第十五章 篠ノ目学園高校(木曜日) 1.昼休み
「え? 蒐君、テムジンさんと知り合ったの?」
昼休みの屋上でいつもの四人でお弁当してると、茜ちゃんが驚いたように聞いてきた。
「うん。イーファンの宿場からトンの町へ帰る乗合馬車で知り合った」
「毎度の事ながら、蒐の人脈はおかしいよな」
「普通はそうそうβテストプレイヤーと知り合ったりはしないのよ、蒐君?」
「何でさ。三人ともβプレイヤーじゃん。それに、ナントさんを紹介したのは匠じゃん」
「……俺たちを除いても、開始から一週間程度で六人は多いだろ?」
「その数え方、おかしいよ。ケインさんたちは五人で一チームなんだから、知り合う時は一緒じゃん。六人でなく、二件って数えるべきだよ」
「……そうなの?」
「……一理あるわね……」
僕の正当な異議申し立てが認められたみたいだ。うん、道理は強いよね。
「でも、テムジンさん、トンの町に工房を構えたのね」
「生産プレイヤーのトップだろ?」
「鍛冶以外にも生産職はいるけど……やっぱりトップなのかしらね」
「他にどんな生産プレイヤーがいるの? 個人名じゃなくて、分野で」
「あ~、鍛冶の他には……革細工、裁縫、調薬、錬金、料理……って、一通り揃ってるな」
「アーツを取得してるのはテムジンさんだけみたいだけどね」
「匠たちはどうなのさ」
「……聞くな」
「む~!」
「蒐君、アーツってそう簡単に取得できないのよ?」
うん。僕のは隠しクエストの報酬だしね。けど……
「SROって、現実のパーソナルスキルがキャラクターにも反映されるっていうのが売りじゃなかった? 匠の剣道はどうなのさ?」
「いや……俺、双剣使いだから……」
「はぁっ!? 何でそんなキワモノ選んだのさ!?」
「現実にはあり得ねぇスキルを取るのがロマンだろうが! それに、ゲーム内じゃ双剣使いって珍しくないんだよ」
「そうだよ! あたしもそれで魔法使いにしたんだし」
う~ん……それもそうかぁ……。
「あれ? じゃあ、アーツを取ってるプレイヤーって、戦闘職にも少ないの?」
「あぁ。大剣術や双剣術は剣道とかなり違うし、刀術はあるんだけど日本刀が売ってなくて死にスキル化してる。体術も、蒐が言ってるようにモンスター相手じゃ勝手が違うし、弓は当たらないしな」
「あ、弓が当たらない理由、判ったよ」
訓練場で得た情報を教えておこう。この情報が広まれば、弓を見直すプレイヤーも出てくるかもしれないしね。
「……成~る程~、筋力不足で弓が引けないのかぁ~」
「確かに、弱い弓じゃ飛ばないから、直射で当てようとすると至近距離になるな」
「焦って射ても届かないから、不遇スキル扱いされたんでしょうね」
「山なりの弾道だと当てにくいしね」
「……だとすると、弓はある程度プレイヤーのステイタスが育ってから取るべきなのか?」
「それか、初期設定でSTRとDEXに振っておくか、だね」
「え? DEXもなのか?」
「不器用な人間が的に当てられる訳ないじゃん」
「お~、納得」
「蒐、この情報、掲示板に上げたか?」
「上げてないよ? 弓を取るプレイヤーなんかいないって言ったのは匠じゃん」
「確かにそうなんだが……もうすぐ第二陣の参入があるだろ?」
あ……そうか。僕は匠のβプレイヤー特典でゲーム機とソフトを――安く――購入できたけど、市場では今も品切れ状態だし、もう少しすると第二次募集があるっていってたな。
「新規参加のプレイヤーのため?」
「まぁな。第二陣の参加より前に公表しないと、情報の秘匿だとかなんだとかうるさい連中がいるからな」
「う~ん……悪いけど匠がやってくれない? 僕が上げるよりもネームバリューがあると思うし」
「そうだな。これでも一応βプレイヤーの端くれだし、知人からの情報って事で上げとくわ」
「悪い、帰りにジュースかなんか奢るよ」
「お~、蒐君の奢りだ~」
「ご馳走様、蒐君♪」
「ちょっ! 何で二人も……って、要ちゃん、一緒に帰れるんだ?」
「えぇ、毎日は無理だけど」
「あ、じゃあ、放課後に。丁度チャイムもなったし」
「ええ、放課後に」
「カナちゃん、再見~」
次話は金曜日に。




