19話
《起きろ・・・!旭・・・!!》
「・・・うむぅ・・・お母さん・・・あと五時間・・・」
《長いわ!!》
「ぶはっ!!君らこの一ヶ月毎朝やなぁ」
《しっかし、五時間ってどれくらいなんや・・・??》
ケラケラと東堂さんの笑い声が寝ぼけた頭に響く。
寝ぼけて覚醒しきれていない身体をお母さん基、夕霧にガックンガックン揺すられる。
「っきもちわるい・・・・」
《起きたか》
「起きた起きた・・・おはようお母さん」
《まだ寝ているようだな。よし、一発殴ってみようか》
「起きました!!おはよう!!」
《おそようだな。相変わらずお前が一番最後だぞ》
「う・・・すみません。東堂さん」
困った奴だ!と溜息を吐く夕霧に、完全に覚醒したから東堂さんに慌てて頭を下げる。
この時代に来るまでは、もうちょっと朝に強かったはずなのに、縮んでから物凄く弱くなった。
・・・子供だから、っていうのもあるんだろうけれど、一番は鞍馬に住んでいる間ほぼ昼夜逆転してたからじゃないかな、と思っている。
妖と生活を共にしてたらそうなるよね、うん。
「かまへんよ。ワシ等はどちらかといえば朝に強くなくてエェからな。
本業は夜やさかい・・・まあ、早起きに越した事はないんやけどな。自分らみたいに幼い頃は睡眠も仕事や!!落ち込んでる暇無いで!!ちゃっちゃと準備しよか!!」
ニカリと笑う東堂さんに、はい!と返事をして慌てて身支度をする。着替える際はちゃんと部屋を出て行ってくれる東堂さんは、豪快な性格だが気遣いも出来る空気の読めるお兄さんだった。
そんな東堂さん、ものすごーくしっかりしているのに、実はまだ15だという。
うん、現代にいた頃と合計すれば間違いなく私のほうが年上だった。いや、合計しなくても私のほうが年上だよ。平安男子にびっくりだ。
「そういえば、もう一ヶ月か」
《ああ、そうだな。早いものだ》
「うん。本当に」
陰陽寮に来て、今日で丸一ヶ月だ。
その一ヶ月の間、とりあえず鬼のように勉強させられた。
とはいえ、その内容はまさに《基本のき》、つまり文字や算数、この平安京の地名を覚えたり、方角の見方とかである。
陰陽術に関しては全然なのだ。
「ちょっとだけどミミズ文字読めるようになったもんね」
《ミミズ文字・・・》
「昨日は字と、算数したけど、今日は何をするのかな」
《さてな。そういえば、暁は昨日からどこに行かせている??》
「暁さんには鞍馬山にお使いに。じいさまや烏天狗の皆に!
文字を習ったから近況を文に書いて暁さんに持って行ってもらったの」
《なるほどな。
・・・・・・・・・・・・・・・大泣きしてそうだ》
「なんか言った??」
《いや。身支度は済んだな。では朝餉に行くぞ》
「はーい」
私が用意している間に布団を片付けたり服を出したり仕舞ったりとまさにお母さん!な事をしていた夕霧にあえて触れず、返事をする。
この一ヶ月ですっかりお母さん具合が増した気がするけど、言わないほうが、気付かないほうがきっと幸せって奴だよね??
朝食を食べ終わって、朝の掃除を終えると、一日の勉強が始まる。
陽太と大部屋で並んで座ると、東堂さんと源さんが揃って頷く。
「今日から、少しずつ陰陽術をやっていくで」
「陰陽術・・・」
「せや。ひとまずは身を守るための術からやな。陽太も旭も、戦う術は契約している式神がおるからええけど、いざという時、自分自身を守る術がないとアカン」
「そうだな。敵と当たって、それが常に単体であるとは限らない。
夕霧たちは強いが、旭を守りながらでは限界もある。
ひとまず、2人には結界術と符が使いこなせるようになってもらおう」
「けっかいじゅつ、それに、ふ・・・?」
「力をこめた札の事だ。これを使えるようになると、簡単な式を操れるようになる」
「しき??」
「まあ、おいおい分かるわ。とにかく、まずは符からやで。
そのためにも、旭は特に早く文字を上手く書けるようにならな」
「え!!」
結構上達しているつもりだったのに・・・とズーンと落ち込めば、苦笑する気配。
「頑張ったら、水あめ買うたるわ」
「頑張る!!」
即答した私に、ぶはっと周りが噴出したのだった。
・・・だって、ケーキも無い、スナック菓子も無い、チョコも無いこの平安で飴は貴重な甘味なんだよ!!
甘いものは超大事!!
27年2月28日
妖の台詞<>になっていたのを《》に変更しました。




