20話
毎度突然展開すみませぬ・・・。
陰陽寮に来て早一月と半分が過ぎ、ミミズ文字も漸くちょっとは読め、書けるようになった今日この頃。
本日は七日に一度の休養日ということで、陰陽寮を出て郊外に来ているところだ。
ちなみに陽太は私以上にミミズ文字が下手で所謂補習中である。
「最近は上手くなって来たって今朝褒められたし、今日は何か良いことあるかもしれないわよねぇー」
フンフンと鼻歌を歌う私の真後ろで夕霧が溜息を吐いた。
≪まだまだ下手だがな≫
「お母さんシャラップよ!!」
≪だから母ではないと何遍言わせる気だ??旭。
しゃらっぷが何かは知らぬが、不愉快になったぞ≫
わきわきと手を動かす夕霧にすぐに謝ったわ。立ち向かえ?アイアンクローはイタイのよ・・・。
≪それで、旭はどこに向っているんだい?≫
おかめの面を替え本日は火男の面を被る暁さんに、ふふふー、と笑いかける。
「今日は、のんびりまったりするのよー。都はわちゃわちゃしているしね。
鞍馬に里帰りでも良かったけど、たまには探検もいいかなーって」
あわよくば、美味しいものと出会えれば最高なのだが・・・平安時代は現代に比べれば粗食も粗食なので期待していない。
肉食べたいなー、と思う時は多々あるし、ジャンクなモノが恋しいのは割と常だ。現代っ子の舌は粗食に中々馴染まないわぁ。
でも、肉肉言うと、暁さん達が張り切って狩って来るので大変なのよね。
食べたいのは牛とか鶏であって、熊でも雉でもないのよ。
≪郊外にはならず者も多い。あまり長居はしないぞ≫
「はーい・・・?」
≪返事を伸ばすな・・・・・何かいるな・・・≫
≪人ではないね。妖か??
このあたりは雑魚の妖しかいなかったはずだが・・・?≫
「休みなのにー。やっぱり良いことなんかなさそうだなぁ。退散?」
≪面倒ごとに巻き込まれる前に退散できたらソレが一番だったが、それも無理なようだな≫
≪しっかり気付かれたな。旭は下がっていろ≫
時刻は昼前だ。この時間に現れる事が出来る段階で相手は弱くはない。
脚を一歩後ろに下げ構えたのだが、その瞬間、全ての音と色が一瞬で掻き消えた。
「あらー・・・連れ去られちゃった??」
時間にしてみれば恐らく一瞬。
気付けば、空に月と星が煌き、空は濃紺。先ほどまでいた郊外の田舎道ではなく、凄まじく大きな木の根元にいた。
覚えのあるその場所は、あの世とこの世の境界である。
<落ち着いているのぅお主は≫
「初めての経験じゃないからねぇ・・・オジサンは幽霊?妖じゃないねぇ」
<さて、どうかな。妖に堕ちかけている幽霊が正しいやも知れぬが≫
ハハハ、と軽く笑うちょび髭で文官の服を身に纏うオジサンにふーん、と言いつつ戻ったときの夕霧と暁さんの反応が怖いなぁと内心で思う。
<噂どおり、やはり変わった娘だ。私の事は伊佐と呼んでくれ。
さて、私が此処に君を呼んだ理由はひとつ・・・私の無念を晴らしてはくれないか。陰陽師見習いの女童よ≫
「無念・・・ねぇ」
面倒な事に巻き込まれたなぁ・・・と溜息を吐きオジサン基伊佐さんを見上げる。
<無念を晴らしてくれると約してくれるならば、帰してやろう現に≫
「・・・選択肢ないわよねぇ。知ってたけど」
<ふはっ、正直な童だ。面倒だと顔に書いてあるぞ・・・。
童に頼むのは私も心苦しくはあるが、この機を逃して果たしてあの地にいつ力のある存在が現れるか分からんのでな≫
「・・・はいはい。私は何をしたら良いの?」
<決断の速さ、助かるぞ。
頼みたいのは、探し物だ≫
「探し物?」
<経を探し、寺に届けて欲しいのだ。とある尊き方が死出の道に出る直前預かった経なのだが、寺に届ける前に私は殺され、衣服ごと経も奪われた。
このままでは死に切れぬ。どうか頼む≫
言いたい事を言って、伊佐さんは軽く頭を下げた・・・同時に再び音と色が一瞬で消える。ああ、きっと怒られる。間違いなく怒られる。
大きな溜息を吐いた私に、伊佐さんが遠くですまぬ、と謝った気がした。




