第十四章 トンの町 4.宿屋
僕は――少なくとも当分の間は――この町に滞在する事に決めた。いい人たちが多いしね。訳ありの僕としては、アドバイスをしてくれる人が多いほど助かる。そうと決まれば宿の確保が重要だ。今泊まっている宿――「微睡みの欠片亭」――は客扱いも良いし料理も美味い。あそこを定宿にしたいけど、長期契約ってできるのかな? 確かめておかなくちゃ駄目だね。
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結論から言うと大丈夫でした。朝と晩の食事付きで、とりあえず一ヵ月分を前払いして契約した。普通は一泊二百五十Gなんだけど、割引がついて七千五百Gになった。今の僕なら余裕で払える。あ……でも、大きいアイテムバッグは欲しいよね……安くて百八十万かぁ……。
PKや盗賊の懸賞金やドロップ品を当てにするのは非推奨プレイだって茜ちゃんに釘を刺されたからなぁ……真っ当な稼ぎとなるとモンスター狩りかぁ……。攻撃や防御のスキルを持たない僕としては、あまり気が進まないんだけどな。けど、匠の言うとおり、ずっと引き籠もってる訳にもいかないし……シルに頼るしかないよね。
そのシルは、町の露店で買ってきた果物をご機嫌でパクついてる。懐に入れたままでも、僕が見ているものなんかはなんとなくシルにも感じ取れるようで、食べたい物を見つけたらそういう感情が感じ取れるんだよ。【従魔術(仮免許)】のアーツに含まれる【従魔との絆】っていうスキルのせいだと思うんだけど。
「シル~、果物ばっかり食べてると大きくなれないぞ~」
そう言っても、シルは片目でこっちを見るだけで、果物から離れようとしない。うん、僕もお相伴してるけど、確かに美味しいんだよね。マンゴーとメロンのハイブリッドみたいな感じで。
それにしてもよく食べるなぁ。さっきから、自分の身体と変わらないくらいの体積を食べてるんだけど……うん、美味しいけどさ。さて……
「シル、僕は夕ご飯を食べてくるけど、お前はどうする? 一緒に来る? それとも、このまま食事を続ける?」
そう問いかけると、シルは僕の顔と果物を交互に見て考え込んでいる。従魔としての義務と果物への未練が半々ってところかな?
「いいよ、そのまま食べておいで。けど、果物ばかりじゃなくて、お肉も食べるんだよ?」
果物と一緒に出しておいた生肉――塩分を取りすぎると健康に悪いから――を指差して言ってみると、シルは肉の方をちらりと見て、気が進まない様子で頷いた。生肉は口に合わないのかな? 従魔のための食事ってどんなのか、明日二人に会ったら聞いてみようか。いや……ログアウトしてから、カメの餌について調べてもいいかな。運営だって、現実の飼い方から大きく外れた設定にはしてないだろうし……。小学校の飼育係の時には、カメの餌はミミズって教わったんだけど……SROにミミズがいるかどうか判らないし……。ワームとかだったらどうしよう……。
夕飯から帰ってみると、シルはちゃんとお肉も食べていた――果物も綺麗さっぱり消えていたけど。気持ちよく眠っているようだから、そのままにしておく。
掲示板をあちこち覗いてみたけど、従魔術師スレにも召喚術師スレにも、従魔の餌に関する話題は上がっていなかった。というか、まだ従魔を得たプレイヤーの方が少ないみたいだね。僕は例外かぁ……。当分はシルの事も隠しておかなきゃ駄目みたいだ。
ナントさんの店で買った縄と錘で、ボーラっぽいものを作り上げる。【日曜大工】のスキルが効いてるのかも知れないけど、単に錘を縄に結び付けるだけだからね。子供の頃に作った事があるし、失敗する要素はない。明日はこれが役に立つかな?
あ、言い忘れてたけど、シルは【従魔術(仮免許)】の方に従魔として登録されていた。
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《シュウイのスキル/アーツ一覧》
レベル:種族レベル3
スキル:【しゃっくり Lv1】【地味 Lv3】【迷子 Lv0】【腹話術 Lv2+】【解体 Lv5】【落とし物 Lv6】【べとべとさん Lv2】【虫の知らせ Lv2】【嗅覚強化 Lv1+】【気配察知 Lv1+】【土転び Lv1】【お座り Lv0】【掏摸 Lv0】【イカサマ破り Lv0】【反復横跳び Lv0】【日曜大工 Lv1】【通臂 Lv1】【腋臭 Lv1】【デュエット Lv5】【般若心経 LvMax】
アーツ:【従魔術(仮免許)】【召喚術(仮免許)】
ユニークスキル:【スキルコレクター Lv4】
称号:『神に見込まれし者』
従魔:シル(従魔術)




