23話
「君、誰や?なしてウチの庭におるん」
小首を傾げつつも一定の距離を保って立っていたのは、前髪が長く完全に目が隠れている雰囲気がどんよりした男の人だ。
「橘道邑さん?」
「なんや?何でウチの名前知っとるん?
そもそも、この屋敷にどーやって入れたん」
橘さんは周りをキョロキョロ見渡して、解せないという顔をする。
「腐っても、ここは前陰陽頭の術が掛かってる筈やのになあ」
ぶつぶつと呟く橘さんに旭はそっと斜め上を見上げる。
「腐ってもって・・・・」
なんとも言えない表情の暁さんに思わず笑ってしまったのは、仕方ないと思う。
「聞きたい事があるの」
気を取り直して、まっすぐ橘さんを見れば相変わらずの距離を保ったまま、何や?と一応聞いてくれる態勢を取ってくれた。
見掛けによらず、イイ人みたいだ。
「貴方の頭のなかには、何年分の戸籍があるの?」
「キミ、やっぱり何者や?」
「陰陽寮の寮生かな?」
「陰陽寮?
ますます謎やわ。今の陰陽寮にウチの事知っとるヤツはおらん筈やで」
「うん。今のヒトに聞いたわけじゃないからね」
しかもヒトでもないし。
「意味わからんわ、ほんま。
・・・・成仏しとらんのかぃ」
「成仏してないどころか、此処にいるけど」
《あ、おバカ》
「はあ??あろうことか、此処におるんか、あの馬鹿。
信じられへん。仮にも、陰陽頭してたのに??」
信じられないと、眉を潜める橘さんは、段々と慣れてきたのか最初は小さかった声が大きくなってきた。
「うん、そう」
《ばか・・・って》
落ち込む暁さんは放置する。どうせ賢くて生前は言われた事のない単語だろう。
「で、君は馬鹿に言われて此処に来たんか」
「うん。おにーさんが、ひょっとしたら知ってるかもって言うから」
「・・・しゃあないな。
上がりや。茶とか出せへんけどな」
「お構い無く。自分で淹れますー」
「・・・さよか」
仕方ないと言わんばかりに溜め息を吐いた橘さんに、へらりと笑った。




