第八章 ナンの町 2.レイドクエスト?
ケインさんたちに連れて行ってもらった食堂は、見た感じトンの町の食堂とそっくりだった。運営さんもこういうところで制作費を節約してるのかな。でも、働いている人たちはさすがに別人だね。ちなみにメニューもほとんど一緒らしいけど、メニューの善し悪しが判らない僕は、素直にお勧めを注文した。
「さて、懸案の換金も無事に終わって祝杯といきたいところだが、まだ陽は高いからそういう訳にもいかん。が、とりあえず一杯だけは飲ってくれ」
そう言ってケインさんがビールっぽいのを注文すると、他のメンバーから歓声が上がった。ゲーム内では酔うというバッドステータスが存在しないから、昼間からお酒を飲んでも平気らしいが、ケインさんはけじめとして昼酒をしないみたいだ。ちなみに僕はどうするか訊ねられたから、勿論飲むと答えたよ。リアルでもビールくらいなら、時々晩酌の付き合いで飲んでるしね。
「ちょっと意外だったわね。真面目そうに見えたのに」
「僕は真面目ですよ? 真面目だから、国が許可してるゲームなら大丈夫なんだろうと、素直に信じちゃうんです」
「……真面目なのかもしれないけど、結構強かよね」
食事と料理が運ばれてきたので、飲み食いしながら談笑する。しばらくしてからケインさんが徐に僕の方を向いて切り出した。
「シュウイ少年が話してくれた首都への街道閉鎖の件だが、冒険者ギルドで裏が取れた。閉鎖から既に一年以上経ってるので、話題に上らなかったという設定らしい。凶暴なモンスターが途中に居座っているため、ナンの町から首都へ行く街道は閉鎖になってるそうだ」
「商人の人は山崩れとか言ってましたけど」
「あぁ、それも確認した。山崩れが起きたのは、モンスターのいる場所の少し手前らしい。山崩れの調査に行った連中が、モンスターを発見したらしい」
「んで、結局どうすんだ? ケイン」
「ギルドで聞いた限りだと、最低でもAランクのモンスターが複数いるそうだ。俺たちだけじゃ手に負えんだろうな」
「Aランクが複数って……レイドボス?」
「その可能性が高い」
「現在、他にパーティはいないのか?」
「自分の知り合いにはいないが……」
……匠や茜ちゃんもこの町にいると言ってたよね。連絡してみようかな……あ、僕、茜ちゃんの連絡先知らないや。匠に聞けばいいかな?
「あの、ケインさん、僕の友人がこの町にいる筈なんですけど、連絡してみても良いですか?」
「シュウイ少年の? ……ふむ、別に隠しておく必要もないな。皆に異存がなければ自分は構わないが?」
他のメンバーの了承を得た上で、僕は匠――タクマだっけ――にウィスパーチャットで連絡を入れたんだけど……
『うぁ~……ナンの町に着いたのかよ……』
『今日着くっていったじゃん』
『茜――センが、シュウイはきっとどっか寄り道して遅れるっていうもんだから、半日ほどの護衛仕事入れちまったよ。ちなみにセンたちも一緒』
『あ? じゃあ、皆ナンの町にはいないんだ?』
『ああ。何か用事か?』
『う~ん、首都へ行く道にAランクモンスターの群れがいて街道を封鎖してるっていうから、ケインさんたちと様子見に出かけようかって話になってんだけど……』
『はぁ!? そんな話、聞いてないぞ?』
『住民と会話しないと聞き出せないみたいだよ? 一応ケインさんがギルドで裏も取ったみたい』
『マジかよ……シュウたちは行くのか?』
『人数が集まらないと厳しいかもね』
『この話、他に流してもいいのか?』
『あか――センちゃんたちには伝えて欲しいかな。僕、彼女たちの連絡先知らないし。他に連絡するかどうかは、タクマに任せるよ』
『あ~……解った。また連絡する』
「……という訳で、猫の手は集まりませんでした」
「いや、猫の手って……」
「こっちも人員調達に失敗したし、クエストに挑むのは無理のようだな」
「でもよ、下見ぐれぇはしといた方がよかぁねぇか?」
「……そうね。Aランクモンスターともなると、いきなり本番は厳しいかもね」
こういう流れで、今回は下見だけという事になった。
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「いや、あれは二パーティや三パーティじゃ無理だろう」
僕たちは遠目にこっそりとAランクモンスターの群れを観察しているんだけど、Sランクと言っても通りそうな大物が三頭、その他にAランクが五頭以上いる。完全にレイドボスだよ、あれ。
「それが判っただけでも収穫だ。気付かれないうちに戻ろう」
全員の意見が一致して、速やかに撤退したんだけど……何だろう、この感じ。




