第二十五章 篠ノ目学園高校(水曜日) 2.放課後
放課後、図書委員会の用事があるという要ちゃんを除いた僕たち三人は、昨日に続いて今日も親水公園にやって来ている。心地よい春風に吹き散らされる桜の花片の中を、木漏れ日を受けて歩くのは良い気持ちだよね。
「四月も半ばだというのに、ここは桜が満開だよな」
「同じ桜でも種類が違うみたいだよ。大島桜とか大山桜の系統じゃないかな」
「花期の長い桜並木は親水公園の名物だもんね」
「へぇ、知らんかったわ」
「むぅ~、匠君は花より団子かぁ~」
「いや、そんな事はないぞ? 同じ見るだけなら団子より桜の方が楽しいし」
「むぅ~」
茜ちゃんは不服のようだけど、僕も指を銜えて団子を見ているよりも、花を見ている方が楽しいけどな。
「論点が違うよ~」
「「?」」
なぜかご機嫌斜めの茜ちゃんを宥めて、桜並木のベンチに腰掛ける。柔らかな木漏れ日の中で話す内容がゲームというのが風情をぶち壊してるけどね。
「で、蒐は【錬金術】をモノにしたのか?」
「そう、あたしもそれ聞きたかった」
「モノにしたって程じゃ……初級の仮免許を取ったところだよ」
「やっぱり【錬金術】?」
「いや……初級は【調薬】も【錬金術】も同じ内容みたいだよ? 薬屋の師匠に【調薬】の指導を受けたら、【錬金術】も取得済みになってたし」
「あぁ……そう言えばβテストの時にもそんな事があったな」
匠の証言によると、【錬金術】の取得を目指していたβプレイヤーが該当するスキルを取得して、目出度く転職となった時に、【錬金術】と【調薬】の二つの選択肢が提示されたんだそうだ。
「初級のスキルは【錬金術】も【調薬】も共通って事なんだろうな」
「でも、通常はどっちか一つしか取れないのよね?」
「あぁ、蒐のケースはかなり特殊だな」
「む~、どうやったら二つも取得できたの?」
「判んないよ。気がついたら拾ってたんだから」
「『スキルコレクター』ってのは謎のスキルだな」
実はレア素材を無造作に売り払うシュウイに辟易した運営陣が、レア素材の流出をシュウイの手元で止めるべく、素材を消費する【錬金術】と【調薬】を押し付けたというのが真相なのだが、三人ともそんな裏事情は知らない。ごく単純に「スキルコレクター」というユニークスキルのせいだと誤解していた。
「で、今は初級だとか言ってたよな」
「仮免許だけどね。修得した筈のスキルにしても、まだまだ覚えなきゃならない技術が多いみたいだし」
中級の作製をやろうとしたら【抽出】スキルが未修得判定だった件と、ビタミン抽出の件を二人に話しておく。
「普通の【錬金術】や【調薬】にはそんな面倒な手順は無かった筈だから、やっぱり邪道アーツの特徴みたいだな」
「でも、できる事は多いんだよね?」
「その分成長が遅いんじゃないか?」
「でも、蒐君は【器用貧乏】持ってるよね?」
「あのスキル、Lv3以上に上がるのには効果無いよ?」
「そうなんだ……」
スキルをある程度使えるようにするという点では役に立つけど、本格的に熟練するためには、結局繰り返して練習するしかない。
「けど、【錬金術(邪道)】や【調薬(邪道)】で、レシピが解放されないってのは厄介だよな」
うん? どういう意味だろう。
「普通の【錬金術】や【調薬】は違うの?」
「基礎だか初級だかを修得したら、扱えるレシピが自動的に解放される筈だぞ?」
「何、その至れり尽くせりの仕様……」
「邪道アーツの場合は自力で探さなきゃ駄目なのかもな」
「茨の道だよね~」
気力を削られるなぁ……。




