第二十四章 トンの町 2.東のフィールド~落とし物~
今までにも【虫の知らせ】が何かを察知した事はあったけど……【落とし物】が反応するのは初めてだなぁ……何か落とし物があるんだろうか? 距離も大体判るんだけど……遠いんだよね。う~ん……どうしようかなぁ……。体力も魔力も万全とは言い難いし……あ、そうだ。
【地味】に加えて【擬態】と【隠蔽】も重ね掛けしておけばいいんじゃないか? スキルの訓練にもなるし。警戒系の四スキルに隠密系の三スキルを発動する事になるけど……うん、大丈夫そうだ。まだポーションもあるし、行ってみよう。
シルにちょっと寄り道するよって言ったんだけど、問題無いという風に頷いてくれたので、スキルの知らせる方向へと歩いていく。途中でストームウルフの群れを見かけたけど、僕たちには気付いていないようだった。隠密系スキルの重ね掛け、マジで使えるなぁ。これ良いわ。
歩みを進めるにつれて、【虫の知らせ】と【落とし物】の反応が愈々強くなる。この先に何があるんだろう。いつの間にか地面は緩やかな登りになっていた。細い山径のようなものが見えてきたのでそれを登っていると、【虫の知らせ】と【落とし物】が径を外れるように指示してくる。
「低い崖みたいになってるけど……あれ?」
スキルの言うとおりに径を外れて崖を降りていくと、洞窟のようなものがあった。【虫の知らせ】と【落とし物】は、洞窟の中に入るように言ってくる。一瞬ダンジョンかと思って身構えたんだけど、違うみたいだ。【気配察知】と【嗅覚強化】は、洞窟の中に危険な存在がいない事を教えている。
「お邪魔しまーす……」
中に入ってみると、どうやら以前に誰かが住んでたみたいだ。簡単なテーブルやベッドが設えてある。尤も、空き家になってから大分経つみたいで、家具の上には厚く埃が積もっていた。食糧貯蔵庫だったと思われる場所には、すっかり干涸らびた食べ物の残骸が残っていたし、棚の上にもいろいろな物品が残されたままだったから、普通に引っ越したんじゃなさそうだね。けど、慌てて出て行った様子もないから、出先で不測の事態に遭って帰って来れなかったんじゃないかな。何となく、家というよりアジトという雰囲気なんだけど……ひょっとして、盗賊の住処か何かだったのかな? 仕事に出かけた先で討伐されたか、あるいはモンスターに襲われたか、そんな感じがするな。
ちょっとした宝探しの気分で残された品物を漁ってみる。うん、金貨の詰まった甕が隠されていたけど。【虫の知らせ】と【落とし物】、ついでに【イカサマ破り】まであると、どんなに隠していても無駄だよね。他にも色々とお宝っぽいものがあったけど、僕が気になったのは小箱に纏められた道具一式。……これって、ポーションの作成キットじゃないのかな?
こういうのは見つけた者に所有権があるらしいから、手当たり次第にさっさとアイテムバッグに放り込んでいく。【落とし物】があるから見逃しはない。というか、自動的にアイテムバッグの中に収まっていく。楽だなぁ。いくつか収納されなかったものもあるが、どうもそれらはゴミ判定だったみたいだ。逆に言えば、拾う値打ちのあるものは全て拾ったって事なんだろう。だったらもう用はないよね。
こうして、思いがけない臨時所得にホクホクしながら、僕たちはトンの町に足を向けた。あ……ギルドに報告しなくちゃ。




