第二十八章 トンの町 4.ホブゴブリンとの共闘
「さて……ギルドからの依頼はこれで達成した訳だけど、来たのと同じ道を戻っちゃつまんないよね。獲物も少ないし……東寄りに遠回りして戻ろうか。オークたちがどの辺まで進出しているのかも判るしね。いいよね、シル?」
シルが同意してくれたので、僕はオークの拠点から東寄りに廻って町へ戻るルートを進んだ。しばらく行くと、警戒スキル群が進路上に異常がある事を伝えてくる。だけど……【嗅覚強化】が捉えたこの臭いには憶えがある。……急ごう。
先を急ぐシュウイの眼前に現れたのは、オークと闘う小柄な集団であった。だが、シュウイはその小柄な人影に見覚えがあった。
「あ~……やっぱりホブゴブリンだよ……東のフィールドで見かけたから、もしやと思って来てみたけど……」
体格と腕力で勝るオークに対して、ホブゴブリンたちは戦術と魔法で対抗している。結構好い勝負をしているらしく、戦況は膠着状態のようだ。
「う~ん……あのホブゴブリンって、シルを解放した時にクエストの出題者側にいたホブゴブリンたちだよね……。シルは覚えて……いないよね、卵だったもん」
一応シルにも訊いてみたんだけど、シルは懐から首を伸ばして眺めた結果、知らないというように首を振った。だよね~。
でも……ギルドからの依頼は異変の調査であり、オークがそれに関わっているのは確実だ。そして、情報は敵対者に訊けというのが鉄則だから、あのホブゴブリンたちに経緯を訊くのが効率的だ。幸いに【聴耳頭巾】も手に入ったしね。
では、友好的にホブゴブリンからオークの情報を入手するために、ホブゴブリンに加勢してオークを狩ろう。うん、理論武装も完璧だ。……まぁ、顔見知りと敵が闘っていたら、顔見知りの加勢をするのが普通だよね。それでは……
「駆け出し冒険者シュウイ、推して参る!」
堂々と名告り――誰一人反応しなかったけど――を上げて、クロスボウで後衛(?)のオークを一匹片付けた。僕の位置からは後衛の方が近いんだよ。前の方にいたオークは後衛への攻撃を察知するのが遅れたみたいで、気付かれないうちにもう一匹をクロスボウで始末する事ができた。このクロスボウは弦の張力が少し弱く、威力はその分落ちるけど、反面で装填が早いため、数の多い敵にもそこそこ対処できるのが嬉しいな。
さすがに二匹が続けて斃れると、鈍感なオークたちも異常に気が付いたようだけど、まだ僕の居場所は判っていないようだ。余裕を持ってクロスボウの三射目。更に一匹が光に変わる。
後衛が立て続けに斃された事で、オークたちの戦線は一気に崩壊した。浮き足だったオークたちの隙を衝いて、ホブゴブリンの攻撃が鋭さを増す。ここが勝負所だと解っているんだろうね。オークたちはようやく僕に気付いたみたいで、後衛(?)にいた何匹かが何か喚きながら僕に向かって吶喊してくる……何を言っているのかは相変わらず解らない。敵扱いで間違い無いみたいだね。おっと、のんびりしている暇は無いや。投石紐を取り出して、接近してくる二匹を順に狙っていく。一匹はクリティカルが発生したようで光に変わったが、もう一匹は顔面を血だらけにしたまま立ち止まった。相変わらず意味のある言葉は聞こえてこない。敵対する姿勢を変えないみたいだし、投石紐の二投目で始末する。
大剣を片手で振りかぶったオークの一匹がホブゴブリンに駆け寄っていたので、そいつの足下に【土転び】をかましてやると、盛大にすっ転んだ。ホブゴブリンも驚いたようだったけど、すぐに気を取り直してオークの急所を一撃して殺したみたいだ……ホブゴブリンが殺したオークは光に変わらないのか。初めて知ったよ。あ、ホブゴブリンが僕に気付いたのか、手を振ってる。僕も応えておこう。
戦闘全体に目を転じると……あぁ、もう終わってるな。




