第二十一章 篠ノ目学園高校(月曜日) 2.放課後
「それで、二人とも間に合ったの?」
「あぁ、何とかな。……けど、加賀のやつが急に回収なんて言い出すから焦ったわ」
「本当だよ~、加賀センセ、意地が悪いったら」
「……いや、授業前にちゃんと終わらせていれば済む話だからね」
「蒐君の言うとおりね」
「はいはい、優等生は違うよな」
「その優等生の協力を今後も得たいんなら口を慎めよ? 匠?」
「サー! イエッサー!」
一日の授業が終わって、僕たち四人は校庭の隅で雑談をしていた。そう毎日茶店に寄っていたら懐に厳しいしね。あ……でも……
「そう言えば、誰かさんたちのせいでお昼を食べる時間がなかったんだよな~。お腹が空いたな~♪」
「「う……」」
「あ~♪ 家まで保たないかもな~♪」
「うう……蒐君、この時とばかりに」
「諦めよう……今回は俺たちの負けだ……」
・・・・・・・・
や~♪ 人の勘定で食べるパフェって美味しいんだね~。勝利の味ってやつ?
「……俺、奢らされてばかりじゃねぇか?」
「それだけ失言が多いんでしょ」
「匠、失言スキルとか持ってんの?」
「持ってたらお前にやるわ……って、SROにはあるのか?」
「やめろよ! 拾ったらどうすんだよ!」
(「……運営に提案してみようかな」)
「……茜ちゃん、何か言った?」
「ううん♪ 何も♪」
結局、僕たちは今日も「幕戸」に来ている。うちの生徒は誰も「帳と扉」なんて名前で呼ばないんだよね。マスターももう諦めてるし。大体、何でこういう名前にしたんだろう? いつか聞いてみたいよね。
「それで、蒐はもう転職したのか?」
「は? 転職?」
「……してないのか? お前、レベルいくつだよ?」
「種族レベルなら6だけど?」
「……もうかよ。いや、そうじゃなくって、5になった時点でインフォがあったろ?」
「インフォ?」
「……あのね、蒐君、SROでは種族レベルが5になった時点で転職が可能になるの。勿論転職せずにそのまま冒険者を続けてもいいんだけど、転職するとより専門的なスキルが手に入るのよ。だから大抵のプレイヤーは待ちかねたように転職するわね」
「……そんなインフォ、来なかったと思うけど……」
「じゃあ、『スキルコレクター』の仕様なのかもしれないわね」
「あ~……確かにレアスキルだけじゃ転職は厳しいか」
「けど、蒐君、従魔術師に召喚術師、錬金術師に薬師、四つもアーツ持ってるよね?」
「……互いに干渉し合うとか?」
「それも考えられるけど……やっぱり『スキルコレクター』が怪しいわね」
……僕って一生冒険者決定なの?
「……いや、冒険者をフリーターって……」
「定職に就けないって意味では合ってるかもね……」
「うう……専門スキルが取れないなんて……」
「いや……そりゃ判んねぇぞ」
「匠君?」
「蒐の『スキルコレクター』なら専門スキルも得やすくなったりしねぇか? だとすると、定職に就かないって事は、逆に言えば四つの専門スキルを取れるかもしれないって事だぜ?」
「……あり得るわね」
「お~、スーパー蒐君だ~」
「茜ちゃん、それ何さ……まぁ、前向きに捉えるのは良い事だよね……」
「そうそう♪」
「楽しむためのSROなんだから、楽しまなくちゃ損だぜ♪」
匠の言うとおりだね。折角だからこの境遇を楽しまなくちゃ。




