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26話

紙というものは力が込めやすい媒体なのだそうだ。


そして、墨もまた同じ。だからこそ、陰陽師達は紙で出来た符に、霊力を込めた墨で文字を書き、武器にするのだという・・・。


「お前達は霊力が強い。だからこそ、込める量を誤れば、こんな風に符が破けたり燃えたりするわけだ」


こんな風に、と源さんが指さしたのは失敗した陽太の符だった残骸と灰になった私の符。


「ということで次はもっと丁寧にしてみろ」


「そおっとやで」


「そおっとって言われても、コツはないの?」


「コツねぇ・・・言われても、感覚やからなぁ」


ははは、と笑う東堂さんにこの人天才肌か!と肩を落とした。


息をするようにこなしてきたのだろう。そういう人にどうするか聞いたところで何故出来ないのか分からないから明確な欲しい解答はないわけだ。


(昔勉強を教えてくれたクラスの委員長がそうだった)


くそぅ・・・と手にした符を睨む。紙にミミズ文字を書くことがこんなにも難しいとは!

唸れば、暁さんがふむ・・・と仮面越しに頬に手をやり首を傾げる。


《意外と、旭はそのまま何も考えず字を書いた方が良いかもしれないね。ただでさえ文字を書くことは苦手だろう?だから力が入るのだと思う。


ならいっそ、霊力を込めることを意識しない方がいいかもね》


「文字を書くだけ?しかしそれやったらただの紙切れやで?」


《まあ、やってみないとわからないね。そもそも符は特殊な紙だし・・・》

「んー、じゃあとりあえず書いてみる」


気を取り直して、筆に墨を付け、符に字を書く。書いている言葉に意味があるわけではなく、書くときに願う内容で符の役割は変わるのだとか。

それを現しやすい文字を書け、と源さん達は言った。


だから、貧相かも知れないけれどイメージする。攻撃と言えば雷や火。守ると言えば盾・・・もっといえば城壁。それをイメージする。


今度は、燃えなかった。問題はただ書いただけの符に力があるかどうか、である。

4種類作った符『雷撃』『火炎放射』『盾』『城壁』なんともいえないラインナップだけれど、私の貧相なイメージ力と語彙では頑張った方だ。



陽太もおなじように書くことだけに集中したらしく、今度は破れていない。


とりあえず試してみようか、という東堂さんの言葉に、部屋をでて訓練場に向かう。

仕事場の真向かいにあるそこは、式神署の職員のみ利用できる特殊な部屋で、武道場のような内装に、入り口と反対には複数のわら人形が案山子のように立てられていた。


「あれが、的。

符にほんの少し力を込めたらええ。見本を見せたるわ」


ニィっと笑った東堂さんが、一歩前に進み出たと思ったら纏う空気を鋭い物に変えて懐から指で挟んだ符を取り出し、的に向ける。


足は肩幅に開かれ、衝撃に対応するように少し腰を落とした。


「破魔招符!」


力のこもった東堂さんの声に、符が光の矢に形を変えて的に凄まじい速さで向かっていき、案山子が一体一瞬で消失した。


「おっそろしい」


「ま、動かん的やし、ただの藁人形やからあーなる。せやけど、これが妖やったらせいぜい戦闘補助くらいしか出来へん。


ま、式神達の補助出来れば上々って感じやな」


「なるほど、サポート。じゃあ、やってみる」


ダメで元々だと肩にはあまり力が入っていない。仁王立ちになって、書いたばかりの符を的に向けて翳し、腰を少し落とす。

「雷撃招来!」


凄い衝撃だった。気持ちを込めて、符の名前を叫べば、轟音と共に符から白い光が飛び出し案山子一体どころか全ての案山子を一瞬で灰にしてしまった。どこからか亀裂の入ったような音も聞こえる。

衝撃で後ろにごろんごろん転がった私は、自分の成したことに、わぁお、と目を丸くするしかない。


「!?」


「なんとっ!!??」


《これは・・・結界に亀裂が入ったか》


《・・・当然と言えば当然の結果か》


絶句、呆然、驚愕、感心、納得4者4様の反応に私自身は乾いた笑いしか浮かばなかった。


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