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16話


右に歩き出して直ぐ、右腕がチリチリと粟立った。嫌な予感がして、陽太を止めて背に隠す。


「旭・・・?」


「大丈夫大丈夫。ちょーっと嫌な予感がするだけ」


へらりと笑う。チリチリするコレは説明できるものじゃない、所謂野生の勘なのだ。鞍馬に暮らしている間に見に付いた自己防衛の一つ。



「夕霧、暁さん、分かる?」


《あぁ・・・隠れているがな》


《ふふ、大丈夫。わかっている・・・。


月牙はまだ生まれたばかり・・・膂力はすでに十分だけどこういう感覚はこれから養えばいいさ》 


私や、夕霧たちが何に気付いているのか分かっていない月牙に暁さんは柔らかい声で言うと、そのまま暁さん一人、掻き消えた・・・凄いスピードで走ったともいう。


あまり時間も経たず、遠くでいかずちが落ち、炎の柱が上がった。


「暁さん、大丈夫かな」


《心配ない。鬼神の中でもあれは上位に位置する実力者だからな。


それより旭は何がなんだか分かっていない陽太達に説明してやれ》


夕霧の言葉に、陽太と月牙を見れば、困惑した表情だ。


うん、何の説明もなしに歩みを止めて、しかも暁さんが掻き消えたのだから不安だよねぇ・・・。


「あのね、今、暁さんは少し離れたところで待ち伏せというか隠れていた敵の所に行ったんだよ」


《敵が、いたのか》


気付かなかった、と目を見開く月牙に、夕霧は鼻を鳴らす。


《落ち込まずとも、暁が言ったようにお前はまだ完全ではないのだ。


鬼の力の半分も使いこなせていない。


だがそれは、これから時と経験を重ねれば、暁ほどではなくとも強い力をもてる》


暁さんは元陰陽頭なので、一人の人間の感情から生まれた月牙とはベースが違うらしい。


ただし、そもそも鬼が一人の感情から生まれることは滅多と無いので、変な言い方だが、混ざりモノがない分、月牙のベースも通常の鬼に比べれば比較的高いのだとか。


「旭も、分かったんだ」


「私のは、必要に応じて得た動物的勘というか野生的勘だからねぇ・・・」


鞍馬山は、現代っ子からしたら危険なのだ。多分、鞍馬にいなくても養われた気がする。


それほど、現代と平安は違うのだ。


《旭のように野生的勘が養われるかはともかく、経験に基づく勘は養われるものだ。


落ち込む必要はない。


・・・旭、そろそろ大丈夫だろう。暁の向ったほうも炎の柱が上がってから静かだ。決着をつけたのだろう》


「ん。じゃあ行こうか」


止めていた歩みを一応慎重に進めれば、程なく五つの人影が見えた。


「暁さん!」


《遅かったねぇ旭》


振り返った暁さんのおかめの面にも、衣服にも傷一つ・・・もっと言えば汚れ一つ無いのを確認してほっと息を吐く。


ふわりと一飛びですぐ横に帰ってきた暁さんに向き直り、上から下まで眺める。


「一応大丈夫そうですが敢えて聞きます。怪我はないですか?」


《ふふふ。大丈夫だよ、無傷さ》


「良かった。・・・それで・・・?」


残りの四つの人影、よく見れば二つは妖で傷だらけで地面に減り込んでいた。減り込ませるって・・・とまだ暁さんの実力をちゃんと見た事が無い私は頬を引きつらせた。


・・・うん、普通の反応だよね?


もう二つは人間のようで、それぞれ減り込んだ妖の近くにしゃがみこんでいる。


《これは試験だったのさ。


門の鬼の試験を突破したわけではなく、間違って右に進んだか確認を取る為に。


本来は、あそこに減り込ませた二匹が待ち伏せしているんだろうが、旭がかなり早い段階で気付いたからね。逆にボクが奇襲をかけたんだよ。


・・・ま、結果君達の合格は確実だからいいんじゃない?》


「試験で待ち伏せって、そう教えてくれても良かったのに」


《毎回そうではないのだ。それに、余計な手間は省きたいだろう?》


「それは確かに」


面倒なのは嫌よねぇ・・・と笑って、改めて暁さんに向き直る。


《??》


「・・・へへ。有難うね、暁さん!お疲れ様でした!!」


えいっと抱きついて(予想以上に堅かった)、ほんの少しだが霊力というものを暁さんに流す。


落ち着いたら、御褒美は何が良いか相談しないと・・・と頭の片隅で思った。


霊力というのは妖のご飯だ。力の源にもなる。


基本的に契約したから自然に夕霧や暁さんに流れて行くようだが、望んで流す事もできると聞いたので実践してみた・・・ら、夕霧の声が響いた。


《旭、いつのまに霊力の受け渡しを出来るようになったのだ!!》


「水瀬さんに、今度やったら喜ぶで!って教えてもらったー」


《何時の間に!!》


ギャーギャー言う夕霧に、ホントに心配性のお母さんなんだから、と溜息を吐いて暁さんから離れる。


そろそろ放置してる人達と話したほうが良いなあと正面を向いた私は、暁さんが顔面を手で覆い耳まで赤くしているのに全く気付かなかった。


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