第十六章 トンの町 1.南のフィールド(その1)
ログインすると「微睡みの欠片亭」の自室のベッドだった。起き出してシルに朝ご飯を食べさせる。
「シル、今日はフィールドに出るけど、女の子たちがいるから懐から出ないように。でも、万一危なくなったら、お前が頼りだからね?」
そう言うと、シルは任せろという具合に頷いた。さて、シルが朝ご飯を食べている間に、食堂で僕も朝ご飯にありつくとしよう。
宿を出て南門に向かう。今日の装備はクロスボウと杖、それと昨日作ったボーラが中心になる予定だ。女の子たちの前でレアスキルは使わない予定だけど、掲示板や攻略Wikiを見た限りでは何とかなりそうだ。
待ち合わせ場所の南門に向かうと、既に二人が待っていた。
「ご免、待たせた?」
「そうでもない」
「私たちが早く来過ぎただけだから、気にしないで」
「じゃ、早速行こうか」
待っていた二人と臨時にパーティを組む。戦闘の経験値を分配するためだ。目的地に向かいながら、南のフィールドについて二人から情報を聞き込んでいく。僕はこっちのフィールドには来た事がないしね。
「……北や東のフィールドに行く方が凄いんだけど……」
「町の壁からそんなに離れてないし、危険ってほどじゃないよ?」
「壁の近くでも襲われる事はあるのよ?」
「シュウイ君、レベル、幾つ?」
「メイ! 他人のレベルを詮索するのはマナー違反よ」
「Lv3だよ」
種族レベルくらいなら、別に知られても構わないよね。
「お~、高~い」
「私たち、まだLv2なのに……」
そんな会話を続けながら歩いていると、やがていかにもな感じの草原に着いた。
「ここが目的地?」
二人にそう訊ねると、ニアが言いにくそうに切り出してきた。
「そうなんだけど……シュウイ君、悪いけど、最初のうちは私たちのレベリングに付き合ってくれないかな?」
聞けば、レベルが低いと舐められてテイムが失敗する事があるという。一度失敗すると、その日のうちは同種のモンスターへのテイム成功率が低下するらしい。これはサモンの契約も同じなんだそうだ。なので、可能な限りレベルを上げて挑みたいとの事。僕としては別に異存はない。
「じゃぁ、最初のうち出てくるプレーリーウルフは狩っちゃっていいの?」
「え? あ、うん、お願い」
「ウルフがいなくなったりしない?」
「ここは半分くらいチュートリアル用のフィールドみたいなものだから、いなくなったりはしないと思う」
「じゃあ、あそこにいる群れに一発入れるね?」
「え?」
「どこっ!?」
「あそこの草むらだよ?」
門を出てからずっと、【虫の知らせ】【気配察知】【嗅覚強化】をオンにしていた。PKだっているしね、用心するのは当然だ。常在戦場って、祖父ちゃんも口癖みたいに言ってるし。
「判んない……」
「シュウイ君、よく判るね」
「二人とも、気配察知は取ってないの?」
二人とも取ってないと言う。フィールドに出る以上、取っておいた方が良いんじゃない? そう言うと、二人はすぐに取得して有効化していた。いいなぁ……。
「あっ! 判る!」
「本当……あそこに何かいるわね」
「来るよっ! 構えてっ!」
五頭のプレーリーウルフの群れが、草むらを飛び出して僕たちに向かって来た。
すぐにクロスボウを構えるけど、動きが速い。一発撃つのが限度だろう。その一発は外れることなく先頭のプレーリーウルフに命中し、ウルフの身体を光に変えた。
クロスボウを脇に捨てて、杖を構える。【杖術】スキルは無いけど、子供の頃から祖父ちゃんに仕込まれた歌枕流には杖術もある。考える間も無く身体が動き、先頭のウルフの口の中に杖頭が打ち込まれる。
歌枕流は修験者の護身術として発達した武術だから、対人戦だけでなく狼や熊に対する戦闘技術も、形だけは伝えられている。……SROのモンスターに通用するかどうかは判らないけど、プレーリーウルフは狼と大して変わらないので、歌枕流の技は有効みたいだ。
口の中に突っ込んだ杖を引き抜く間もなく二頭目が腕に食い付こうと突っ込んできたので、両手で持った杖の腹を口に銜えさせるように押し込んでから、ハンドルを切るように杖を回して腰を切ってやると、噛み付こうとしていたウルフが振り落とされる。すかさず踏み込んで喉笛を踏み潰す。後ろから来た三頭目には、振り返りもせずに杖尻を付き込んで払う。振り返りざまに杖で喉笛を突き破って仕留める。……あ、これじゃ二人のレベリングにならないよね……。
最後の一頭が逃げ出したのを、取り出したボーラを投げて絡め倒す。
「メイ! 倒れたウルフに攻撃!」
「……あ、はい!」
ぼーっとしていたメイを叱り飛ばして攻撃させる。君たちのレベリングなのに、何ぼんやりしてくれちゃってるの? ……あ、最初に口の中に杖を突っ込んだウルフ、まだ死んでないや……。
「ニア、あのウルフに留め」
「はっ、はいっ」
二人とも無事に留めを刺せたようだ。ゲームではモンスターに留めを刺した者がレベルアップするみたいだから、二人のレベルも少しは上がった筈だけど……
「プレーリーウルフが向かってくる間、何もせずにぼーっと突っ立ってたよね?」
「ご、ご免なさい」
「五頭ものウルフが向かってくるのを見て硬直しちゃって……」
「次からは注意してね。戦闘では動けない者から殺されるんだよ?」
「「は、はひっ!」」
何か噛んでるみたいだけど……本当に大丈夫かな?
近くにアクティブなモンスターはいないようだから、いまのうちにドロップ品とかを確認しよう。このゲームでは、ナイフを振るってドロップ品を剥ぎ取ったりする必要はないらしい。アイテムバッグの中にちゃんと入っていた。
「わ! 魔石と毛皮が入ってる!」
「嘘……こっちにも」
あ~……【解体】と【落とし物】の効果かぁ……。
「それ、多分僕のスキルのせいだと思う。詳しくは言えないけど」
そう言うと二人は何か聞きたげな視線を向けたけど、追及するのは諦めてくれた。
「判った!」
「こうして御利益を得ているんだから、余計な詮索は無粋よね」
「それより、二人ともレベルは上がったの?」
「う~、まだ」
「さすがにあれくらいじゃ無理よね……」
「じゃ、レベリングのためにどんどん行こうか。次からは積極的に攻撃してね?」
「う~……」
「……頑張ります」
あ、僕の方はなぜか杖術スキルの【突き】と【払い】を獲得してた。【般若心経 LvMax】の事もあるし、現実で習得しているスキルはSROに持ち込めるみたいだ。「スキルコレクター」も、これは妨害できないみたいだね。
ちなみに、LUC値には変化無し。イベントじゃないから「神に見込まれし者」の効果は無いって事だね。
次話は金曜日に投稿の予定です。




