっきい・・・これが有名な羅城門かあ・・・ん?なんでわざわざ南まで来たの?」
羅城門といえば、平安京の一番南の門だ。北にある鞍馬山とは、まさに真逆にある。
《羅城門には、鬼がいるんだが、こいつがかなりの変わり者でな。
情報通でもあるから、現在の都の様子を聞いておく。
もし、面倒な事に巻き込まれそうなら、陰陽寮に入寮するのは止めて鞍馬山に帰る》
「おぉー!」
《羅城門の鬼というのは、老婆の?》
首を傾げる暁さんに、夕霧はニヤリと笑う。
《いいや。まあ、会えば分かるさ。
あー、・・・暁も、もう鬼神なんだからな》
そう言って、夕霧は私を片腕に座らせたまま羅城門に足を向けた。
羅城門・・・国語の時間に習ったなあ、この門がタイトルの小説。
歴史的にかなり有名な所にいるんだと思うと、酷く落ち着かない。あー、写メ撮りたいわー。




