Vol.34 Benedict side
どこかの電子の海。
0と1が流れる中、男と女は会話していた。
互いのアバターが向かい合っているが、実際は何万光年も離れた場所にお互いの本体を置いている。
『陛下陛下ー、最近ずっとこのルートばっかりですね』
『仕方がない。全部を救おうと欲張れば、自然とハーレムルートになってしまうから』
『ぶ~。私的にはあんまり面白くないです』
『お前さんだって、聖鍵に一度入れば俺と会話できるんだから我慢しろよ。で、どう? 今回の俺は』
『いつもより若干、内罰的というか……抱え込んでますね』
『地球で暮らしてる間のことは、俺達じゃあ調整のしようがないからなぁ……』
『あんまり正義感強くても、最初のゴズガルド戦で無謀な戦いとかしちゃうから、これぐらいがいいと思いますよ~?』
『我ながらチュートリアルで死ぬなよなって思うよ』
『でも、シーリアさんが凄いスピードで駆けつけて、助けてくれることもあるじゃないですか。あのときぐらいですよね、魔王城に直接乗り込むルート』
『予言を無視するからには、相当なリスクもあるんだけどな。ザーダスもディーラちゃんも死んじゃうし』
『ディオコルトのせいで、リオミさんが第二の魔王になっちゃいますしね~』
『ガチで聖鍵乗っ取られて、散々だったなぁアレ。1回しかなかったのが幸いというか、なんというか』
自分たちに関わることだというのに。
彼らの言葉には、悲壮感がなかった。
まるで、他人事のよう。
情報電子生命体になってしまった彼らには、人間らしさがあまりない。
『そういえば、やっぱりシーリアさんとザーダスさんって、両方生き残るには、真実を話さないとか、記憶操作とかしかないんですかね』
『……今のところ、そこから先に進んだ俺はいないね』
『今回もやっぱり、そうなんでしょうかね~?』
『…………』
男のアバターが沈黙する。
やがて、実際の時間にして2秒。
男が口を開いた。
『もし、そこが突破できることがあるなら……』
『あるなら?』
『ひょっとしたら、あの俺がエンディングになるかもわからんね』




