4話
ー契約に用意するものー
・神酒ないしは神水
・猪口
・小刀
《まず、猪口に今回は神水を入れる》
「入れたよ」
《次に、指先に小刀で傷を付け、血をそれぞれの猪口に数滴垂らす》
言われるまま、小刀でチクリと指を刺し、血を垂らした。
「あとは、これを飲むの?鉄臭そう・・・」
《我慢しろ。
あとは、飲むとき真名を交換する》
「真名・・・私、名前ひとつしかないよ?」
《・・・そうだったな。
では、これから、姓を隠せ。姓名合わせたものを真名とすれば良い》
「りょうかーい。普段は隠しきったら良いんだね?」
《ああ。
では、始めるぞ》
すちゃっと盃を持つ夕霧に、ストップ!と待ったをかけて、夕霧と近くで自分の番を待つ道隆さんを呼び寄せる。
〈どうした?旭》
《なんだ?》
「改めて聞くけど
二人とも、良いの?
契約って大事なものなんでしょう?それを、私みたいなのと交わして大丈夫?」
夕霧も道隆さんも優秀だと思うから、私みたいなフツーの元JK 、現11、12歳の少女と契約を交わすのはどうだろう。賭けにしては博打過ぎる。
そんな事を二人に真剣に言ったのに、夕霧にはこめかみをぐりぐりされ、道隆さんにはヤレヤレと溜め息を吐かれた。
えー、その反応酷くないかな?
《俺は、お前が何処の馬の骨かもわからぬ奴(妖)と契約する方が不愉快だ》
〈僕は自分の都合だから気にすることは無いよ。
僕は共に居るなら、頭を垂れるなら、旭が良い》
「二人とも、熱烈過ぎるよ、恥ずかしいなあ・・・でも、ありがとう」
テレっとなりながら笑えば、二人ともぐしゃぐしゃと私の髪をかき混ぜた。ヘアスタイルがっ。
《気を取り直して始めるぞ。
俺の真名をお前に》
グッと盃が差し出され、私も慌てて自分の血液入りの盃を夕霧に差し出した。
視界の端では道隆さんが耳を塞いでいる。
《お前にだけ、教えよう。
俺の名は、五月雨だ》
《私は、日暮、旭》
名を名乗り合い、互いの手で盃を傾け相手の喉に神水を流した。
「これで契約出来たの?」
《ん・・・右腕を見てみろ》
夕霧に促されるまま、右腕を見たらいつの間にか模様が中指から二の腕にかけて描かれていた・・・え、刺青?!ぴちぴち(死語かな・・・いや、でもここ平安時代だしむしろ新しい)の漸く2桁になった女の子の身体に刺青?!
《それは、交わした妖力と霊力が混ざって皮膚に浮かび上がっているのだ。
契約する妖が増えれば模様も増えるが、普段は発現せんから安心しろ》
「そう、なんだ。コレ何?葉っぱ?」
《蔦だ》
「つた・・・アイビー?」
《あいびー、が同じモノかは知らぬが、契約の証であるこの模様は、昔から蔦だ。
巻き付き絡む蔦を、決して違えぬ契約の証だという輩もいる。真偽は知らんがな。
さて、気に喰わんが、小野とも契約を交わすのだろう?早々に終わらせろ。》
「ちょっと道隆さんに厳しくない?」
《元より、陰陽師と妖は相容れぬ。
食うか食われるか、使役するか使役されるか
俺と旭の様な関係は非常に珍しいのだ。よく覚えておけ》
「ふーん・・・わかった」
頷けば、夕霧は私の頭を軽くポンポンして道隆さんと場所を変わった。
〈此方の立場は初めてだねぇ・・・なんだかちょっと新鮮な気持ちになるよ》
にへらと緩く笑う道隆さんにそうだよねぇ・・・と頷いて、夕霧と同じ手順で盃に神水を注いで血を落としてお互いの口元に持って行く。
目の端で、夕霧が耳を塞いでいるのが見えた。
〈契約に、感謝する。ボクみたいなのを何だかんだ言って受け入れてくれて有り難う。
これからは、しっかり守らせて貰うね。
ボクの真名は、鬼灯》
「私の真名は日暮 旭、です」
夕霧の時と同じように、互いに名前を名乗ったら、相手の喉に神水を流した。
〈そうそう、道隆だとこれから陰陽寮を受験するのに拙いから、新しく名前を付けてくれる?》
「え?そんなの良いの?名前って大事なんでしょ?」
〈良いんだよ。不便だしねぇ》
へらっと笑う道隆さんに、そんな軽くて良いのかなぁ・・・と思いつつ、マジマジと鬼神になりつつあるという道隆さんを上から下まで眺めた。
「暁かな。私が旭だし、夕霧だし」
〈・・・有り難う。暁か・・・良いね。暁の空、ボク好きなんだよねぇ》
ほのぼのと笑う道隆さんに、喜んでくれているなら良かったーと胸をなで下ろした。
《何をしている?》
〈ああ、夕霧、今度からボクの事は暁って呼んでね》
《は?・・・・・・・・・・は?》
にこにこにこにこと笑う道隆さん、基、暁さんに夕霧は一瞬固まって・・・
「いたたたっ!!??痛いよ夕霧!!」
《何、名付けてる!!結びつきが堅くなっただろうが!!!》
「きゃーグリグリしないで!!!!!イダダダダ!!」
めっちゃ怒られました。
平成26年4月6日(日)→米神をこめかみに変更。漢字が変換できなかったので平仮名にしました。
2桁なった→2桁になったに変更。脱字ごめんなさい。




