第二十二章 トンの町 4.ナントの道具屋(その1)
あのまま立ち話も何だからというので、なぜかみんなしてナントさんの店に行く流れになった。ナントさんに用事があるらしい――僕絡みだとも言ってたけど、どういう意味だろう? まぁ、僕もナントさんに買い取りをお願いしたいから構わないけどね。
「ナント、例のものは取ってあるだろうな?」
店に入るやいなやケインさんが問いかける。それに対するナントさんの答えは……
「済まん!」
うん……訳が解んないね。
「なっ! 取っておくように頼んだ筈だろうが!」
「解ってる! 重々済まん! けど、こっちも町の顔役の薬師に頼まれたら断れないんだ。……それに、シュウイ君がいれば再入荷は期待できるし……」
へ? 僕?
「あの……どういう事かお聞きしても?」
二人の顔を見比べながら訊いてみた結果、大体の経緯は判った。
「……つまり、ケインさんたちの依頼にプレーリーウルフの心臓が必要で、ナントさんから入荷の連絡があったので急いで来てみたら、ナントさんが言ったような次第でお偉方に掠め取られたと……そういう事ですね?」
「どうやらそういう事らしい」
「で、シュウイ君、プレーリーウルフの心臓って、持ってない?」
「まぁ……ありますけど……昨日お渡しした分の代金って、いつ貰えますか?」
素材が売れたんなら代金を支払って貰えるかな、くらいの気持ちで訊いたんだけど、ケインさんたちの反応が恐かった。
「……おい、ナント、只で素材を巻き上げたなんて言わんだろうな?」
「……話によっては暴れるわよ?」
「ちょっ! ちょっと待って! そういうんじゃないから! 珍素材が多すぎて即金で支払えないから、売れるまで待ってもらってるだけだから! シュウイ君! 心臓の分は払うから! 彼らに説明を!」
あ……はい、説明ですか……
「……なるほど、シュウイ少年も納得しての事なら、まぁいいだろう」
「ちゃんと適正価格を支払うのよ?」
「……いや、実のところ僕でも値付けが難しいものが多くてね。適正かどうかは自信がないんだよ……僕自身が足下を見られてる可能性もあってね……」
「まぁ……シュウ坊のドロップ品ならありそうな話だな」
「けど……まぁ、大半は売れたよ。入金され次第、代金を払うから」
「昨日の今日でもう売れたんですか?」
「……先方の食い付きが凄くてね。それで、シュウイ君?」
「あぁ、プレーリーウルフの心臓でしたね? 確か幾つかあった筈です」
本日のドロップ品を並べると……
「うわぁ……初見の素材がゾロゾロと……」
「スラストボアの頭骨、なんてぇドロップ品があるんだな……」
「スニーカークロウの羽根? 音のしない矢羽根の素材……って、弓使いの垂涎の的じゃない!」
「レイダーワームの歯……って、何に使うんだろ?」
「ワイルドベアの神経繊維?」
「何というか……プレーリーウルフの心臓がありきたりの品に見えてくるな……」
皆がわいわいと評定している横でナントさんが固まっている。どうしたのかな?
「あの……シュウイ君……これって……」
「あ、ミミックジャガーの毛皮です。綺麗ですよね」
「「「「「はぁっ!?」」」」」
「どうかしましたか?」
何でもミミックジャガーというモンスターは滅多に見つける事ができず、その毛皮の美しさとも相俟って、目の玉が転げ出して行方不明になるような高値が付いているんだそうだ。というか、王家が買い取るレベルなんだとか。
「んじゃあ、コイツも王家に売りつけるのか?」
「いや……コレくらいの品になると、きちんと手順を踏まないと大事になる。まず、この町の領主に販売して、領主から王家に献上するという形を踏む必要がある。直接王都に持って行ったりしたら、後が恐い」
「て、事ぁ……」
「ああ、シュウイ君、コレの支払いの事もあるし……済まないがまた支払いを少し待ってくれ。……本当に申し訳ないが」
「あ、いいですよ」
「じゃあ、我々だけでも、プレーリーウルフの心臓の代金を払っておこう」
「あ、どうも済みません」
「いや、こちらこそ。お蔭で依頼を完遂できる」
ケインさんから心臓五個分の代金と、絶対に買うと言い張ったベルさんからスニーカークロウの羽根の代金……そういやベルさんって弓使いだったね……あとはナントさんからも入金があった分の代金を受け取る。うん、結構な大金だね。
あ、ミミックジャガーの毛皮については、決して喋らない事をナントさんに約束させられた――ケインさんたちも。
あ、そうだ。ケインさんたちもいるから丁度いいや。相談に乗ってもらおう。
「あの……皆さんにご相談したい事があるんですが」




