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第二十八章 トンの町 5.ホブゴブリンからの依頼

 オークたちが一掃されたのを――スキルを使って――確認すると、敵意がない事を示すために手を振りながらホブゴブリンたちの(もと)へ歩いて行く。さて、【聴耳(ききみみ)()(きん)】はちゃんと仕事してくれるかな?


「ニン……(ザザッ)……(げん)、お前は先だって封印解放の儀をなしとげた者だな?」


 最初の方で雑音が混じったけど、その後は片言(かたこと)だった言葉が明瞭に聞き分けられるようになった。丁度電波の受信状態が良好になる時みたいだ。表現が()ってるな~。


 さて、向こうの言う事は聞き分けられたけど、僕が話す言葉が翻訳されるかどうかは判らない。一応(うなず)いて肯定しておいてから、試しに話しかけてみる。


「うん、そう。僕の方でも見覚えがあったから手を出したんだけど、余計な事だったかな?」


 そう言うと、ホブゴブリンたちは目を(みは)って絶句した。あ……僕の言葉が通じたんで驚いてるのかな?


「……我々の言葉が話せるのか!?」

「あ、うん。そういうスキル……加護を貰ったみたいで……」

「そうか……我々の言葉が通じる人間にあったのは初めてだ。いや、(えん)()には感謝する。見事な手並みだった」


 どうやらホブゴブリンたちとは友好的な関係を築けそうだ。だったら経緯(いきさつ)()いてもいいかな?


「前にあった時にはもっと南にいたよね? こっちへ来たのは何か理由が? 僕はこの辺りの魔獣(モンスター)の挙動がおかしいからって調査を頼まれたんだけど」


 そう言うと、ホブゴブリンたちは自分たちの状況を説明してくれた。


 聖地――シルの卵があった場所の事だね――の警衛という任務から解放されたホブゴブリンたちは、本来彼らが住んでいた場所――トンの町の北西側らしい――に戻ったんだけど、オークキングの誕生によって勢力を増したオークたちに追われるようにしてこの辺りに移動してきたらしい。オークたちの群れは概算で百~二百頭ほどだという。


「この辺りにいるのは偵察のための先遣隊で、準備が整い次第に人間の町を襲うつもりらしい。人間の町がどうなろうと我々には関係無いが、その結果オークどもの勢力が拡大するのは困る」


 うん。共闘の余地があるって事だよね。


「オークたちが僕らの町を攻撃するのがいつ頃になるか判るかな?」

「さぁ……先遣隊がここに来てから間がないようだし、まだ人間の町を偵察する段階には至ってないだろう。だが、オークたちは気が長い方じゃない。あと五日以上待つ事は無いだろうな」


 だったら、その前に一刻も早く先手を打たなきゃならない。オークたちの本陣の位置を(たず)ねると、ここから二十キロほど行った辺りに、森を伐り開いて集落を造っているらしい。二百頭か……。さっきの闘いぶりを見た限りだと、連携しての闘いとか戦術とかは得意じゃないみたいだけど……。


「オークの闘い方ってどんなのか知ってる? オークキングの率いる群れも同じかな?」


 僕がそう()くと、ホブゴブリンのリーダーは――意味ありげな視線を僕に向けてから――答えてくれた。


「基本的には力任せの突撃だな。オークキングが直接に率いる場合は、多少は統率が取れた行動を取るようだが……」

「オークには魔法持ちは多いの?」

「いや、ほとんどいない筈だ。今回の群れにしても、いたとして数頭だろう。逆に我々は魔法持ちが多いから、何とか対抗できているようなもんだ」

「もう一つ。オークも魔法を使う時には詠唱が必要なのかな?」


 僕がそう()くと意表を()かれたような表情をしたけど、他の面々とも相談した上で答えてくれた。


「絶対の確証は無いが……我々にしても詠唱は必要だし、オークが魔法を使う時に何かぶつぶつ呟いているようなのを見た者もいる。詠唱が必要だと考えていいだろうな」


 だったら……工夫次第でやりようはあるかな。


 あと、確認しておく必要があるのは一つだけだね。



「仮にだけど、人間がオークの本拠を攻撃するとして、後方からの援護を期待して良いかな?」

 そう問いかけるとホブゴブリンのリーダーは、僕の方をじっと見つめてから言った。


「こちらからも()きたい。我々が人間に協力するとして、お前(・・)は我々と共に闘ってくれるのか?」

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