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第二十六章 トンの町 5.微睡みの欠片亭(その1)

複数回更新の三話目です。

 宿へ戻って夕食を摂った後、自室へ引き上げる。シルは一足先に、お気に入りの果物で夕飯を済ませている。さて、今日買った素材を取り出して……【調薬】と【錬金術】のレベル上げだ。【分離(邪道) 初級】にリーチがかかってるし、これからだね。


 【分離(邪道)】のレベル上げに使えそうな素材としては、興奮剤系の薬品を分離できる体力回復ポーション(中級)と、水を分離してドライフルーツを作れるアップルヴァインの果実だね。それと……多分だけど、エキセントリックマンゴーの果肉も水を抜いてドライフルーツにできるんじゃないかな。果皮からマンゴールを抽出して、果肉からドライフルーツを作れば効率的だよね。まずこれから試してみよう。


 以前に買った、少し品質が低い方のマンゴーで実験してみよう。


 エキセントリックマンゴーの皮を()いて、抽出を試してみる。



《選択された素材はエキセントリックマンゴーの果皮です。何を抽出しますか?》



 ここはマンゴールでいいよね。



《マンゴーのアレルギーについて、その特徴を答えて下さい》



 ログインする前に調べてきておいた内容を答える。


「えっと……マンゴーはウルシ科の植物であり、ウルシオールと類似した構造のマンゴールやカルドールといったアレルゲンを含む。マンゴーアレルギーは即時型ではなく、食後一~二日経ってから発症する事も多い。また、交差反応を示すため、マンゴーにアレルギー症状を示す者は、ラテックスゴムにもアレルギー反応を示す可能性がある……」


 解答欄を埋めると白い光が素材であるマンゴーの果皮を包み、しばらくして光が収まると、皮の横に置いた器にマンゴールらしい物質が少量入っていた。



《課題をクリアーしました。【抽出(邪道) 初級 2/3】》



一応、抽出したマンゴールを鑑定しておこう。



【素材アイテム】マンゴール 品質C レア度3

 ウルシオールと似た構造を持つ、皮膚炎の原因物質。調毒の原料となる。



 品質が低いのは、素材に使ったマンゴーの品質が少し低かったからかな? 何にせよ、これで【抽出(邪道) 初級】にもリーチがかかった。抽出に使えそうな素材は幾つか確保してるけど、まずは残ったエキセントリックマンゴーの身から水を分離して、ドライフルーツを作ってみよう。



《選択された素材はエキセントリックマンゴーの果肉です。何を分離しますか?》



 ここは……水でいいんだよね。



《初級スキルでは、他の分子と結合した状態の水、すなわち結合水は分離できません。それでよければ、生命物質としての水の特徴を答えて下さい》



 生命物質としての水ねぇ……。


「えぇっと……分子量が小さい割に融点・沸点ともに高いため、常温で液体の形態をとり、様々な物質を溶かし込んで化学反応の場として働くと同時に、溶かし込んだ物質の運搬にも寄与する。また、比熱が大きく、体温の維持にも貢献する……くらいかな」


 解答欄に入力すると、もはやお馴染みとなった光がマンゴーの果肉を包み、光が収まると果肉の隣に置いた器に水が入っていた。原料となったマンゴーの果肉は水分を失って干涸らびている。



《課題をクリアーしました。【分離(邪道) 初級 3/3】》


《【分離(邪道) 初級】が解放されました。これ以後、初級スキルの範囲内で条件無く【分離(邪道)】を実行できます。反復使用によって経験値が貯まり、経験を積むほど品質の高い生成物が得られるようになります》



 へぇ……そういう仕組みなんだ……。これは何度も使って経験値を上げておきたいところだよね。とりあえず、分離されたものを鑑定しておこう……って、シル!? 気が付くと、シルがマンゴーから分離された水を飲んでいた。果実水だから美味しいのかな? いや、それよりも……


「お前、そんなのを飲んで大丈夫?」


 そう訊いたんだけど、シルは問題無いと言いたげに、自信たっぷりに(うなず)いて見せた。一応、残っている水を鑑定しておこう。



【食品アイテム】エキセントリックマンゴーの果実水 品質C+ レア度3

 エキセントリックマンゴーから分離された水。初級スキルによって分離されたためマンゴーの香りや風味が移っており、(かえ)って食品アイテムとしての価値を高めている。



 ……初級スキルだからこそ価値の高いものができるなんて……そんな事もあるんだ……。あれ? という事は、中級スキルは単に分離や抽出の純度が高くなるんじゃなくて、純度を指定できるのかな? そうでなきゃ、初級で作れたものが中級では作れなくなっちゃうよね?



 正解である。中級スキルでは単に純度の高い分離や抽出を行なうだけでなく、指定した純度による分離や抽出が可能になっている。なお、これは邪道スキルのみではなく、一般の錬金術・調薬にも言える事である。



「まぁ……鑑定の結果を見ると、シルが気に入るのも当然だよね。……っていうか、すっかり飲み干しちゃってるし」



 自分でも飲んでみたかったと、やや恨みがましい視線をシルに向けるが、当のシルは素知らぬ顔で運動不足解消に歩き回っている。しかし、決して視線を合わせようとしない当たり、幾ばくかの罪悪感は感じているらしい。

 過ぎた事を言っても仕方がないと諦めたシュウイは、ドライフルーツの方に注意を向ける。

次話は22時頃更新の予定です。

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