第二十八章 トンの町 1.お手伝いクエスト
ログインして朝食を摂った後、今日は冒険者ギルドに向かう。少しくらい依頼を受けておかないと、冒険者としてのランクが上がらないからね。まともなスキルがとれないからできる事は限られているけど、この町の周辺ならそんなに危険なモンスターも出ないようだし、早いうちにランクを少しでも上げておこう。
冒険者ギルドの前に着いたところで、上着の裾を引っ張られた。振り返ってみると、小さな女の子が僕を見上げていた。……住民の子だよね? お手伝いクエストってやつかな? とりあえず話を聞いてみようか。
「何か用なの?」
そう訊くと、女の子は懸命に頷いた。
「あのね、ユーリを探してほしいの」
「ユーリ?」
迷子かな?
「うんっ。おとなしい子で、すぐいなくなっちゃうの。仲よしなの」
まさか……誘拐……とかじゃないよね?
「いつ、いなくなったの?」
「朝おきたらいなくなってたの。おかーさんはほっときなさいっていうけど、メイナはユーリがいないといやなの」
お母さんが、放っておきなさい、ってねぇ……。
予感があったので、ユーリの大きさを訊いてみた。メイナちゃんが手を広げて、これくらいっ、て教えてくれた大きさからみて……猫かな?
「ユーリは猫なの?」
そう訊くと、メイナちゃんはこっくりと頷いた。まぁ、いいか。どうせ気楽なソロプレイだしね。察知系のスキル四つを重ね掛けしておいて、と。
「とりあえずメイナちゃんのおうちの近くに案内して。それから、ユーリがよく行く場所を知っていたら教えて」
「うんっ!」
メイナちゃんは嬉しそうに大きく頷くと、先に立って案内してくれる。その途中で【虫の知らせ】に反応があった。
「メイナちゃん、ちょっと待って」
【虫の知らせ】の指し示す方向へ歩いて行くと、小さな広場があった。日当たりのよいベンチの上に、一匹の白猫が寝そべっている。
「あ! ユーリ!」
メイナちゃんが叫ぶと、白猫はピクッと起き上がってこちらを見たが、素早く身を翻して逃げようとする。
「【お座り】!」
ギャンビットグリズリーすら捉えたスキルに、白猫風情が太刀打ちできるもんか。即座にしゃがみ込んで、何が何だか解らないという顔をしている白猫を捕まえるのに三分とかからなかった。
「はい、ユーリを渡すね」
「ありがとうっ、お兄ちゃん」
う~ん。瞳をキラキラさせてお礼を言ってくる。可愛いよね。……ちゃんとお兄ちゃんって呼んでくれたし。
男性扱いされたシュウイは満足げだが、幼児の男女認識は着衣に左右される部分が大きい。単にズボンをはいているから男性と認識されただけなのだが、知らぬが仏というやつである。
うんうんと頷いていると、ポーンという電子音が聞こえてきた。
《お手伝いクエスト「猫を探せ」解決までの所要時間がランキングの一位に入りました。プレイヤー名を公表しますか? Y/N》
あれ? これってタイムアタックだったんだ。でも、プレイヤー名の公表なんて、面倒が増えるだけだよね。ここはNで。
《ランキング公開に際して、プレイヤー名は秘匿されます》
「あのねっ、ユーリを見つけてくれたからお礼。ひとつだけあげるね」
そう言うと、メイナちゃんはキラキラ光る珠を五つほど取り出した。この中から選べってことかな。……いや、それよりもこれ、スキルオーブじゃないの? 僕は「スキルコレクター」の影響で、オーブからのスキル取得はできないんじゃなかったのかな? ……まぁ、折角のメイナちゃんの好意だし、記念に持っておくだけでもいいか。
「じゃあ……これ、貰っていい?」
「うんっ、あげる」
にぱぁ、という感じで笑ったメイナちゃんからオーブ(?)を貰って、手を振って別れる。何か心が温まるなぁ。こういうクエストなら歓迎だ。
ほっこりしていると、ポーンという電子音が聞こえてきた。余情が削られるなぁ……。
《お手伝いクエスト「猫を探せ」をクリアーしました!!》
《クエスト報酬としてスキルオーブを得ました。スキルオーブを使用する事で、ランダムにスキルを一つ取得できます》
う~ん……「スキルコレクター」の事もあるし……第一、人が見ている前でスキルオーブを使ってみるのは拙いよね。万一失敗したら、なぜ失敗したってなりそうだし。……やっぱり確かめるのは後にして、先にギルドへ行こうか。大して時間は経ってないしね。




