第十九章 トンの町 1.北のフィールド
土曜日は祖父ちゃんの所に泊まったからSROには来れなかった。金曜日も学校の課題と、祖父ちゃんのとこへ行く支度やら何やらでほとんどできなかったしな。南のフィールドで薬草を取って納品しただけで終わったよ。このところギルドには行ってなかったから丁度良かったけど。下手に依頼を受けると北のフィールドに行ってるのがばれちゃうから、依頼を受けずに行ってたんだけど、そうするとギルドへの貢献度が上がらなくてランクアップが遅れるんだよ。
今後も外泊する事はあるだろうし、準備や何かに使う時間も考えて計画を立てなきゃだね。……課題は学校で片付けるのも良いかな。
そんなわけで実質二日ぶりのSRO。今日は一人で北のフィールドに来ている。目的はシルのレベリング。プレーリーウルフ程度じゃシルの相手には力不足だしね。かといって、いきなり東のフィールドでギャンビットグリズリーを相手にするのも不安だから、間を取って北のフィールドだ。PKが来るなら来るで、狩ってしまえばいいだけだしね。
「シル、今日はお前の防御力に期待してるからね。それで、僕の懐に入ったままでいいの? 自分で歩く?」
そう訊いたんだけど、シルとしては懐に入ったままの方がいいらしい。……運動不足にならないよね?
「……じゃあ、適当に歩いてこうか」
フィールドに入ってからずっとオンにしている【虫の知らせ】【気配察知】【嗅覚強化】に反応がある。……人間じゃないな。足を反応した方に向ける。
草むらがガサリと揺れ動くと、大きな影が飛び出して来た。距離は五十メートルほどだが、早い。ボウガンもナイフも取り出す暇は無いな。一旦回避して……
ドガッ、としか言いようのない音が響くと、大きな猪がひっくり返っていた。何か起きたのか考える前に身体が動く。杖先を無防備な喉笛に突き込むと、光になって消えた。ログを確認してみると、あの猪がスラストボアだという事と、何かにぶつかったように見えたのはシルが形成した力場障壁に激突したのだという事が判った。
「シル、お前がやったの?」
シルに確認してみると、当然という顔で――少し誇らしげに――頷いた。試みにシルを鑑定してみる。
《シュウイの従魔一覧》
個体名:シル
種族:ウォーキングフォートレス(幼体)
レベル:種族レベル1
固有スキル:【力場障壁 Lv1】
へぇ……レベルや何やかが表示された。以前は名前だけしか表示されなかったんだよね。初戦闘を行なった事で何かがアンロックされたのかな。……まぁ、いいや。
「シル、この調子でどんどんレベルを上げていくよ」
(コクコク)
シルは頷いて同意を示した。それじゃあ、行こうか。
・・・・・・・・
お昼頃、僕たちは見晴らしの良い草原でお昼にしていた。僕は「微睡みの欠片亭」の女将さんに頼んで作ってもらったお弁当、シルはアイテムバッグに仕舞ってあった果物を食べていた。柔らかな日射しとそよそよとした風が気持ち良い。食事を済ませた後も小半時ほどぼーっとしていたが、いつまでもこうしているわけにはいかない。
「シル、お前、このところ運動不足だろ? 少し身体を動かさなきゃ駄目だよ」
僕の言葉にシルは頷いて、元気よく歩き出す。……意外と速いんだね。
三十分ほどシルが行ったり来たりを繰り返している間に、僕はドロップ品のチェックでも……結構多いね。……うん、先にログを見直して、討伐個体数のチェックからやっておこう。
スラストボア×4頭、ワイルドボア×2頭、プレーリーウルフ×22頭、ホーンドラビット×3頭、モノコーンベア×1頭、ハイディフォックス×1頭、サイレントホーク×1羽、スキップジャックヴァイパー×1頭、ファイアリザード×3頭、インビジブルマンティス×1頭……
スラストボアは最初に狩った猪で、プレイヤーを見かけると問答無用で突っ込んで来る脳筋らしい。身体が大きくて硬いので、北のフィールドでも危険物扱いらしい。ワイルドボアはそれより小さなイノシシだけど、こいつも気が荒かった。モノコーンベアは頭部に短めの角が一本生えた熊で、体長は二メートルくらい。こいつもスラストボアと同じように攻撃してきたので、同じように狩った。ハイディフォックスは姿を消して襲ってくる狐だけど、シルの力場障壁を抜く事ができず戸惑っているうちにお陀仏。サイレントホークは兎の肉を盗ろうとして空から音もなく降下してきたんだけど、【虫の知らせ】【気配察知】【嗅覚強化】のトリプルコンボを誤魔化す事はできずに、その身を以て罪を償った。スキップジャックヴァイパーはジャンプして襲ってくる短躯の蛇で、伝説のツチノコみたいな感じだった。ファイアリザードは火魔法を使う蜥蜴だけど、シルの力場障壁を抜く事はできず、火を収めたタイミングでクロスボウを撃ち込まれてお終い。インビジブルマンティスという二メートル近いカマキリも狐と同じように姿を消して襲ってきたけど、やっぱり結末も同じだった。
うん……ちょっとだけ多いかな、ちょっとだけ。いつの間にか狩ったモンスターが十種類。当然、ドロップしたアイテムの種類はそれ以上になっていて、アイテムバッグは三つ目に入っている。……レベリングは順調だけど、そろそろ引き上げを考えるタイミングかなぁ……。ここ、北の門から結構離れてるしね。帰りにもモンスターに出くわすだろうし……。よし、戻ろう。
「シル、そろそろ引き上げようか。帰りにも何か狩れるだろうしね」
そう言うとシルは少し考えていたけど、やがて頷いて僕の方に歩いてきたので、拾い上げて懐に入れる。まだ陽は高いけど、常に余力を残しておかないと駄目だって、祖父ちゃんがいつも言ってたしね。
PKを狩れなかったのが心残りだなぁ……。
次話は金曜日に投稿の予定です。




